30年待たされた異世界転移

明之 想

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第3章 救出編

ダブルヘッド 13

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<ヴァーン視点>



 防具らしきものをほぼ装備していない軽装の冒険者が、剣を片手に俺たちとダブルヘッドの間に立っている。その姿、見間違えることなどありえない。

「ああ」

 遅すぎるぜ……。

 でも、ホント、助かった。

 今残っている僅かな力を込めていた身体が弛緩していく。
 まだ戦いは終わっていないのに、緊張感が抜けていくようだ。

 それだけコーキの実力を信じているということなのだろう。
 自覚していた以上に。

 けど、どうしてここに?
 今日は常夜の森に入っていなかったはずなのに。

「コーキ、おっせーぞ!」

「悪い」

「まっ、今回だけは許してやらぁ」

「そりゃあ、どうも」

「んで、どうしてコーキがここにいんだ?」

 当然、ギリオンも同じ疑問を抱いているか。
 しかし、こいつの声からも悲壮感がきれいさっぱり消えているよ。
 余裕すら漂い始めている。

 げんきんな野郎だ。
 まあ、俺も人のこと言えないか。

「ギルドでダブルヘッドの話を聞いたからな」

「ん? ギルドでもう情報が出てんのか?」

 そんなに情報が早いのか。

「そうだ。しかし、ギリオンもヴァーンもやられたなぁ。命に別状はないみたいだけど」

「なんとかな」

「はん、こんなの大した傷じゃねえわ」

 強がっているが、結構な傷だぞ。
 ギリオンも俺もな。

「ヴァーンの背中の傷はどうなんだ?」

「多分、深くないはずだ」

 緊張が解けると急に痛み出したけどな。

「そうか、あとで治療してやるから少し我慢しろよ」

「ああ、問題ねえ」

「シアとアルも無事そうだな」

「はい! コーキ先生」

「ああ」

 ふたり共に、さっきまでとは明らかに顔つきが違う。
 元気が戻っている。

「とりあえず一安心だ。じゃあ、話はこれくらいにしてダブルヘッドの相手をするか」

「オレもやんぜ」

「無理すんな、ギリオン。ここは俺に任せろ。他のみんなも自分の身を守ることを優先してくれ」

 まさか、ひとりでやるつもりなのか。
 ダブルヘッド2頭の相手を。
 いくらコーキでも、無謀じゃないのか。

「コーキ、さすがに危険だ。俺らが援護する」

「ん~、危なそうだったら頼む」

 その言葉と共に、こちらに手を振りながら、ゆっくりとダブルヘッドに向かって歩を進めるコーキ。

 その言葉にも動きにも、全く力みがない。
 とはいえ、気合は入っているようだ。

 集中しているのに、気負いのようなものが全く感じられない。
 ダブルヘッド2頭を相手にして、どんだけ精神が強いんだよ。

 こいつこそ、バケモンだぜ。


 対するダブルヘッド。
 さっきから、こちらを襲う気配が全くない。
 コーキと俺たちが喋っているのを眺めているだけだ。

 で、今はというと。
 1頭目の大ダブルヘッドは威嚇するように唸りながらコーキを睨んでいる。
 相手が相当の実力者だと気付いているのだろう。

 俺とシアを攻撃するべく目の前にいた2頭目の小ダブルヘッドは……。

 はぁ??
 なんだ、そりゃ!

 近づくコーキから離れるように後退していく。
 明らかにコーキを見て怯えているぞ。

 どういうことだよ?
 コーキに何かされたのか?

 まさか、さっきまでの単頭は……。

 コーキに斬られたのか?
 そういうことなのか。

 そんな俺の疑問など知る由もないコーキがお得意の雷撃を2頭に放つ。

 いつもながらの無詠唱で予備動作もない。
 そんな魔法が近距離から無造作に繰り出されたのだ。
 2頭のダブルヘッドは逃げることもできず、その身に雷撃を浴びる。

「ギュワアン」

「ギャアァン」

 今のはかなりの威力の雷撃だった。
 俺が見たことのないような威力だ。

 とはいえ、一撃でそれかよ。
 俺の魔法とは大違いだぜ。
 頼りになる味方だが、同じ攻撃魔法の使い手としては少し落ち込んでしまいそうだ。

 で、警戒して後退する大ダブルヘッド。
 さらに怯えを増したように、その場で震えている小ダブルヘッド。

 コーキは一足飛びに小ダブルヘッドに接近。
 そのまま剣で首筋に斬りかかった!
 赤黒く湿った体毛が大きな防御力を持つダブルヘッド、その剣だけでは難しいだろう。
 そう思ったのだが。

「ギャアァァァァ」

「マジかよ!?」

 傍らのギリオンからこぼれ出る驚愕のつぶやき。
 そりゃ、そうだ。

 あれだけ俺とギリオンの攻撃を防いでいた体表、漆黒に濡れた体毛、そこにコーキの剣が難なく通ったのだから。

 そして……。

 ドスン。

 地面へ落下する左の頭。

「すげぇ!」

「先生、すごい!」

 アルとシアからは感嘆の声。
 純粋で羨ましいことだ。
 こっちは感嘆する前に驚愕で声も出ないってのにな。

 コーキが剣、魔法ともに相当な実力を持っているというのは分かっていた。
 だから、こうして安心できたんだ。

 けど、どこまでの腕なのかは測りきれていなかったようだな。

 まさか、ここまでのものだったとは……。




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