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第4章 異能編
手掛かりは
しおりを挟む変な夢。
そう、変な夢だ。
日本を知らないセレス様が見れるわけがない夢なのだから。
「……」
ただ、これが夢でないのなら。
セレス様の予知なら。
この地では、ほぼ使えないはずの予知の力を使い。
鮮明な未来を見たのだとしたら。
「……」
どうやってセレス様が日本に行けるというんだ?
異世界間移動では、俺1人しか移動できないのに。
セレス様が日本に移動するなんてあり得ない。
不可能事だろ。
ならば、ただの夢。
なら、どうしてテレビや飛行機を?
「……」
使えないはずの予知を使い、行けないはずの日本を見る。
知らないはずの日本の夢を見る。
どちらもあり得ない。
非現実的な話だ。
それなのに、どちらかが現実だという矛盾。
意味が分からない。
「変な夢ですが、とても面白くて。だから、コーキさんに聞いてもらおうと思って」
「……とても奇妙な夢ですね」
「ええ、ホントに。でも、あんな場所、どこかに実在するのでしょうか?」
「それは……」
「本当にあるのなら、見てみたいなぁ」
夢見るように瞳を輝かせている。
「行ってみたいなぁ」
「……」
ここにいるのは辺境伯爵令嬢ではなく、ただのセレス様。
17歳のひとりの女性だ。
だからかな。
「……異世界」
「えっ?」
異世界のことを知られてはいけない。
日本でもオルドウでも、その方針を変えたことはない。
けど……。
「異世界かもしれません」
「ふふ、それは面白いお話ですね」
セレスが知っていた異世界の存在。
「そうですね」
なら、このセレス様に知られてもいい。
「でも、もしあんな異世界が存在するのなら、行ってみたいです」
そう思ってしまったんだ。
セレス様と一緒にオルドウを散策した翌日以降。
日本時間の深夜にオルドウに移動し、朝に日本に戻るという生活を続けている。
その間、夕連亭でウィルさんと話をしたり、エンノアに足を運び皆さんの栄養状態を確認したりという時間を過ごしていた。
シアとヴァーンに魔法の指導もしたかな。
ただ、ギルドにはまだ顔を出していない。
領主の呼び出しなんて面倒ごと、今は避けたいからだ。
そんな日々をオルドウで送る中、当然のことながら日本でも数日が経過している。
なのに、状況は何も変わっていない。
鷹郷さんから呼び出されることもなく、古野白さんから連絡があるわけでもない。
異能者に関する話も俺の耳には入ってこない。
捕えた異能者から手に入れたであろう情報も俺には……。
全く何も分からないんだ。
「……」
今までなら、それで良かった。
けど、今はどうしても気になってしまう。
もちろん、それは武志のことがあるから。
まだ武志に会えていないから。
「……」
この間、幸奈とは何度か電話で話をした。
幸奈の話によると、武志は家には戻っていないが連絡だけは一度あったらしい。
ただし、電話での武志は一方的に話すのみ。内容も、友達の家に泊まっているので心配要らない、それだけだったと。
あの廃墟ビルの一件以降、武志はずっと橘と行動を共にしているのだろうな。
「……」
まだ高校生の武志……。
高校生の武志が異能者にいいように利用されているのかと思うと、居ても立っても居られなくなってしまう。
とはいえ、武志へとつながる手掛かりは異能関係と和見家しかない。
現状、俺ができることは……。
足を使って動くだけ。
武志を探すことくらいだ。
「……」
もちろん、毎日俺は足を使っている。
あの廃墟ビルを含め大学最寄りの駅の周辺、武志の高校、和見家の周りなど、武志が足を運びそうな場所を連日探っている。
だが、収穫はない。
正直、どうしたらいいのか?
このまま時間が過ぎていくことに焦りを感じてしまう。
取り返しのつかないことになる前に何とかしないと。
そんな焦る気持ちを抑えながら、今日もとりあえず街に出ているのだが……。
「あれ、お兄ちゃん」
「……ああ、香澄か」
ちょうど駅前を歩いていたところ、駅に併設されているショッピングモールの中から出てきた香澄と鉢合わせしてしまった。
「何してるの?」
「……ちょっとな」
「もう~、暇なら家に顔出しなよ。1人暮らし始めてから全然家に帰って来ないじゃん。せっかく私が帰省しているのに、どういうこと! お母さんもたまには帰って来いって言ってたわよ」
「……最近忙しくてな」
「忙しいって、今はぶらぶらしてるじゃない」
「……近々帰るからさ、母さんにもよろしく伝えてくれよ」
「伝えておくけど、ホントに帰ってきなよ」
「ああ。それで、香澄は1人で買い物か?」
「うん、ちょっと欲しい物があってね。もう買い終わったんだけど……。お兄ちゃん、今時間ある?」
「……少しなら」
今日も武志を探してはいるものの、特に手掛かりがあるわけでもなく歩いているだけだからな。
「それなら、お茶ご馳走してよ」
「はあ?」
いきなり何だ?
「約束したじゃない」
約束?
「……」
「まさか、覚えてないの?」
「いや、そんなことはないぞ」
「だったら、いいでしょ?」
「そう、だな」
「やったぁ! 最近この近くに美味しいケーキを出す店ができたから行きたかったんだ。ほら、行こ、行こ」
もう機嫌が直ったぞ。
現金なやつだ。
香澄に引っ張られるようにして駅を離れ、その店へと足を向けたところで。
「香澄、最近武志を見かけていないか?」
期待薄だとは思うが、一応確認してみる。
「武志って、幸奈さんの弟の?」
「そうだ。お前も一緒に遊んでいただろ」
「それ、昔の話だよ」
「まあな。で、どうなんだ?」
「さっき駅で見かけたけど」
「なんだって?」
「何? そんな顔して、何なの?」
驚きで、声が上ずってしまったか。
「いや、少し武志に話があってな」
「ふーん……。あれ、武志だと思うんだけどなぁ」
「武志を見たのは何時ごろだ?」
「お兄ちゃんに会う前。ついさっきだよ」
なら、まだ駅近くにいるはず。
「悪い、ケーキはまた今度な」
「えっ、えっ? ちょっと待ってよ」
香澄の声を無視して、俺は駆け出した。
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