ぬいぐるみは見た!

藤城亜矢

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I'm a present

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 都会のとあるデパートの、キャラクターショップに売られていたあたしを買ったのは、20代後半であろうお姉さんであった。10月の終わりのことだった。
 あたしは入荷されてけっこう経つ、熊のぬいぐるみ。
 サイズは、とても大きい。
 入荷されてけっこう経つおかげで、同じ店に並べられてる同類との会話や、テレパシー(「メール」と表現する者もいるが)で離れたところにいる同類と会話できる機能を使って、様々な知識を得た。

 さて、あたしがそれまでいた売り場の次に行った先で、
「リボンを巻いてください」
 と彼女は言った。
 売り場の次に行った先というのはサービスカウンターというところで、あたしの目の前で赤いリボンが躍る。
 どうやらあたしの体に巻くらしい。
 そして赤いリボンを巻かれたあたしと、あたしを抱えた彼女は、多くの通行人に見られた後で、
「タクシー!」
 と彼女はあたしを心持ち上にあげて叫んだ。
 あたしと彼女の目の前で自動車? が1台止まった。
 これがタクシーというやつらしい。
「三茶お願い」
「はい」
 短いやり取りの後、車は、車通りの多い道を走りだした。
 あたしは、彼女の隣に座らされて、改めて自分の大きさを思い知った。

 彼女の住む場所らしいアパートについても、あたしの体からリボンが外される様子はない。
 その後わかったことは、彼女はフィギュアスケートというスポーツが好きらしく、そのテレビ中継を、欠かさず見ていた。スポーツ新聞で試合結果が大きく扱われている日は、買ってきて読んでいた(朝のテレビ番組で、その日の新聞の内容をチェックする番組があって、そのおかげでスポーツ新聞にフィギュアスケートの記事があるかわかるのだとか)
 テレビ中継のおかげで、日本人の名前の傾向は、あたしの頭に入ってきたみたい。
 あたしの位置からは、テレビが半分ほど目に入る。あたしたちぬいぐるみは、腕や足、顔の表情はおろか目線さえも動かせないので、彼女が動かしてくれない限り、半分しか見れない。
 きれいな衣装。
 優雅な音楽。
 すらりと伸びた手足の選手。
 きれいな世界で、あたしもフィギュアスケートというスポーツが好きになった。
 
 冬になった。
 街はクリスマス商戦真っ盛り。赤と緑に染まってる。同類からの買われた報告も毎日のように受信する。そして幸せになってねと返事する。
 ところで、彼女と暮らして2か月近くになるが、どうも優しい態度を見たことがないんだよな。
 なんでだろ。

 クリスマス当日。
 平日なのに、彼女は朝から家にいる。
 そして午後、小さなバッグとあたしを抱えて、またタクシーに乗った。
 タクシーが付いた先は、大きな建物だった。
「すみません」
 入口で彼女は、苦労しながらバッグからチケットを出して、中に入る。係員に謝りながら。
 彼女はここに何をしに来たんだろう?

 中に入って1時間。
 選手が6人、出てきた。
 ここはフィギュアスケートの試合場だ!
 ということは、今日あたしは、あのリンクに投げ込まれるってこと? 
 これまで中継で、人気の選手の出番の終わった後には、お花だけじゃなくぬいぐるみ、あたしの同類もかなり投げ込まれていたのをあたしはテレビで見た。
 ということはあたしは、彼女が好きな選手への、プレゼント用に買われたのね。
 今日、はっきりわかった。

 今日は「全日本選手権」というやつで、日本人選手しか出ていないらしい。呼ばれる名前がいつもと違う順番だから、それで分かる。
 女子の日だ。
 6人選手が出てきて6分間滑った後、一人ずつ選手が出てきて滑る、というのを3回繰り返した。
 いつも画面の半分しか見られなかったのが、すごく広く見れて、あたしは幸福感を味わっていた。しかもたくさんの選手を。
 ほどよく高く、ほどよくリンクに近い位置で。

「25番……ーー――」
 と番号と選手の名前が呼ばれた。
「―ーーー!」
 彼女が選手の名前を叫ぶ。
 選手は、キレイな赤い衣装で、優雅な音楽に乗って、氷の上で踊り始めた。
 選手がくるくる回って、ポーズを決めて、演技が終わる。
 彼女は、選手の名前をひと声叫ぶと、あたしを頭の上まで持ち上げた。
 次の瞬間、あたしの体が宙に浮いた!

 あたしはリンクに投げ込まれていた。
 体は、多分横になっている。寝転んでいる、と言っていい格好。右側が下になっているのかな?
 下になっている右側に何か冷たいものを感じた。
 目の前にスケート靴が現れた。
 抱き上げられた。
「誰よこんな大きいの投げ込んだのーっ」
 と抱き上げた彼女は文句言ってる。
 投げた彼女に対する文句ね。

 それからあたしは、その選手の私室で、他のぬいぐるみたちと、なんだか雑なコミュニケーションをとりながら暮らしてる。
 この選手は人気があって、ぬいぐるみが好きらしく、試合のたびに増えてるようで、あたしは部屋に一歩足を踏み入れた瞬間(大きいのであたしだけひとりで選手に抱かれて入った)、
『『『いらっしゃ~い』』』
 と、先輩たちに迎え入れられたのだった。
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