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第2章 エンノア編
エンノア 19
しおりを挟む額を伝う汗が目に入る。
少し痛いが、気にしている状況じゃない。
ゆっくり、ゆっくりと続ける。
……。
……。
しかし、これは想像以上に集中が必要だ。
……。
……。
ふぅ。
もう少し。
最後まで慎重に。
ゆっくりと。
「……」
よし、これで終わりだ!
「終わりました。気分はどうですか?」
「少し……楽になったと、思います」
若干だが、顔色が良くなっている気がする。
もちろん、俺の思い込みかもしれないが。
けど、自信を持って。
「確実に良くなっていますよ。では、また数刻後に同じ治療をしますから、それまではゆっくり休んでください」
「ありがと……ございます」
「いえいえ、では後ほど」
目を閉じ先ほどより幾分穏やかな呼吸をしているアデリナさんの傍を静かに離れる。
「大丈夫でしょうか?」
「少し良くなったとは思いますが、油断はできません」
まったく油断できる状況じゃない。
このまま前回同様の結果になるのではないかという不安がどこまでも付きまとってくる。
「そうですか」
「当面はこのような治療を続けていきたいと思います」
「今後もこちらで治療を続けていただけるのですか?」
「もちろん、そのつもりです」
やりつづけるしかない。
「コーキ殿には、本当にお世話になりっぱなしで、何とお礼を言ったらよいか」
「そういう話は、皆さんが回復してからにしましょう」
「そう、ですね」
「では、また数刻後にアデリナさんの治療をします。それまでは、他の患者さんを診ますね」
「お願いします」
アデリナさんの治療後、他の重症者と中軽症者の様子を見たが特に問題はなかったので、休憩を取るべく隣室に移動。
「コーキさん、どうかしましたか?」
今目覚めたばかりなのだろうか、寝ぼけ眼のフォルディさんが心配そうな顔で話しかけてきた。
「少しアデリナさんの治療をしてきました」
「それは……容体が悪化したのですか」
「熱が出てきまして、それで少し治療を」
「そうでしたか……。コーキさんには私とユーリアを助けていただいた上に、このようなことまで……。ホント、感謝の言葉もありません」
「それはもういいですって。今は皆さんの命を救うことだけ考えましょ」
「そうですね。ですが、コーキさんは、なぜここまでのことをエンノアにしてくれるのですか?」
正直なところ、明確な理由はと聞かれると答えに窮してしまう。
記憶操作までされたのに、不思議なものだと。
いや、それについて考えるの後にしよう。
「……なぜでしょうね」
「えっ?」
「すみません。自分でも分からないんです。ただ、眼の前に自分のやるべき事があるからやる、そんな感じでして」
前の時間軸ではただひたすら自分のために生きてきた。ただ、異世界に行きたいという願望をかなえるために。その願望がかなった今、あとはもうこの世界で自分らしく生きるだけ。
胸を熱くする冒険も人助けも、自分の心に素直に従っているだけだ。
「では、我々エンノアではなくても?」
「……はい」
フォルディさんの気分を害してしまうかもしれないが、それが事実。
「そうなのですか……」
「偽善かもしれませんが、できることをやりたいと思っているだけなのですよ」
「偽善だなんてそんな……。なかなかできる事じゃない。立派な考えだと思います」
フォルディさんがそう言ってくれるのはありがたいことだ。
でも、これが偽善だとは自分でも分かっている。
突き詰めれば、自分のためにやっているだけだから。
「ありがとうございます。まあ、力を貸すのは救いたいと思う相手に対してのみですけどね」
「ということは、エンノアを救いたいと思って下さったのですよね」
「はい」
偽善でも、その結果として救えるのなら、それは嬉しいこと。
今の俺はそう思う。
「それが理由ではないのですか」
「はい?」
「エンノアを救いたいから、ここまでの尽力をしてくださる。単純なことだと思いますよ」
「……そうかもしれませんね」
確かに非常に単純な話かもしれない。
「そうですよ」
「では、これからもエンノアの方々を救いたいので頑張りますよ!」
「そうすると、我々からも多大なる感謝をコーキさんに贈らないといけませんね」
「はは、ふりだしに戻りましたね」
「ほんとに」
そう言って微笑むフォルディさん。
邪気のないその笑顔が、俺を落ち着かせてくれる。
ユーリアさんを救えて良かったと、心から思えるな。
「……」
これはもう、アデリナさんを助けるしかない!
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