30年待たされた異世界転移

明之 想

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第5章 王都編

迎撃 1

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<和見幸奈視点>



「……ただいま」

 武志が和見家に帰ってきた。

 武志が家に戻ると功己から連絡をもらって1週間。
 その言葉通り、武志が帰ってきた。

 しかも、ただ帰ってきただけじゃない。
 迷いのない、すっきりとした表情で、今まで見たこともないような大人びた顔つきで、帰ってきたのだ。

「……」

 これで武志の問題は解決。
 そう考えていいのよね。


「心配かけてごめん。でも、もうこんな事しないから」

「武志……」

「……」

 母は涙を流して喜んでいる。
 父は表情を崩していないけど、内心では大喜びのはず。

「よかった、無事で……」

「母さん……」

 ここ最近家の中に蓄積していた沈鬱な空気。
 それが綺麗に消えていく。
 武志が戻って間もないのに、もうこんなにも違っている。

「……」

 わたしは……。

 どう思っているんだろう?

 嬉しい。
 その気持ちは、もちろん充分に存在しているけど。
 今はもう。

 色々な感情が心の中で渦巻いていて……。

「姉さん」

 武志……優しい笑顔。

「……おかえりなさい」

「……ただいま」

 分からない。
 自分でも、よく分からない。

「姉さんとはまた後で話すけど……。外で功己兄さんが待ってるよ」

「えっ! うん」

「ゆっくりでいいぞ。今から武志と話をするからな」

 父の目はわたしを見ていない。
 もちろん、母も……。

「……少し外に出てもいいですか?」

 無言で頷く父。
 わたしへの興味は消えてしまったのだろうか?

 この期に及んでも……。

 一抹の寂しさを感じる自分が嫌になる。
 やっぱり、わたしは壊れているの?

「……」

 けど、寂しさなんかより。
 安堵がずっと上回っているから。

 父の興味が消えたら、もう地下に呼ばれないかもしれない。
 そう思うだけで、すっと心が軽くなる。

「……」

 5年ぶりの地下室。
 おぞましい浴槽。

 記憶の中のそれより、ずっと辛かった。
 次は耐えられないと思うほどだった。

 今回は異能を身に浴びることもなかったのに。

「……」

 20歳のわたしにあの部屋は辛すぎる。
 もう、無理だ。

 だから……。




**************




 馬車が狙われているという言葉に、急速に目が覚めてくる。

「また、野盗でしょうか?」

「いえ、今回は……」

「魔物ですか?」

「野盗でも魔物でもありません」

 その2つじゃない?
 だったら、何に狙われている?

「おそらく、我らが原因だ。この先に待ち構えているのは……一族の追手だと思う」

 一族?
 ということは。

「ウィルさんの一族ですよね?」

「……はい」

 ウィルさんが夕連亭で襲われた時と同様、一族の者に追われていると。

「どうして、こんな事態に?」

「それは……」

「すまん。オレが黙っているようお嬢に頼んだんだ」

 今は謝ってもらっても仕方がない。
 そんなことより、すぐに対処しないと。
 まずは。

「謝罪は不要ですので、簡単に現状の説明をお願いします」

「……そうだな」

 ウィルさんとヴァルターさんに説明してもらった内容。
 それをまとめると。

 ウィルさん、ヴァルターさん、カロリナさんの3人は同じ一族に属している。
 一族内では、長年にわたり様々な争いが続いている。
 3人の家門と夕連亭での襲撃者オルセーが属する家門は犬猿の仲。
 その2家門の争いが表面化した一例が夕連亭での騒動。
 今回は夕連亭の一件の続きみたいなもの。

 それで今は、オルセーの家門の者たちがウィルさんのレザンジュ行を阻止すべく襲撃を仕掛けようとしている。

「……」

 彼らが、なぜウィルさんのレザンジュ行を阻止したいのか?
 その理由は聞いていない。

 ただの護衛にすぎない俺が、家門間の詳しい内情を知る必要はないからだ。
 今起きようとしている事実だけ分かれば十分。

「まだ少し離れているので、追手がレンヌ家の者たちと断定はできない」

「……」

「が、おそらくはレンヌ家の息のかかった者だろう」

 ウィルさんたちはコルヌ家、オルセーはレンヌ家という家門。
 そのレンヌ家からの襲撃。

「中には手練れもいるかもしれん」

「なるほど……。それで、王都を出る際に緊張していたんですね」

「すまん。あの時も僅かながら襲撃される可能性があったんでな」

「襲撃の情報を入手していたということですか?」

「……レンヌ家の者が我らの足を止めに来る可能性については、情報は得ていた」
 
「……」

「それを知って、すぐに王都を出たんだ」

 やはり、そういうことか。
 けど、それなら。

「一言教えてほしかったですね」



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