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第6章 移ろう魂編
カーンゴルムへ 1
<セレスティーヌ視点>
「やっぱり個人馬車での移動は気楽でいいですねぇ」
旅は始まったばかり。
だというのに、みんながこの先のことを考えているせいか重い空気が漂う車内。
とても気楽とは言えない雰囲気なのに、ヴァーンベックさんが楽しげに語りかけてくれる。
車内の雰囲気を変えようとしてくれているのは明らかだ。
「いつもは違うのですか?」
だから、私も内心の不安を隠して頬を緩める。
「ええ、俺なんかは乗合馬車ばかりですね。それでも、徒歩での旅よりは楽なんですけど」
「そうなのですね。でも、こんな長距離の旅を徒歩で?」
「金がない冒険者なら、距離に関係なく徒歩での旅が普通ですよ。俺も以前は徒歩ばかりでしたから」
「大変なのですね」
「駆け出しの冒険者なんてそんなものですよ。それに、徒歩での移動は足腰の鍛錬にもなりますし」
「そういうものですか」
「そういうものです。まっ、セレスさんとは無縁の話でしたね」
「いえ、興味深い話でした。ほんと、私の知らないことばかりです」
ワディン領を出てからは初めて知ることばかり。
コーキさんといた時も、オルドウでシアとアルと暮らしていた時も……。
「セレスさんのような貴族様が知らないのは当然ですって」
そうなんでしょうね。
私もそうなのだけど、貴族というものは本当に狭い世界で生きているんだわ。
「おい、貴様、その無礼な口を慎め」
ヴァーンベックさんの話に貴族世界の偏狭さを感じていると、ディアナが突然ヴァーンベックさんに詰め寄って。
「セレスティーヌ様に対してその口調。許せるものではない!」
「ディアナさん、ちょっと待ってください」
慌ててシアが止めに入る。
私も。
「ディアナ、やめなさい」
あなたが気に入らないヴァーンベックさんの態度は、私が許したもの。
オルドウでも、そうしていたのだから。
「セレスティーヌ様?」
「何も問題はありません。ヴァーンベックさんには、気楽に接してくれるようにと私がお願いしたのです」
「ですが!」
「ディアナの気持ちは嬉しいです。けど、本当に平気なのですよ」
「セレスティーヌ様……」
「そもそも、今の私を貴族と呼んで良いものか? あやしいものでしょ」
「……」
「それに、ヴァーンベックさんはワディンに関係のないキュベリッツ国民なのですから」
「……」
「言動に問題などありません」
「……セレスティーヌ様がそうおっしゃられるのであれば」
「分かってくれたのですね」
「……はい」
「ヴァーンベックさん、嫌な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
「俺は気にしてませんよ。彼女の気持ちも分かりますしね」
「ありがとうございます」
その言葉通り、気にしている様子は見えない。
ただ。
「シア、何ですか、その顔は?」
「えっ! わたしは何も……」
ずっと心配そうにヴァーンベックさんのことを見つめていたシア。
ふふ、可愛いわね。
「そうかしら?」
「……はい」
「そう。では、また楽しい話でもしましょ。まだ先は長いのですから」
今回のカーンゴルムまでの旅路は、オルドウから東に進んでワディン領に入りレザンジュ国内を北上する進路は取らず、キュベリッツ国内を北に進むことになった。
慣れ親しんだワディン領内の道を選ばなかったのは、王軍の占領下にあるワディンの通行を避けたかったから。
そういうわけで、この旅の仲間で唯一のキュベリッツ国民であるヴァーンベックさんが、道案内をしてくれることになっている。
とは言っても、オルドウから北に進む道は迷うことのない大きなひとつの街道なので、ナガアランという町で東に進路を取るまでは私たちの馬車は街道をただひたすら北に進むだけ。
そんな私たちの馬車ではアルとヴァーンベックさん、ディアナとユーフィリアの4人が交代で御者をしている。
出発時には変な雰囲気になってしまった初日の旅だけれど、その後は順調に進みミースという町を過ぎてしばらく進んだところで夜を迎えることになった。
「セレスさん、この辺りで野宿することになりますが?」
「はい、お任せします」
「セレス様?」
少しでも早くカーンゴルムに到着したいから今夜は町での宿泊ではなく野宿をと、ヴァーンベックさんにお願いしたところ……。
みんなの反対がすごかった。
特にシアが……。
「……」
私のことを心配してくれているのは分かる。
でもね、私も以前の私ではないの。
あなたは知らないでしょうけど、テポレン山の地中で野宿を何度も経験しているのだから。
「本当に平気なのですか?」
「もちろんよ。それに今さら、町に戻ることもできないでしょ」
「……」
「シアこそ平気なの?」
「わたしは冒険者ですから」
本当に?
あなたも貴族の娘なのよ。
確か、野営の経験はないって言っていたわよね。
「野営なんて、問題ありません」
「……」
「本当です」
まあ、そこまで言うなら……。
ところで。
「ディアナとユーフィリアはどう?」
「我々は騎士ですから野宿など慣れたものです」
「アルは?」
「全く問題ないですよ」
この3人は平気そうね。
「やっぱり個人馬車での移動は気楽でいいですねぇ」
旅は始まったばかり。
だというのに、みんながこの先のことを考えているせいか重い空気が漂う車内。
とても気楽とは言えない雰囲気なのに、ヴァーンベックさんが楽しげに語りかけてくれる。
車内の雰囲気を変えようとしてくれているのは明らかだ。
「いつもは違うのですか?」
だから、私も内心の不安を隠して頬を緩める。
「ええ、俺なんかは乗合馬車ばかりですね。それでも、徒歩での旅よりは楽なんですけど」
「そうなのですね。でも、こんな長距離の旅を徒歩で?」
「金がない冒険者なら、距離に関係なく徒歩での旅が普通ですよ。俺も以前は徒歩ばかりでしたから」
「大変なのですね」
「駆け出しの冒険者なんてそんなものですよ。それに、徒歩での移動は足腰の鍛錬にもなりますし」
「そういうものですか」
「そういうものです。まっ、セレスさんとは無縁の話でしたね」
「いえ、興味深い話でした。ほんと、私の知らないことばかりです」
ワディン領を出てからは初めて知ることばかり。
コーキさんといた時も、オルドウでシアとアルと暮らしていた時も……。
「セレスさんのような貴族様が知らないのは当然ですって」
そうなんでしょうね。
私もそうなのだけど、貴族というものは本当に狭い世界で生きているんだわ。
「おい、貴様、その無礼な口を慎め」
ヴァーンベックさんの話に貴族世界の偏狭さを感じていると、ディアナが突然ヴァーンベックさんに詰め寄って。
「セレスティーヌ様に対してその口調。許せるものではない!」
「ディアナさん、ちょっと待ってください」
慌ててシアが止めに入る。
私も。
「ディアナ、やめなさい」
あなたが気に入らないヴァーンベックさんの態度は、私が許したもの。
オルドウでも、そうしていたのだから。
「セレスティーヌ様?」
「何も問題はありません。ヴァーンベックさんには、気楽に接してくれるようにと私がお願いしたのです」
「ですが!」
「ディアナの気持ちは嬉しいです。けど、本当に平気なのですよ」
「セレスティーヌ様……」
「そもそも、今の私を貴族と呼んで良いものか? あやしいものでしょ」
「……」
「それに、ヴァーンベックさんはワディンに関係のないキュベリッツ国民なのですから」
「……」
「言動に問題などありません」
「……セレスティーヌ様がそうおっしゃられるのであれば」
「分かってくれたのですね」
「……はい」
「ヴァーンベックさん、嫌な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
「俺は気にしてませんよ。彼女の気持ちも分かりますしね」
「ありがとうございます」
その言葉通り、気にしている様子は見えない。
ただ。
「シア、何ですか、その顔は?」
「えっ! わたしは何も……」
ずっと心配そうにヴァーンベックさんのことを見つめていたシア。
ふふ、可愛いわね。
「そうかしら?」
「……はい」
「そう。では、また楽しい話でもしましょ。まだ先は長いのですから」
今回のカーンゴルムまでの旅路は、オルドウから東に進んでワディン領に入りレザンジュ国内を北上する進路は取らず、キュベリッツ国内を北に進むことになった。
慣れ親しんだワディン領内の道を選ばなかったのは、王軍の占領下にあるワディンの通行を避けたかったから。
そういうわけで、この旅の仲間で唯一のキュベリッツ国民であるヴァーンベックさんが、道案内をしてくれることになっている。
とは言っても、オルドウから北に進む道は迷うことのない大きなひとつの街道なので、ナガアランという町で東に進路を取るまでは私たちの馬車は街道をただひたすら北に進むだけ。
そんな私たちの馬車ではアルとヴァーンベックさん、ディアナとユーフィリアの4人が交代で御者をしている。
出発時には変な雰囲気になってしまった初日の旅だけれど、その後は順調に進みミースという町を過ぎてしばらく進んだところで夜を迎えることになった。
「セレスさん、この辺りで野宿することになりますが?」
「はい、お任せします」
「セレス様?」
少しでも早くカーンゴルムに到着したいから今夜は町での宿泊ではなく野宿をと、ヴァーンベックさんにお願いしたところ……。
みんなの反対がすごかった。
特にシアが……。
「……」
私のことを心配してくれているのは分かる。
でもね、私も以前の私ではないの。
あなたは知らないでしょうけど、テポレン山の地中で野宿を何度も経験しているのだから。
「本当に平気なのですか?」
「もちろんよ。それに今さら、町に戻ることもできないでしょ」
「……」
「シアこそ平気なの?」
「わたしは冒険者ですから」
本当に?
あなたも貴族の娘なのよ。
確か、野営の経験はないって言っていたわよね。
「野営なんて、問題ありません」
「……」
「本当です」
まあ、そこまで言うなら……。
ところで。
「ディアナとユーフィリアはどう?」
「我々は騎士ですから野宿など慣れたものです」
「アルは?」
「全く問題ないですよ」
この3人は平気そうね。
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