30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

ダブルヘッド 3

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<アル視点>



「グルルルゥ」

 ダブルヘッドの攻撃をギリギリのところで何とか防ぎながら、後ろにいる姉さんの魔法で攻撃を仕掛けているのだが、ほとんど傷を負わせることができない。

 それでも、こうしてやりあえているだけでも上出来だ。
 相手はあの化物なのだから。

 災害指定特魔ダブルヘッド。

 一目その姿を見た瞬間、こいつはおれなんかが敵う相手じゃないということがすぐに理解できた。
 戦う以前に、威圧感が絶え間なく襲いかかってくるこんな状態では、まともに対峙することすら難しい相手だと。

 勝てるわけがない。
 怖い、怖い。
 この場から逃げ去りたい。
 そんな思いばかりが浮かんできた。

「……」

 でも、そういう訳にはいかないんだよ!

 横にいる姉さんに視線を向ける。
 恐怖はおれ以上に感じているはずなのに、決然とした表情をダブルヘッドに向け、おれを庇おうとしている。

 そうだよ。
 この姉さんを守らないと、助けないと!
 姉さんこそがおれの生きる理由なのだから。

「……」

 レザンジュの男爵家の庶子として生まれたおれは、10歳になるまで母とふたりだけで暮らしていた。裕福ではなかったけれど、母と二人での生活はおれにとってかけがえのない幸せな時間だった。当時のおれは自分が貴族の落胤だなんて夢にも思うことすらなく、ただただ母さんとの時間に満足していたんだ。

 そんな生活も母の病死によって終了することになる。
 流行り病をこじらせた母があっけなくおれを置いていってしまったんだ。

 母の死後、実父の男爵に引き取られ貴族家の一員として生活することになったのだが、庶民として育ったおれがそんな環境に慣れることなど簡単にできるはずもなく、家の中では浮くばかり。兄弟姉妹たちにもまともに相手にされず、毎日が苦痛の連続だった。

 そんなおれを救ってくれたのが、シンシア姉さんだった。

 普段は辺境伯家のセレスティーヌ様のもとにいる姉さんだったけれど、実家にいる時はいつも俺のことを気にかけてくれた。貴族の常識など全く持っていなかったおれに優しく色々と教えてくれた。寂しい時は一緒にいてくれた。

 今の俺がこうして生きていられるのは全て姉さんのおかげ。
 だから、おれは自分の命を姉さんのために使うと決めた。
 母さんは救えなかったけれど、姉さんは何があっても必ず助けると決めたんだ!

 オルドウにやって来たのも、本当はセレスティーヌ様のためじゃない。
 姉さんのためだ!

 そんなおれがダブルヘッドから逃げてどうする。
 姉さんを助けるために、おれの命を使う。
 ここがおれの命の使いどころだ!


 姉さんを守りながら、なんとかダブルヘッドの攻撃をしのぎ戦い続ける。
 途中何度も姉さんに逃げるように言ったけれど、全く聞き入れてくれない。

 こうしてダブルヘッドとやり合えているのは奇跡なんだ。
 だから、今のうちに逃げて欲しいのに。

 くそっ!

 ダブルヘッドの攻撃の合間、距離をとって相手を窺う。
 あいつ全く疲れてもいないし傷もない。余裕といった感じだ。

 それもそうか。
 あいつは全く本気を出していない。
 こちらの様子を見るように、いや違うか、こちらをゆっくりいたぶるように小出しに攻撃を仕掛けてくるだけ。

 だからこそ、こちらも持ちこたえることができているのだが……。

「もう魔力の残りも少ないわ」

「だから、姉さんは逃げろって」

 いつまでもこうして耐えられるわけじゃない。
 それに、ダブルヘッドが本気になったら、そこでもう終わりだ。

「そんなことできる訳ないでしょ」

「一緒に逃げるなんて無理だ」

「大丈夫。次に大きめの撃つから一緒に逃げるわよ」

「なっ?」

 そんな魔法撃てるのか?
 今まで見たことないぞ。

「いくわよ! 放逸にして峻烈なる絶炎を統べる主よ、契りによりて求めるは灼熱の炎、ここに集い放たん、ファイヤーボール!」



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