ぬいぐるみは見た!

藤城亜矢

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ご主人はフィギュアスケーター

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『今度の四大陸選手権に連れてってもらえるのはどの子だろうね……』
 ある時、部屋の壁一面に飾られたぬいぐるみたちは、それまでうるさくしてたけど、ぴたっと黙った。
 ご主人は、フィギュアスケートの選手だ。女子。
 なんでも、試合のたびに、ぬいぐるみを2,3連れてって、客席に置いたり、キスアンドクライという、演技直後にコーチと一緒に演技の審査結果を聞く場所に置くのだそうな。
『うるさくしててもご主人にゃ聞こえないから、静かにしろって言っても意味ないしなあ……』
 長老? らしい、御主人が中学生――ジュニアの頃からいる大先輩はつぶやいた。

 ご主人がお風呂から出たようだ。
 濡れた黒髪をタオルでまとめて、パジャマ姿で、あたしたちの前に立つ。
 大きな瞳をきょろきょろさせて、あたしたちを見まわした。
 次の瞬間、御主人は笑顔で、5列に並んだあたしたちの中から、5個ほどぬいぐるみを抜いた。
 抜かれた者の隣にいたぬいぐるみの、
「キャーッ」
 という、叫び声のような周波が聞こえる。
 床に落ちて大きな周波を出したぬいぐるみはすぐさまご主人に拾われて元の位置へ。
 よく見るとご主人の足元には、大きなカートがあった。
 選ばれたぬいぐるみたちは、カートに詰め込まれていく。
『達者でなー』
『何か違うでしょそれ』
『しっかり応援して来いよー!』
『結果あたしたちに伝えてね!』
『頼んだぞー!』
 残されたあたしたちは、口々に叫んだ。
 カートがご主人の右手によって、閉じられる。

 それから数時間後、大きな荷物をガラガラ引く音の後で、パタンと扉が閉じられる音がした。夜の飛行機なのかもしれない。
 ご主人は、あたしがご主人に引き取られる(正しくは、ご主人のファンである、あたしを新宿のデパートで買ったカノジョが、昨年末の全日本選手権の際にリンクに投げ込んだのだが)きっかけとなった全日本選手権で、メダルを取ったので、四大陸選手権という海外の試合に出かけて行った。
 10日くらいは帰ってこない。
『寂しいねえ』
『ご主人のお母さまもあたしたちを構っちゃくれないしねえ』
『あっ、受信入った!』
『なになに?』
 首に赤いチョーカーを付けた、やはり熊のぬいぐるみが叫んで、反応した奴が1名。
『うるせえ、大事な試合近いのにくだらんこと言ってくんな!』
 吐き捨てる赤チョーカーに、
『ナンパでもされたの?』
 姿は見えないし、逢えもしないのに、メル友にならない? みたいな感じで声をかけてくる者がいるようなのだ。
 
 数日後。
『なになに? ご主人ショートプログラム2位だって?』
『えーっ!』
『やったあ!』
 そして、あたしたちは、ご主人が四大陸選手権でもメダルをいただいたことで盛り上がっていた。

 世界選手権を控えたある日。
 また笑顔でご主人があたしたちの前に立つ。
 ふと、あたしの身体がふわっと浮き上がった。
 やった! 連れてってもらえるんだ!
 それからは、嬉し過ぎてしばらくの記憶がない笑

 世界選手権会場は、とても広い会場だった。
 席に置かれて、先輩たちと戦況を見つめるあたし。
 ご主人は、青い衣装を身にまとって、リンクの中で輝いていた。
 そんなご主人を観れて、あたしはとても幸せだ。


                     FIN

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