30年待たされた異世界転移

明之 想

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第1章 オルドウ編

夕連亭 10


 そういえば、以前の時間の流れの中で異世界に行くために、こんなようなものを集めていたことがあったな。

 が、まだこんな物に興味を持ってしまうなんて。
 手に取らずにはいられない。

 円柱形の木彫りに手を伸ばし、その表面を手で触れる。

「痛っ!?」

 次の瞬間、静電気のようなものが指先に走り、手を引いてしまう。
 と……。

 ガタン!

 木彫りが台座から床に落ちてしまった。

 まずい、この音で俺が隠れていると気付かれる。
 動揺しながらも、身を潜め、気配を消し、しばし時間を過ごす。

「……」

 冷汗が頬をつたう。

「……」

 シャツが汗に濡れる。

「……」


 大丈夫……か?
 特に変化は見られない。
 幸いなことに、食堂の近くにはまだ誰もいなかったのだろう。

 ホッと安心した俺の目の前には床に落ちた木彫り。
 注意して手に取ってみると、静電気は流れなかった。
 それは良かったのだが、木彫りを確認してみると……!?

 ひびが入っていた。

 ……。

 台座に戻し、再度確認するも、ひび割れに変わりなし。

 これ……安物じゃないよな。

 それなりに高価な品物に見える。
 仮に高価ではなかったとしても台座に飾ってあるくらいだから、大切な品なんだよな。

「……」

 少し乾いていた背中を冷汗がまた湿らせる。

 いや、待て、この台座から落ちたくらいでひび割れするか?
 元々あったキズなんじゃないのか。

 そんなわけない……か。

 ……謝って弁償しよう。


 って、今はそれどころじゃないんだった。
 食堂内を見渡すが。

 ……。

 変わりはない。

 よかった。

 しかし、こんな場面で何やってんだか。
 緊張感なさすぎだ。

「……」

 とはいえ、これで気が楽になったのも確か。
 今回は怪我の功名ということにしておこう。


 と思って数分後。

 食堂の入り口の方からかすかに音が聞こえてきた。足音?
 扉を開け入って来たのは、ウィルさんとヨマリさん。

「母さん、こんな時間に何なの?」

「話があるって言ったでしょ」

「部屋ですればいいのに」

「ここの方が誰にも聞かれないわ」

「そうだけど……。ふぁ~」

「人前でそんな欠伸しないの」

「母さんしかいないでしょ」

「それでもよ」

「その話の前にひとつ聞きたいんだけど、そもそもどうして急にこっちに来たの?」

「それは、あなたと話をしたかったからよ」

「嘘ね。お母さんの嘘は分かりやすいから」

「嘘というわけではないけど……」

「それはもういいから。で、オルドウにどんな用事があったの」

「……予言よ」

「え?」

「あなたも知っているでしょ。予言の確認に来たの」

「お母さん、まだそんなの信じてたの」

「……」

「そんなの、でたらめだって」

「……」

「それで、何か見つかったの?」

「多分……。でも、まだ分からないわね」

「どうせ見つからないよ」

「そんなことないわ、ウィル」

「もう予言なんて無視しちゃえばいいのに」

「……」

「まあ、予言はどうでもいいから。それで、お母さんの話って何?」

「それは……」

「何?」

「あなたのお母さんとお父さんの話よ」

「母さんは母さんじゃない」

「ありがと。でも、何を言いたいのかは分かるでしょ」

「……」

「あなたの本当のお母さん、私の姉ユマリはあなたを産んですぐに亡くなったわ。父親も既に亡くなっている、そう話していたわよね」

「それで何。どうして急にそんな話をするの?」

「話す必要ができたからよ」

「どういうこと?」

「それも含めて話すから聞いてちょうだい」

「……分かった」


 これって、聞いていい話なのか。
 耳を塞ぐべきなんだろうか。

 でも、そうすると襲撃者の立てた音を聞き逃すかもしれないし。

 とりあえず、このまま……。




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