30年待たされた異世界転移

明之 想

文字の大きさ
450 / 1,640
第6章 移ろう魂編

ワディン領へ


<和見幸奈視点(姿はセレスティーヌ)>



「セレス様、体調はいかがですか?」

「ありがとう。もう大丈夫です」

「それでしたら良いのですが……。しばらくは馬車の中ですので、もし体調が悪くなった場合はすぐにおっしゃってくださいね」

「分かりました。シアさん、ありがと」

 ワディン領に向けての旅が始まってすぐ。
 馬車での移動で体調を崩してしまったわたしを、皆さんが気遣ってくれた。
 特にシアさんは、ずっと傍にいてくれる。

 今も私のすぐ横に。

「……」

「本当に平気ですので」

 馬車に酔って最初は気持ちが悪くなってしまったけれど。
 少し慣れてきたのか、今は問題ないのだから。

 そんなに心配しないで。

「……はい」

 わたしが目覚めてから、シアさんはわたしの心配ばかり。
 シアさんも疲れているのに、申し訳なくなってしまう。

 でも、どうして馬車に酔ったんだろ?
 わたしは馬車に乗り慣れていたはず。
 馬車酔いの経験も皆無、のはず……。

 数日意識を失っていた影響がまだ残っているの?
 まだ無理しちゃいけないのかな?


「セレスティーヌ様、今後体調に変化があった場合は、すぐにお知らせください」

「ディアナさん、ありがとう」

「いえ……私に礼など不要です。敬称も必要ありませんので」

「……」

「ユーフィリアと私はセレス様の護衛騎士なのですから」

「えっと、そうですね」

 敬称、それにわたしのこの口調。

 皆さんが言うには、以前のわたしの口調とは違うみたい。
 丁寧な言葉遣いは止めてほしいと何度も言われてしまって……。

 皆さんの言うことも理解できるのだけど、それでもやっぱり、しっくりこないと言うか違和感があるというか。

 どうしても丁寧な言葉になってしまう。
 色々と自分のことを思い出せたのに、口調は元に戻せない。

 その上、こういう思考自体にも何かおかしな感じが?
 思考も口調も、今のわたしと昔のわたしが混ざっているような?

 自分でも不自然だと思う。

 だから……。

 何とかしないと。
 頑張らないと。

 皆さんがわたしのために頑張ってくれているのだから、わたしも!


「セレス様、わたしのこともシアとお呼び下さいね」

「はい。すぐには難しいですが、少しずつ……」

「……」

 ああ。
 シアさん、困ったような顔を。

「ごめんなさい。なるべく、早く慣れるようにしますから」

「いえ、セレス様、そんなことを! こちらこそ申し訳ありません」

 わたしが謝ると一転して、焦り始めるシアさん。

「シアさんが謝る必要なんてありませんよ」

「ですが……」

「本当にいいんです」

「……はい」

「それより……。わたしも以前の自分に戻れるよう努力しますから、シアさんも今のわたしに慣れてくれれば嬉しいです」

「……そうですよね。今のセレス様に」

「あっ、少しずつでいいんですよ」

 シアさんの気遣いはとっても嬉しいんだけど。
 わたしの言葉に過剰に反応するところがあるので、ちょっとだけ対応に困ってしまう。

 このあたりも、自分が元の自分に戻れていない証拠だ。

「はい。わたしの考えが足りず申し訳ありませんでした」

「だから、謝らないでくださいね」

「……」

「そうだぜ、シア。セレスさんがこう言ってるんだから、少し気楽にすればいいんだ」

「ヴァーン……」

「ヴァーン、お前はもっと遠慮しろ」

「ディアナがこんなこと言ってますが、どうしましょうか? セレスさん」

「ふふ、ヴァーンさんは今のままでいいですよ」

「だそうだぜ」

「ちっ!」

「おっ? 今舌打ちしただろ。そいつぁ、騎士様とは思えねえ態度だなぁ」

「うるさい。おまえには言われたくない」

「はっ、そうかよ」

「おまえ! 大体だな……」


 ディアナさんとヴァーンさんが、また口論を始めてしまいました。
 もう既に何度か見かけたこの光景……。

「あれは気にしなくていいですから」

「分かってますよ、アル君」

 きっと、あのふたりは気が合うんだと思う。
 ほんと、とても楽しそう。

「セレス様……アル君っていうのは、さすがに……」

 アル君もわたしの呼び方が気に入らないみたい。
 彼のことは弟みたいに思えてしまって、アル君と呼ぶのがピッタリなんだけど。
 本人が嫌だというなら、アルと呼べるようにならなきゃ。

「あの、以前のわたしは皆さんのことを敬称をつけずに呼んでいたのですよね?」

「はい。ヴァーンやコーキ先生以外は呼び捨てにされていました」

「……そうなのですね」

 実感はないし、どうしてもしっくりこない。
 でも、シアさんがそういうのだから間違いない。

 みんなを敬称なしかぁ……。



感想 11

あなたにおすすめの小説

ひだまりのFランク冒険者

みなと劉
ファンタジー
ここは異世界。 そこの冒険者ギルドでは毎日仕事がてんこ盛り。 そんな中 冒険者ギルドには万年Fランクの冒険者が一人いる。 その名は、リルド。 彼は、特に何もない感じに毎日 「薬草採取」「石集め」Fランク向け「討伐」場合によっては「ポーション生成」をする。 この話はこの万年Fランク冒険者リルドの物語である。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

WIN5で六億円馬券当てちゃった俺がいろいろ巻き込まれた結果現代社会で無双する!

TB
ファンタジー
小栗東〈おぐりあずま〉 二十九歳 趣味競馬 派遣社員。 その日、負け組な感じの人生を歩んできた俺に神が舞い降りた。 競馬のWIN5を的中させその配当は的中者一名だけの六億円だったのだ。 俺は仕事を辞め、豪華客船での世界一周旅行に旅立った。 その航海中に太平洋上で嵐に巻き込まれ豪華客船は沈没してしまう。 意識を失った俺がつぎに気付いたのは穏やかな海上。 相変わらずの豪華客船の中だった。 しかし、そこは地球では無かった。 魔法の存在する世界、そしてギャンブルが支配をする世界だった。 船の乗客二千名、クルー二百名とともにこの異世界の大陸国家カージノで様々な出来事はあったが、無事に地球に戻る事が出来た。 ただし……人口一億人を超えるカージノ大陸と地球には生存しない魔獣たちも一緒に太平洋のど真ん中へ…… 果たして、地球と東の運命はどうなるの?

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

現世にダンジョンができたので冒険者になった。

盾乃あに
ファンタジー
忠野健人は帰り道に狼を倒してしまう。『レベルアップ』なにそれ?そして周りはモンスターだらけでなんとか倒して行く。

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

【1/20本編堂々完結!】自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。