魔王さんのガチペット

回路メグル

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第5章 旅の話

第90話 エルフの森(6)

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「ただいま!」
「ただいま戻りました」
「え……ライト? どうしたんだ、そのかわいい格好は?」

 迎賓館に戻ると、先ほどの王座のある部屋とは違った、もう少し普通というか……レンガ造りの洋館の中にありそうな、普通に豪華なレストランの個室風の部屋に通された。
 魔王さんと森の王様はずっとこの部屋の円卓で向かい合って話をしていたらしい。

「エルフの伝統衣装、着せてもらった」

 森の王様やイルズちゃんが来ているのと同じ、白いドレープがきいたローブのようなドレスのような、古代ローマ人が着ていそうな服。
 これ、ずっと気になっていたんだよね。
 魔族の国の正装ってスーツとか詰襟とか堅苦しいから。
 ……楽そうだなって。

「俺似合うよね?」
「似合う! 誰よりも世界一似合う!」

 魔王さんが喜んでくれるし、俺は楽だし、いいなぁ、これ。
 今後の正装、全部これにしたい。

「ありがとう」
「……よくお似合いだ。失礼ながらライト様には似合わないと思ったが……」

 魔王さんは手放しに褒めてくれるけど、森の王様は意外そうに俺の着こなし……特に上半身を凝視する。
 一見失礼にも見えるけど、これは当然だと思う。

「だよね? 試着した瞬間、似合わなさ過ぎて笑っちゃった」

 自分でもビックリしたからね。
 でも……

「ライトくんすごいんですよ。この服が美しく見えるには肩ががっしりしている必要があると瞬時に気付いて……店にあるものを適当に組み合わせて肩当てを作って……この通りです」

 そう。エルフって繊細そうに見えて肩幅が広いと言うか、北欧系? 逞しいんだよね。
 俺もなで肩ではないはずなんだけど、日本人の華奢な体形だとビックリするくらい貧相だった。
 そこで肩パットを入れることをすぐに思いつけたのは、ホスト時代に店に眠っていたバブル時代の肩パットごりごりのスーツをネタで着たことがあったからだな。
 どんな経験もしておいて損はない。

「……ライト……くん?」

 あれ? 褒められるかと思ったら、森の王様、そこに……呼び方に引っかかるんだ? 

「えぇ。とても仲良くなりました」
「そうだね。良いお友だちができて嬉しい」

 イルズちゃんと一緒に笑顔で返すけど……嫉妬されちゃうかな?
 心配しながら森の王様と魔王さんの方を見ていると……

「それは良かった! 実は私と魔王もとても良い時間を過ごせて、すっかり意気投合したんだ。魔王がこんなに話せる奴だとは思わなかった」

 森の王様が隣に立つ魔王さんの肩をばんばんと「友だち」らしいノリで叩く。
 魔王さんはなぜか森の王様ではなく俺に向けてほほ笑むから……そうか。
 実は魔王さんにも事前に「イルズちゃんと森の王様って、俺たちとは違う関係性なんじゃないかな」という話を少ししておいたんだ。二人でどこまで話したのかは解らないけど、魔王さんが先入観無く話せたみたいで良かった。

「俺はライトがいかに素晴らしいか惚気ただけだ。たくさん惚気られて楽しかった」

 魔王さんもご機嫌で何より。
 後ろに控えているファイさんも良い顔しているから、真面目な話もできたのかもしれない。

「魔王の惚気を聞いてますますライト様に興味を持った。この後の宴席ではぜひたくさん話を聞かせて欲しい」
「たくさんは無理かな」
「え?」
「俺もね、イルズちゃんにたくさん惚気られちゃったから、森の王様のお話が聞きたい」
「イルズが……?」
「……申し訳ございません。ライトくんにはどうにも話しやすくて……」
「あ、いや……お前が惚気てくれるなんて……」

 熟年夫婦みたいな二人だと思っていたけど……意外に初々しいんだ?
 見つめあって照れる二人を微笑ましく思いながら見つめていると、俺たちの視線に気づいた森の王様が照れ隠しをするように声を上げた。

「……今日はとっておきの酒を開けよう。宴席の準備をしてくれ」


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