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第2章 エンノア編
エンノア 16
しおりを挟む療養室に向かう途中。
「薬の効果は……あるのだろうか?」
サキュルスさんがぽつりと呟く声が耳に入ってきた。
「……」
フォルディさんは口を閉ざしたまま。
「効果はあると思います」
17名の患者さんには間違いなく効果はあるだろう。
それは前回で実証済みだ。
問題なのはアデリナさん。
彼女にも効くと良いのだが。
「だと良いのですが……」
「サキュルス、失礼なことを言うものじゃないよ。何の義理もないコーキさんが、こうしてエンノアのために力を尽くしてくれているのだから」
「あっ、そう言うつもりでは。申し訳ありません、フォルディ様」
「謝る相手が違うだろ」
「コーキ殿、申し訳ございません」
立ち止まって頭を下げてくれる。
「いえ、いえ。お気持ちは分かりますので」
気にする必要はない。
「さあ、行きましょう」
療養室に着いた時はもう既に深夜。
エンノアの人々は早寝の生活のため、ほとんどの人が床に就いているのか、集落中が寝静まっている。
当然、療養室の中の患者さんたちも寝入っていた。
「アデリナさんから治療します」
「では、こちらに」
サキュルスさんの案内でアデリナさんの寝所に近づき。
「アデリナさん、睡眠中すみません」
「……は、はい?」
「お辛いでしょうが、今から治療を行いますので、少し起きていただけますか」
「……分かりました」
昼間の問診の際に今夜治療に来ると告げていたので、すぐに了解してくれた。
「では、まずはこれを飲んでください」
ビタミンCのドリンクだ。
一瞬の躊躇の後、アデリナさんがビンに口をつけ、ゆっくりとだが飲み始める。
「平気でしたか」
「はい……。とても、美味しかったです。これがお薬ですか?」
「そうですよ。では、次にこちらを」
他のビタミン類なども摂取してもらおう。
「では、治癒魔法を使いますので手を貸してください」
「魔法を使っていただけるのですか。あの、お礼にお渡しできる物がないので……」
「薬も魔法も礼は要りません。ゼミアさんからいただきますので、安心してください」
「よろしいのですか」
「はい、遠慮なさらず。では、どうぞ」
こちらが手を前に出すと。
アデリナさんも戸惑いながら手を差し出してきた。
その手を両手で包んで。
「この魔法で薬の効果も高まります。もうすぐ、楽になりますからね」
アデリナさんの身体にビタミンが浸透するように魔力で補助をしていく。
じっくりと丁寧に、そう、慎重に。
前回重症患者さんたちに行った魔法行使時間の倍以上をかけて丹念に治癒を行う。
よし、これでビタミン浸透補助完了だ。
「終わりましたよ。気分はどうですか?」
「……少し楽になったような気がします」
「それは良かった。では、また明日治療に来ますので、ゆっくり休んでください」
「ありがとうございました」
「ただし、調子が悪くなったら、いつでも呼んでくださいね」
「……はい」
ひとまずは、これで終了。
しかし……。
アデリナさんは、治療を受けなければ明後日の未明に亡くなることになっている。
今回、ビタミン類の摂取をしてはもらえたが、これで大丈夫だとは言い切れない。
……。
様子を見るしかないか。
数時間おきに確認しないとな。
その後。
他の患者さんたちにもビタミン類を与え、治癒魔法もどきの魔法治療を行う。
一度経験しているからか、かなりスムーズだ。
治療の途中、ゼミアさんとスペリスさんが診療室に挨拶に来てくれた。
深夜だから気にせず休んでいてくださいと昼間に伝えていたのだが、そういう訳にはいかないらしい。
フォルディさんとサキュルスさんには助手的な仕事をしてもらいたいので、傍にいてくれると助かるのだが、ゼミアさんとスペリスさんはここにいてもすることはないんだよな。
などと考えている間にも、治療は進み。
重症患者の治療を無事に終え、中軽症者の治療も終了。
時刻は12刻(24時)過ぎ。
思っていたより早く終えることができた。
**********
<長老ゼミア視点>
「コーキ殿は、なぜ我らにここまで良くしてくれるのかの? 何か理由を持っておられるのか?」
「……分かりませぬ」
「単に人が好いということじゃろうかの」
「……その可能性もあるかと」
「ふむ」
初めて会った我らに対する行動、ただの親切心からとは思えないものじゃった。
人が好いだけでは納得いかぬが、理由など思いもつかん。
それはスペリスも同じようじゃ。
「それで、お主は読めたかの?」
「いえ、昼同様今も心の内は全く読めません。読めるのは、微かではありますが、曖昧な感情のみです」
「どうじゃった?」
「僅かに疑心も感じられましたが、我らエンノアに対する害意は全くなく、それどころか好意を持っているようです」
「ふむ……。それはコーキ殿の行動を見ておれば分かることじゃがな。しかし、好意とはのう」
「それも、かなりの好意と思われます」
「どうしてそこまでのものを持っておるのかの? 我らと関わるのはこれが初めてじゃというのに」
「申し訳ございません。私の力ではこれ以上は」
「スペリスに読めぬのじゃ、どうしようもなかろう」
「ですが、ゼミア様やオゥベリール様なら深く読めたのではと」
「わしにも読めぬよ。それと、オゥベのことは言うでない」
フォルディを残して出て行った愚息の話など聞きたくはない。
「……はい」
「……」
思い掛けず空気が重くなってしまったわい。
わしのせいじゃな。
「……まあ、なんじゃ。先程わしも試してみたが全く読めんかったからのう、こればかりは仕方あるまい。しかし、不思議じゃのう」
「本当に」
「まさか、スペリスがコーキ殿を操作したんじゃなかろうの?」
「ゼミア様、ご冗談を」
「そうじゃな。それは不可能じゃ」
「はい」
「今や我らふたり以外に使い手はおらぬ。しかも、我ら共に使う暇はなく、使った後の疲労も出ておらぬ」
コーキ殿と出会ってから記憶操作を行う時間的猶予などなかった。また、仮に操作しておったとしても、操作後の術者の疲労は生半可なものではないのじゃ。こうして、ふたり共に立ち話をしている時点で操作などしていない証となるからの。
「その通りです」
しかし、時間の余裕があれば可能なのじゃろうか。
「そもそも、コーキ殿に記憶操作は可能だと思うか?」
「おそらく、難しいかと。1刻という通常の2倍以上の操作時間をかけても私には難しいと思われます」
「そうよのう」
「しかし、ゼミア様なら」
「全盛期のわしなら可能性はあったかもしれんの。それでも、おそらくは僅かばかりの感情操作のみじゃろうて」
「……」
「しかし、今のわしじゃ、体力も精神力も持たぬよ」
「……もしもの場合は、どういたしましょう?」
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