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第3章 救出編
ダブルヘッド 4
しおりを挟む<アル視点>
何度も聞いたことのある姉さんの詠唱。
それなのに、ファイヤーボールの大きさが違う!
両腕で抱えるくらいの大きな炎だ。
そのファイヤーボールがダブルヘッドへと向かい、そして直撃。
すごい!
威力もスピードも今までとは比べ物にならない。
でも、どうして?
同じ詠唱でここまで違うなんて?
これがコーキさんの特訓の成果なのか。
まだ、数回しか習っていないのに。
「ハア、ハア……。今のうちに逃げるわよ」
そうだ。
姉さんの魔法のことを考えるより、今は逃げなきゃ!
「分かった」
このファイヤーボールなら、あの化け物にもそれなりのダメージを与えられただろう。
それに、まだ炎も消えていない。
今なら逃げられる。
「急ごう、姉さん」
強力な魔法を放った直後で息が荒い姉さんの手を引いて、一緒に駆け出す。
ダブルヘッドに背を向け一心不乱に。
なのに……。
「なっ!?」
「えっ!?」
数歩も進まぬうちに大きな影がおれ達の頭上を覆い。
ドーーン!
目の前には、ダブルヘッド!
「そんな……」
おれ達の上を一瞬で飛び越えた漆黒の魔獣が、立ちふさがっていた。
「……噓だろ」
「効いてないの?」
「傷跡がない……」
先程まで炎で覆われていた部分には漆黒の毛が揃っている。
傷がないどころか、身体は黒く濡れているようにさえ見える。
「そんな! 無傷なの?」
姉さんもおれも、うめき声のような言葉を吐き出したまま、その場に立ち尽くしてしまう。
「……」
こんな化け物とここまで闘ってきた緊張と疲れ。
最後の切札までも簡単に破られたという驚愕と恐怖。
何より、逃げられると思っていた希望を打ち砕かれた絶望が頭を真っ白にさせて……。
身体が動かない。
そんなおれ達をねめつけるように眺めながら、ダブルヘッドはゆっくり左右に動いている。
今すぐ襲いかかられれば、容易におれ達は倒されるだろう。
ダブルヘッドも分かっているはずだ。
それなのに、こちらを値踏みするかのように目線を離さず動いているだけ。
もう終わりなのか?
そう語りかけているように……。
「姉さん!」
「ええ」
ダブルヘッドが与えてくれた猶予のおかげで、少しだけ気持ちを整えることができた。
それは姉さんも同じ。
言葉にしなくても分かる。
考えていることも同じだろう。
事ここに至っては、ふたりで逃げることなんてできるとは思えない。
それなら、今できる仕事をするだけ。
姉さんに逃げてもらう!
けど、姉さんは違うことを考えているはず。
おれを逃がそうと考えているに違いない。
「……」
横目で覗く姉さんの目の中に映るのは決意。
決意に満ちている。
俺も同じだ。
姉さんを守ってみせるよ。
姉さんを庇うように足を前へ!
「ここは、任せて。逃げてくれ、姉さん!」
「駄目よ!」
「逃げなきゃ、誰がセレス様を迎えるんだ」
「……」
「それは、おれじゃない。姉さんの役目だろ!」
「アル……」
セレス様のためなら、姉さんは逃げてくれるかもしれない。
今はそう願うだけ。
ボロボロになった身体に力を籠めて剣を構える。
それを見たダブルヘッドの表情が奇妙な形に変わった。
まるで、笑っているようだ。
あいつ……。
そんな感情もあるのか。
すると。
ダブルヘッドが襲いかかってくるような体勢に?
よし!
やってやる!
こちらも覚悟を決めた一撃を放つ体勢に入ろうとした、その時。
ドスン!!
おれとダブルヘッドが向かい合うちょうど中間。
そこに、砂煙が上がり。
「……」
「……」
煙の中に見えるのは?
あれは!!
見覚えのある大剣が地面に突き立っていた!!
「なっ!?」
どこからともなく飛来し地面に突き刺さった剣。
この状況……。
覚えがある。
常夜の森で師匠に弟子として認められた時と同じだ。
そして、目の前のこの大剣。
ここ最近嫌という程目にしてきた代物……。
「おう、待たせたなぁ」
ああぁ。
我慢できない。
その太い声に、顔がゆがんでしまう。
目頭が熱くなってしまう。
「師匠!!」
振り向けば、そこには師匠とヴァーンベックさん!
来てくれたんだ。
おれたちを助けに。
「ギリオンさん、ヴァーンさん!」
なぜ、どうして、という疑問は消せない。
姉さんも信じられないものを見るような眼で、ふたりを見つめている。
でも、そんなことより……。
泣いてしまいそうだ。
情けないけど、恥ずかしいけれど。
熱いものが奥からとめどなく溢れて……。
後ろにいる姉さんも……同じ。
「よーく頑張った。もう大丈夫だかんな」
「ホント、大したもんだぜ」
本当に?
これは現実なんだね!
「……ふたりとも、どうしてここに?」
涙を隠すようにして、そう聞いてしまう。
感謝の言葉を口にすれば、もう堪えられないから。
「助けに来たに決まってんだろうがよ」
「バカ、そういうこと聞いてんじゃねえ」
「んだと!」
「お前がバカだって話だ。けど、今はそんな場合じゃねえな」
「けっ、あとで覚えてやがれ」
このふたりのやりとり。
こんな状況なのに、安心してしまう。
「……まあいい。シア、アル、ふたりとも少しそこで休んでな」
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ギリオン師匠もだ。
「ここは俺たちに任せてな。そうだろ、ギリオン」
「おうよ、この化物はオレらがやってやるかんよぉ!」
「はい!!」
頼もしいふたりがおれと姉さんを庇うようにして、ダブルヘッドの前に出てくれた。
「ただし、おめえら勝手に森に入ったことについちゃあ、あとでお仕置きだかんな」
「……」
「……はい」
「よし! んじゃ、いくか」
「ああ」
「さあ、かかって来やがれ、こんの化け物!」
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