181 / 1,640
第3章 救出編
ダブルヘッド 4
<アル視点>
何度も聞いたことのある姉さんの詠唱。
それなのに、ファイヤーボールの大きさが違う!
両腕で抱えるくらいの大きな炎だ。
そのファイヤーボールがダブルヘッドへと向かい、そして直撃。
すごい!
威力もスピードも今までとは比べ物にならない。
でも、どうして?
同じ詠唱でここまで違うなんて?
これがコーキさんの特訓の成果なのか。
まだ、数回しか習っていないのに。
「ハア、ハア……。今のうちに逃げるわよ」
そうだ。
姉さんの魔法のことを考えるより、今は逃げなきゃ!
「分かった」
このファイヤーボールなら、あの化け物にもそれなりのダメージを与えられただろう。
それに、まだ炎も消えていない。
今なら逃げられる。
「急ごう、姉さん」
強力な魔法を放った直後で息が荒い姉さんの手を引いて、一緒に駆け出す。
ダブルヘッドに背を向け一心不乱に。
なのに……。
「なっ!?」
「えっ!?」
数歩も進まぬうちに大きな影がおれ達の頭上を覆い。
ドーーン!
目の前には、ダブルヘッド!
「そんな……」
おれ達の上を一瞬で飛び越えた漆黒の魔獣が、立ちふさがっていた。
「……噓だろ」
「効いてないの?」
「傷跡がない……」
先程まで炎で覆われていた部分には漆黒の毛が揃っている。
傷がないどころか、身体は黒く濡れているようにさえ見える。
「そんな! 無傷なの?」
姉さんもおれも、うめき声のような言葉を吐き出したまま、その場に立ち尽くしてしまう。
「……」
こんな化け物とここまで闘ってきた緊張と疲れ。
最後の切札までも簡単に破られたという驚愕と恐怖。
何より、逃げられると思っていた希望を打ち砕かれた絶望が頭を真っ白にさせて……。
身体が動かない。
そんなおれ達をねめつけるように眺めながら、ダブルヘッドはゆっくり左右に動いている。
今すぐ襲いかかられれば、容易におれ達は倒されるだろう。
ダブルヘッドも分かっているはずだ。
それなのに、こちらを値踏みするかのように目線を離さず動いているだけ。
もう終わりなのか?
そう語りかけているように……。
「姉さん!」
「ええ」
ダブルヘッドが与えてくれた猶予のおかげで、少しだけ気持ちを整えることができた。
それは姉さんも同じ。
言葉にしなくても分かる。
考えていることも同じだろう。
事ここに至っては、ふたりで逃げることなんてできるとは思えない。
それなら、今できる仕事をするだけ。
姉さんに逃げてもらう!
けど、姉さんは違うことを考えているはず。
おれを逃がそうと考えているに違いない。
「……」
横目で覗く姉さんの目の中に映るのは決意。
決意に満ちている。
俺も同じだ。
姉さんを守ってみせるよ。
姉さんを庇うように足を前へ!
「ここは、任せて。逃げてくれ、姉さん!」
「駄目よ!」
「逃げなきゃ、誰がセレス様を迎えるんだ」
「……」
「それは、おれじゃない。姉さんの役目だろ!」
「アル……」
セレス様のためなら、姉さんは逃げてくれるかもしれない。
今はそう願うだけ。
ボロボロになった身体に力を籠めて剣を構える。
それを見たダブルヘッドの表情が奇妙な形に変わった。
まるで、笑っているようだ。
あいつ……。
そんな感情もあるのか。
すると。
ダブルヘッドが襲いかかってくるような体勢に?
よし!
やってやる!
こちらも覚悟を決めた一撃を放つ体勢に入ろうとした、その時。
ドスン!!
おれとダブルヘッドが向かい合うちょうど中間。
そこに、砂煙が上がり。
「……」
「……」
煙の中に見えるのは?
あれは!!
見覚えのある大剣が地面に突き立っていた!!
「なっ!?」
どこからともなく飛来し地面に突き刺さった剣。
この状況……。
覚えがある。
常夜の森で師匠に弟子として認められた時と同じだ。
そして、目の前のこの大剣。
ここ最近嫌という程目にしてきた代物……。
「おう、待たせたなぁ」
ああぁ。
我慢できない。
その太い声に、顔がゆがんでしまう。
目頭が熱くなってしまう。
「師匠!!」
振り向けば、そこには師匠とヴァーンベックさん!
来てくれたんだ。
おれたちを助けに。
「ギリオンさん、ヴァーンさん!」
なぜ、どうして、という疑問は消せない。
姉さんも信じられないものを見るような眼で、ふたりを見つめている。
でも、そんなことより……。
泣いてしまいそうだ。
情けないけど、恥ずかしいけれど。
熱いものが奥からとめどなく溢れて……。
後ろにいる姉さんも……同じ。
「よーく頑張った。もう大丈夫だかんな」
「ホント、大したもんだぜ」
本当に?
これは現実なんだね!
「……ふたりとも、どうしてここに?」
涙を隠すようにして、そう聞いてしまう。
感謝の言葉を口にすれば、もう堪えられないから。
「助けに来たに決まってんだろうがよ」
「バカ、そういうこと聞いてんじゃねえ」
「んだと!」
「お前がバカだって話だ。けど、今はそんな場合じゃねえな」
「けっ、あとで覚えてやがれ」
このふたりのやりとり。
こんな状況なのに、安心してしまう。
「……まあいい。シア、アル、ふたりとも少しそこで休んでな」
ヴァーンさんがおれたちの前に立ってくれる。
ギリオン師匠もだ。
「ここは俺たちに任せてな。そうだろ、ギリオン」
「おうよ、この化物はオレらがやってやるかんよぉ!」
「はい!!」
頼もしいふたりがおれと姉さんを庇うようにして、ダブルヘッドの前に出てくれた。
「ただし、おめえら勝手に森に入ったことについちゃあ、あとでお仕置きだかんな」
「……」
「……はい」
「よし! んじゃ、いくか」
「ああ」
「さあ、かかって来やがれ、こんの化け物!」
あなたにおすすめの小説
ひだまりのFランク冒険者
みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。
そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。
そんな中
冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。
その名は、リルド。
彼は、特に何もない感じに毎日
「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。
この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!
TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。
その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。
競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。
俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。
その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。
意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。
相変わらずの豪華客船の中だった。
しかし、そこは地球では無かった。
魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。
船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。
ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ……
果たして、地球と東の運命はどうなるの?
人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。