30年待たされた異世界転移

明之 想

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第7章 南部編

異なる世界 9

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 数メートル先も見通せないほどの視界の悪さに、石と岩しか存在しない荒漠の大地。
 空は依然として赤く濁っており、足下の鉄錆色にも変化はない。

 赤、赤、赤。

 どこを見ても不気味な赤が目に入って来る。
 どうにも落ち着かない。
 不穏で不快な気分……。

 座っているだけで、体力を奪われてしまいそうだ。

「……」

 エビルズピークから転送されて既に12刻(24時間)。
 俺と剣姫はこの地に留まったまま。
 抜け出す目処も立っていない。

 闇を通り抜けるか、怪物を倒すか。
 すべきことは明らかなのに。
 その術が……。


「君は何でも持っているのだな」

 錆色の小岩に腰掛けた剣姫が話しかけてくる。

「……いえ」

「これまで、君が収納から取り出した道具にも驚かされたが」

「……」

「この食糧がまた素晴らしい」

「たまたま保存食を持っていただけですので」

「いや、保存食の味など超越しているぞ」

「まあ……」

 確かに、日本製の保存食は優れている。
 こちらの物とは比べ物にならない。

 とはいえ、この状況で保存食をゆっくり味わえるとはな。
 さすが剣姫イリサヴィア。
 肝が据わっている。

「紅茶も美味だ」

「口に合って、良かったですよ」

「合うどころではない!」

「……」

「君には本当に感謝している。このような地で食事を確保できるだけでもありがたいというのに、味まで優れているのだからな」

 剣姫のこの感想。
 思い出すな、魔落を。
 あの時のセレス様も同じような感想を口にしていた。

 魔落か……。

 トトメリウス様の創り出した神域の一種、魔落。
 石と岩だけの荒涼とした空間。
 閉ざされた地下迷宮のような空間だった。

 対して、こちらは。
 同じく、石と岩ばかりの荒涼とした地。
 閉ざされた空間。
 そして、おそらく……。

 竜のような怪物、あいつが創り出した異界だ。


「この危地においても心を強く持てるのは、君の助けあってこそ」

「……」

「命の恩人だな、アリマは」

「さすがに、そこまでではないですよ」

 剣姫なら、ひとりでも何とかしたはず。

「いいや。誇張でもなんでもない。長期戦ともなれば、なおさらだ」

 確かに、今回は相当な長期戦になるだろう。
 となると、水と食料の重要性は増してくる、か。

「もう1日。12刻経過したからな」

 この地に転送されたのは12刻(24時間)前。
 初めは何が起こったのか全く理解できなかった。
 エビルズピークが生みだした悪意という怪物と戦っている最中。
 そいつが発光したと思ったら、次の瞬間にはここにいたのだから。

 その後、数刻に渡って探索をした結果。
 判明したのは、ここが暗闇に囲まれた空間だということ……。

「……」

 どうやら、この閉鎖空間。
 半径100メートルほどの円、あるいは半球の形として存在しているようだ。
 そして円の外縁には、あの暗闇。
 青みがかった不気味な闇が円を囲うように広がっている。

「……」

 現状、暗闇の先に進むことはできない。
 外縁を越える術がない。

 つまり、俺と剣姫はこの赤の閉鎖空間に閉じ込められたと……。


 ちなみに、この12刻の間。
 俺たちは探索だけしていたわけじゃない。
 一度だけ戦闘を経験している。

 この地に来て5刻ほど経った頃、突然姿を現した竜の怪物が俺たちを襲ってきたんだ。
 ただし、決着がつくことはなく。
 1度目同様、戦いの最中に消えてしまった。

 それ以降、今この時点まで。
 俺たちの前に、あいつは現れていない。



「……ここは怪物の創り出した異界。その可能性が高そうだな」

 いつの間にか食事を終えていた剣姫。
 赤の空間を見つめながら、話しかけてくる。

「最初は、転移のようなもので別大陸の荒野にでも送られたのかと思っていたが……」

 俺もそう思っていた。
 けれど、2度目の戦闘中に鑑定で知り得た情報が、事実を教えてくれたんだ。
 驚きの事実を。


???
???

エビルズマリス
エビルズピークの悪意

HP  813
MP   95
STR 594
AGI 171
INT 206

<スキル>
気配消去 分身 異界(貯蔵庫)創造


 エビルズピークで鑑定した時は表示されていなかった3つめのスキル。
 異界創造、貯蔵庫!!

 これで、多くの魔物の遺骸が存在する理由が理解できた。

 そう。
 この空間は怪物の創り出した異界。
 食料を貯蔵するための異界なのだろう。

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