魔王さんのガチペット

回路メグル

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第6章 二人の話

第137話 提案(1)

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 森の王様が退位する理由、そして人間になったこと。
 二人の様子や国民のみんなの反応も交えて丁寧に報告する間、魔王さんはほぼ無言でじっと俺の話を真剣に聞いてくれた。

「……と言う訳で、無事に人間になれたから、今後は俺が付けたシンって名前でお城の役人さんするんだって」
「そうか……森の王が、そんな……」

 魔王さんがやっと相槌以外の言葉を発するけど……驚き? ショック? 呆然としているのが解る。
 どういう感情でそうなっているのかは解らないけど、俺を抱きしめる腕の力は相変わらず強い。

 だから……この流れのまま、俺は魔王さんに聞いてもらいたい。

「俺ね、羨ましかった」
「え?」

 目を瞬かせる魔王さんの顔をじっと覗き込む。

「俺も魔王さんと同じ種族で、魔王さんと一緒の時間を生きられたらいいのにって、羨ましかった」
「ライト……?」

 魔王さんの顔が近い。
 愛しい相手である証拠のような距離感で、服越しだけど体の厚みも体温も感じる。
 離れていたから一層思う。

 好きだなぁって。

 そして、好きだなぁって思うたびに、心の奥に引っかかっていたこと。
 ずっと我慢していた一言。
 ずっとずっと抑え込んでいた一言を、口に出した。

「俺……魔王さんより……何百年も先に死にたくない」

 あぁ。
 声が震えてしまった。
 喉が引きつる。
 ちゃんと言えたかな? 伝わったかな?

「ライト……?」

 魔王さんの手が俺の頬に触れる。
 そこを優しく撫でて……違うな。
 撫でてくれているんじゃない。

「なぜ、お前が悲しむんだ?」

 魔王さんの手、俺の涙をぬぐってくれているんだ。
 今日までずっと、何度も何度も考えては考えないようにして、ずっとずっと溜めていた涙を。

「お前が先に死んで、悲しいのは俺だ。ライトのことは死ぬ瞬間まで必ず愛し通す。寂しくさせない。だから、泣かないでくれ」
「それはお願いしたいけど……魔王さんが悲しいんでしょう? 俺、悲しいよ。俺、先に死んじゃって魔王さんを悲しませることになるの、悲しい……嫌だ……」
「っ……!」

 魔王さんまで泣きそうな顔になってしまう。
 そうだよね。ごめん。
 魔王さんもきっと、俺と同じで考えないようにしていたのにね。

「……ライトがいなくなった後、何百年も一人で過ごすのは俺だ。俺が悲しいだけだ。だから、ライトは気にしなくていい。俺が耐えればいいだけだ。だから……考えないようにしていたのに……」

 あぁ、ほら。優しい人だ。

「ライトに出会ってしまったせいで、こんな幸せを知ったせいで、愛される喜びを知ったせいで……きっと、ライトが死んだ後は、ライトに出会う前の何倍もの孤独を味わうだろう。ライトに感謝しているのに、未来を思うと……ライトのせいで、ライトに出会わなければ、そんなことを思ってしまう。そんなことは思いたくない。今を、この幸せな時間をしっかり噛みしめたい。だから……」

 魔王さんが泣きそうな顔のまま唇を噛む。

「だから、考えないようにしていたのに」
「うん……」

 自分が悲しいから、俺が悲しむから……理不尽に俺を責めてしまうから、考えないようにしていたなんて。優しいなぁ。本当に優しい。
 そんな魔王さんが俺、大好き。

「俺は、悲しい魔王さんを想像したら悲しい」
「解っているならもういいだろう。考えさせないでくれ」

 魔王さんが首を振る。
 苦しいのが解る。
 でも、黙らない。

「だめ。ちゃんと話そう。俺、これは引き下がらないよ」

 まだ涙が残っている情けない瞳だけど、真っすぐ魔王さんに向けると、一瞬だけ視線が合って、また逸らされてしまう。

「……話しても、解決しないことを話しても無駄だ」
「無駄?」
「……エルフと違って、魔族は人間になれないし、人間は魔族になれない」
「そうだね」
「……本当は、ライトが死んだら俺も死ぬと言いたい。だが、魔王として生まれた俺は、国民を裏切ることはできない。したくない」
「えらいね。俺、魔王さんのそういうところ好き」
「……人間の寿命を延ばせても、せいぜい一五〇歳くらいまでだろう」
「人間からすれば充分に長生きだけど、魔族にとっては短いね」

 魔王さんの言い訳に一つ一つ頷いていくと、魔王さんは大きなため息をついて、悔しそうに吐き捨てた。

「ほら、どうしようもないだろう?」

 ……俺も、そう思っていた。
 でも……。

「そんなことないよ。俺、良いこと聞いちゃった」
「良いこと?」
「魔族は眷属っていうのが作れるんでしょう?」
「……!?」
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