魔王さんのガチペット

回路メグル

文字の大きさ
169 / 368
番外編1 ●●が怖い執事長の話

救い(3)

しおりを挟む
「今まで何人相手した?」
「一二人……です」
「それじゃあ、普段俺が頼んでいる店が一回金貨二枚だから……金貨二四枚の特別手当だな」
「え?」
「我が国の大事な兵士の士気を高めてくれたんだ。手当を出すのは当然だろう?」
「しかし……」
「もらってくれないと俺の気が済まない」

 金をもらったからといって、尊厳が戻るわけではない。
 だが……無理やりにでも対価のある仕事と割り切れば、私の心に重くのしかかる部分が少しだけ軽くなる気がした。

「それと、今後はもう応えなくていい」
「あ……」

 それは、私だってそうしたい。
 しかし、これから死に征く兵士たちは……。

「専用の男娼に頼む。希望する店があればだが……戦禍になってから人間の店は売り上げが減っているらしいから、そういう意味でも助けになるかもしれないだろう」
「……!」

 この方は……本当に自分の周りのことが見えている人だ。

「ただ、それでもお前に夜這いに来る奴はいるかもしれないから……ローズウェル、お前は今日から俺の専属性処理係になってもらう」
「え?」

 専属の……性処理係?
 ペットの代わりということか?
 一番様のことは尊敬しているが……。

「……と、いうことにしよう」
「ということに?」

 真剣な顔で話していた一番様が、普段よく見せてくれる楽しそうな笑顔になった。

「ん? 嫌か? 俺と本当にエッチしたかったのか?」
「いえ、それは……」

 一番様が嫌と言うよりも、仕事で顔を合わせる相手とは……。

「上司となんて気まずいよな? あと、俺もお前の顔は結構好きだけど、体がなぁ……最近更に痩せたか? 細すぎる。お前の体を見て勃つ気がしないんだよなぁ」

 ややデリカシーのない発言ではあるが、私を気遣っての冗談交じりなのだと思う。
 半分くらいは本気かもしれないが。

「堂々と宣言することでもないが、ここに来るまでに皆に見せつけたし、聞かれた時にはそう言っておけばすぐに噂は広まるだろう」

 先ほどの遠回りはそのために……?

「あと、切り込み隊を前線へおくる前日は、この部屋に泊まれ」
「そ、そんな、畏れ多く……!」
「万が一俺のものに手を出す奴がいれば、前線に送る前に死刑になるだろう? 兵士を減らしたくないんだ。それに、ローズウェルが不調だと仕事が滞る」
「あ……」
「その代わり、お前はソファだぞ? お前の方が小柄だし……一緒にベッドで寝ると、俺の体につぶされかねない。寝相が悪いからな」

 一番様のベッドは、いつも乱れていない。寝相の良い方なのに。
 上司と一緒だと休めないからという心配か。
 どこまで優しいんだ? この方は……

「一番様……」

 感謝、尊敬、そして……もうあんな思いをしなくても良いという大きな安心感。
 自分の瞳から、涙がこぼれていくのが解った。

「あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」
「よく頑張ったなぁ……」

 また優しく頭を撫でてくれた大きな手の持ち主に、一生、自分の全てをかけて仕えようと心に決めた。
 恩人だから。
 それ以上に、自分の全てをかけるに値する、素晴らしい方だから。

「この御恩は、一生、一生忘れません!」
「ははっ。大げさだなぁ」

 この日は、泣き疲れて寝てしまって……私はソファでと言われていたのに、この日だけは私がベッドで、一番様はソファでお休みになられていた。
しおりを挟む
感想 126

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。