113 / 368
第7章 その後の二人 / 魔力切れと覚悟の話
13日目
しおりを挟む魔王さんが遠征に出かけて一三日目。
疲労感はかなり薄まったけど、その分違和感は強くなった気がする。
ローズウェルさんには「導王様の魔力は昨日より微かに薄まっているように思います」とは言われたし、医務室担当の赤髪の魔族……やっと名前を聞けたエヴァンスさんにも、「薬や他者の魔力が多いので不安定かも知れませんが、魔力量は落ち着いてきましたね」と言われた。
俺が落ち着いているということは、魔王さんが落ち着いているということ。
良かった。
俺だってしんどいのは嫌だしね。
でも……
「そろそろお部屋に戻られますか?」
「あぁ、そうだね」
ずっと医務室のベッドで、医務室担当の魔族さんやリリリさん、ローズウェルさんが付き添ってくれていたけど、落ち着いたなら部屋に戻るべきだと思う。
ただ、本当は……今すっごく寂しいから、一人になりたくないんだけど……我儘だよね?
今日までみんな俺につきっきりで、沢山心配かけて、面倒見てもらったから、そろそろ……。
「リリリさんもローズウェルさんも、医務室のみんなも、いっぱい助けてくれてありがとう。何かお礼考えるね」
「執事の仕事をしただけです」
「私も、メイドの仕事をしただけです!」
ローズウェルさんもリリリさんも何でもない風に言うけど……俺、覚えているよ。
医務室に運ばれて、目が覚めた時の必死な二人の顔。
「だめ。俺の気が済まない」
こういうこと考えるのも楽しいし。
権利料や原稿料で稼いだお金も貯まっているし……。
俺が「何しよっかな~」と浮かれた声で呟くと、ローズウェルさんが真面目な顔からにっこりと笑顔になる。
「……でしたら、先日お願いしたお話、受けてください」
「お願い? なんだっけ?」
リクエストされるのも嬉しいけど……最近、お願いなんてされた?
「ライト様の絵を展示……できれば販売する話です」
「!?」
え?
今、その話持ち出す?
全然ノリ気じゃないけど……でも……あぁ、ローズウェルさんもだけど、リリリさんも「それいい!」って満面の笑顔になって……あぁ、もう!
こんなのだめって言えない。
「……わかった」
悔しい。
ローズウェルさんが有能な執事過ぎて悔しい。
信頼できる。
こんなの……こんなの、執事としては信頼できすぎる。
「でも、飾るならもう少しちゃんと描きたい。描きなおさせて。あと、魔王さんに相談してから」
「承知致しました」
「あと、医務室のみんなにも何か……」
俺たちを少し離れた場所で見守ってくれていたローブ姿の三人の方を向くと、一番お世話になったエヴァンスさんが俺に近づいてきた。
「あの、それでしたら、一つお願いがあります」
「うん。何?」
「今回の導王様による魔力付与は、とても珍しい事例です。後学のためにも、詳細をまとめた資料を作成したいと考えています。そこで、ライト様の経過観察を……落ち着かれないかもしれませんが、一日に五度ほど、させて頂けないでしょうか?」
「もちろん協力するよ! 観察してもらったら魔王さんの今の体調も解るよね? ぜひお願いしたい!」
今後似たようなことが起きてお世話になる可能性だってあるし……って、あれ?
「う、うぅ、あんなに、辛い思いをされたのに……ご自身より魔王様のことを……気遣って……か、かわいい……マジでかわいい。やべぇ……マジすげぇ、やべぇ……」
エヴァンスさんが目元を押さえて上を向く。
なんとなく、医務室の奥の二人を見ると……。
「ほんとに、この三日間も、ご自身が苦しい中、ずっと魔王様の心配をされて、気遣われて、もう、かわいかった……かわいくて、かわいかった……」
「ずっと、心配の方が大きかったけど、落ち着いたら、もう我慢できない……ライト様、かわいいよぅ。かわいい、天使様ぁ……」
うーん。結局これになるのか。
まぁ、ずっと緊張していたみんなが笑顔になったからいいか。
部屋で一人になるのは寂しかったから、定期的に来てくれることになって良かった……という気持ちは、口に出さずに飲み込んでおいた。
310
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。