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第5章 旅の話
第89話 エルフの森(5)
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「関係を見つめなおす……?ライト様も色々と考えていらっしゃるのですね。私では役に立てるか解りませんが、もし、ライト様が悩まれているようなことがあれば、どうぞご相談ください」
「悩み……か」
俺の悩み……あまり考えないようにしていることはある。
どうしようもないことは考えないようにしているけど……。
でも……イルズちゃんと森の王様って伴侶なんだよね?
一生一緒にいるんだよね?
確か、エルフって長寿だよね?
時間の進み方が違うのって……
「あー……」
この辺り、聞きたかったけど……
「考えてみて、答えが出なかったら相談させてもらおうかな」
同じ悩みを共有できそうだと思って、反射的に言いかけたけど……俺はまだきちんとこの事実に対して向き合えていない。
こんな状態で他人の考えを聞くと引っ張られそうな気がして、慌てて口を閉じた。
「何を聞きたかったのか解りませんが、解りました。本当に誠実な人だ」
イルズちゃんは中途半端な俺の様子に、妙に感心しながら何かメモを書いて渡してくれた。
「この宛先で私に魔法で手紙が届きます。どうぞいつでもご連絡ください」
「ありがとう。俺の連絡先も教えたいんだけど、この魔法の仕組みよく解っていなくて自分の住所が……ローズウェルさん」
後ろを振り向くと、そばで見守ってくれていたはずのローズウェルさんが、なぜか慌てた様子で顔を上げた。
「え? あ、はい?」
「……? イルズちゃんが手紙の宛先を教えてくれたから、俺のも教えたいんだけど……」
話が聞こえない距離ではないのに。
俯いて何か考え込んでいたみたいだけど……俺たちの会話、何か良くなかったかな?
「あ、あぁ。でしたら、城の住所で……このように書いて頂ければライト様へ直接のお届けになります」
すぐにいつも通りのローズウェルさんになって、自分の手帳から名刺のようなものを取り出して、何か書き加えてイルズちゃんに渡してくれた。
気にはなるけど、ローズウェルさんよりも今はイルズちゃんか。
「いつでも連絡してね」
「はい」
「あと、イルズちゃん、俺のことももっと気軽に呼んでくれていいよ? 敬語じゃなくていいし」
「ではライトくんと呼ばせてもらいましょう。ただ、話し方はこのままで。私の美しい見た目に合っていると森の王が褒めてくれるのです」
イルズちゃんはもういつも通りのクールビューティーに一層磨きがかって見える微笑に戻っていた。
流石だな。
「確かに。イルズちゃんイケボだから似合うね。その口調で少しトーンを落として耳元で『あなた様のこと、心よりお慕いしています』なんて懇願するように囁かれるのとかやばそう」
「……ライトくん、察しがよすぎますよ?」
「あぁ……ごめん。ふふっ」
「ふ、ふふっ」
二人で笑いあった後、どちらからともなく握手をした。
いいな。この世界でやっと、魔族以外に腹を割って話せる親しい人ができた。
「さて、そろそろ移動しましょう。この国の工芸品なども見て頂きたいんです」
「工芸品か……工芸に入るか解らないけど気になっているものがあるんだけど……」
「ん? あぁ」
立ち上がりながらイルズちゃんの服に視線を向けると、イルズちゃんはすぐに気づいてくれた。
「この国の伝統衣装の店も行きましょう」
「やった」
難しい話は終わり。
折角の旅行、楽しまないとね?
「悩み……か」
俺の悩み……あまり考えないようにしていることはある。
どうしようもないことは考えないようにしているけど……。
でも……イルズちゃんと森の王様って伴侶なんだよね?
一生一緒にいるんだよね?
確か、エルフって長寿だよね?
時間の進み方が違うのって……
「あー……」
この辺り、聞きたかったけど……
「考えてみて、答えが出なかったら相談させてもらおうかな」
同じ悩みを共有できそうだと思って、反射的に言いかけたけど……俺はまだきちんとこの事実に対して向き合えていない。
こんな状態で他人の考えを聞くと引っ張られそうな気がして、慌てて口を閉じた。
「何を聞きたかったのか解りませんが、解りました。本当に誠実な人だ」
イルズちゃんは中途半端な俺の様子に、妙に感心しながら何かメモを書いて渡してくれた。
「この宛先で私に魔法で手紙が届きます。どうぞいつでもご連絡ください」
「ありがとう。俺の連絡先も教えたいんだけど、この魔法の仕組みよく解っていなくて自分の住所が……ローズウェルさん」
後ろを振り向くと、そばで見守ってくれていたはずのローズウェルさんが、なぜか慌てた様子で顔を上げた。
「え? あ、はい?」
「……? イルズちゃんが手紙の宛先を教えてくれたから、俺のも教えたいんだけど……」
話が聞こえない距離ではないのに。
俯いて何か考え込んでいたみたいだけど……俺たちの会話、何か良くなかったかな?
「あ、あぁ。でしたら、城の住所で……このように書いて頂ければライト様へ直接のお届けになります」
すぐにいつも通りのローズウェルさんになって、自分の手帳から名刺のようなものを取り出して、何か書き加えてイルズちゃんに渡してくれた。
気にはなるけど、ローズウェルさんよりも今はイルズちゃんか。
「いつでも連絡してね」
「はい」
「あと、イルズちゃん、俺のことももっと気軽に呼んでくれていいよ? 敬語じゃなくていいし」
「ではライトくんと呼ばせてもらいましょう。ただ、話し方はこのままで。私の美しい見た目に合っていると森の王が褒めてくれるのです」
イルズちゃんはもういつも通りのクールビューティーに一層磨きがかって見える微笑に戻っていた。
流石だな。
「確かに。イルズちゃんイケボだから似合うね。その口調で少しトーンを落として耳元で『あなた様のこと、心よりお慕いしています』なんて懇願するように囁かれるのとかやばそう」
「……ライトくん、察しがよすぎますよ?」
「あぁ……ごめん。ふふっ」
「ふ、ふふっ」
二人で笑いあった後、どちらからともなく握手をした。
いいな。この世界でやっと、魔族以外に腹を割って話せる親しい人ができた。
「さて、そろそろ移動しましょう。この国の工芸品なども見て頂きたいんです」
「工芸品か……工芸に入るか解らないけど気になっているものがあるんだけど……」
「ん? あぁ」
立ち上がりながらイルズちゃんの服に視線を向けると、イルズちゃんはすぐに気づいてくれた。
「この国の伝統衣装の店も行きましょう」
「やった」
難しい話は終わり。
折角の旅行、楽しまないとね?
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