30年待たされた異世界転移

明之 想

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第4章 異能編

和見幸奈 13

 家の雰囲気も日増しに陰鬱なものになってきた。
 家事を手伝ってくれる皆さんの表情も硬い。
 いつも以上に父と母の機嫌を窺っているように見える。

 とても健全な状況とは思えない。

 父は……。

 この状況になっても外面は平静なまま。
 冷静を装っている。
 ただ、お酒が入ると。

「お前が異能を持っていれば……」

「お前の実母は異能こそ所持していなかったが、その片鱗は見せていた。なのに、お前は……」

「何のために引き取ったんだか……」

 ここ数年はわたしに対して無関心だった父が、そんな言葉を口にするようになっていた。

 ……。

 ……。



 家にいない武志。
 母のわたしを見るあの目。
 父の重いため息。

 全てが……。

 全てが、わたしに……。



 沈んでしまいそうになる。
 どこまでも暗い闇の中に。


 それでも、まだましだった。
 今は、心からそう思える。

 だって……。

 また呼ばれてしまったから。

 あの仄暗い地下室に。
 浴槽のある地下室に。

 5年間、記憶の奥底に封印していたあの場所に!

 ……。

 ……。


 断ればいい。
 もう20歳なんだから、断ることもできるはず。
 それどころか、和見家を出ることだって。

 和見家を出て、アルバイトをして、一人暮らしをする。
 大学は……やめてもいい。
 だったら、就職してもいい。

 自由に暮らせばいい。
 和見家を出て、呪縛から解放されて、ひとりで。


 そう……。

 そんなこと。
 頭では分かっている。

 でも、父を前にすると何も言えない。
 逆らえない。

 身体が固まってしまう。
 思考が止まってしまう。

 ただ頷くことしか……。


 拒否ができない。
 家からも出れない。

 どうして?

 洗脳でもされているのかな?
 だから、何もできないのかな?

 わたし……。


 あの地下室。
 行きたくない。

 もう二度とあんな経験をしたくない。

 考えただけで、ぞっとする。
 身体が震えてくる。

 ……。

 ……。
 


 あの日。
 父から、近い内に再開すると告げられた日。

 どうしても家にいることができなくて、外に出てしまった。
 そのまま、あてもなく歩き続け。
 気付けば、駅前に……。

 そこにいたのは功己。
 ベンチに座っていた功己が、わたしをカフェに誘ってくれた。

 それだけで、気持ちが変わる。
 鬱々としていた心が軽くなる。

 今のこの時間、この時だけは全てを忘れたい。

 だから……。

 母に頼まれた用事で外出していたなんていう嘘をついてしまった。
 演技じゃない、ただの噓を。

 功己の前で、そんな嘘が。
 簡単に口からこぼれてしまった。

 ……。

 ……。

 でも、それでも。
 やっぱり、功己との時間は楽しかった。

 素敵なカフェだったから?
 美味しいタルトを食べたから?

 違う。
 功己が傍にいてくれたからだ。
 優しい想いに触れることができたからだ。

 温かく幸せな時間……。
 嫌なことを忘れさせてくれる時間だった。

 この時間がずっと続けばいい。
 ずっと一緒にいたい。

 そう思っているのに、なぜか身体が家に向かってしまう。
 家に戻らないといけない。
 その思いに縛られてしまう。

 戻る……。

 和見家に。
 あのおぞましい地下室に……。



 もし……。

 もし、功己に助けを求めたら?
 今の功己なら、助けてくれるかな?
 
 でも。

 口が動かない。
 話せない。

 話したく、ない?

 わたしのちっぽけなプライド?
 それとも、こんなわたしを知られたくないから?

 分からない。
 自分でも分からない。
 何も分からない。

 自分のことも……。

 ……。

 ……。

 わたし、おかしいのかな?
 狂ってるのかな?

 ああ……。

 どうしたらいいの?










 第4章 完




感想 11

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