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番外編1 ●●が怖い執事長の話
救い(3)
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「今まで何人相手した?」
「一二人……です」
「それじゃあ、普段俺が頼んでいる店が一回金貨二枚だから……金貨二四枚の特別手当だな」
「え?」
「我が国の大事な兵士の士気を高めてくれたんだ。手当を出すのは当然だろう?」
「しかし……」
「もらってくれないと俺の気が済まない」
金をもらったからといって、尊厳が戻るわけではない。
だが……無理やりにでも対価のある仕事と割り切れば、私の心に重くのしかかる部分が少しだけ軽くなる気がした。
「それと、今後はもう応えなくていい」
「あ……」
それは、私だってそうしたい。
しかし、これから死に征く兵士たちは……。
「専用の男娼に頼む。希望する店があればだが……戦禍になってから人間の店は売り上げが減っているらしいから、そういう意味でも助けになるかもしれないだろう」
「……!」
この方は……本当に自分の周りのことが見えている人だ。
「ただ、それでもお前に夜這いに来る奴はいるかもしれないから……ローズウェル、お前は今日から俺の専属性処理係になってもらう」
「え?」
専属の……性処理係?
ペットの代わりということか?
一番様のことは尊敬しているが……。
「……と、いうことにしよう」
「ということに?」
真剣な顔で話していた一番様が、普段よく見せてくれる楽しそうな笑顔になった。
「ん? 嫌か? 俺と本当にエッチしたかったのか?」
「いえ、それは……」
一番様が嫌と言うよりも、仕事で顔を合わせる相手とは……。
「上司となんて気まずいよな? あと、俺もお前の顔は結構好きだけど、体がなぁ……最近更に痩せたか? 細すぎる。お前の体を見て勃つ気がしないんだよなぁ」
ややデリカシーのない発言ではあるが、私を気遣っての冗談交じりなのだと思う。
半分くらいは本気かもしれないが。
「堂々と宣言することでもないが、ここに来るまでに皆に見せつけたし、聞かれた時にはそう言っておけばすぐに噂は広まるだろう」
先ほどの遠回りはそのために……?
「あと、切り込み隊を前線へおくる前日は、この部屋に泊まれ」
「そ、そんな、畏れ多く……!」
「万が一俺のものに手を出す奴がいれば、前線に送る前に死刑になるだろう? 兵士を減らしたくないんだ。それに、ローズウェルが不調だと仕事が滞る」
「あ……」
「その代わり、お前はソファだぞ? お前の方が小柄だし……一緒にベッドで寝ると、俺の体につぶされかねない。寝相が悪いからな」
一番様のベッドは、いつも乱れていない。寝相の良い方なのに。
上司と一緒だと休めないからという心配か。
どこまで優しいんだ? この方は……
「一番様……」
感謝、尊敬、そして……もうあんな思いをしなくても良いという大きな安心感。
自分の瞳から、涙がこぼれていくのが解った。
「あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」
「よく頑張ったなぁ……」
また優しく頭を撫でてくれた大きな手の持ち主に、一生、自分の全てをかけて仕えようと心に決めた。
恩人だから。
それ以上に、自分の全てをかけるに値する、素晴らしい方だから。
「この御恩は、一生、一生忘れません!」
「ははっ。大げさだなぁ」
この日は、泣き疲れて寝てしまって……私はソファでと言われていたのに、この日だけは私がベッドで、一番様はソファでお休みになられていた。
「一二人……です」
「それじゃあ、普段俺が頼んでいる店が一回金貨二枚だから……金貨二四枚の特別手当だな」
「え?」
「我が国の大事な兵士の士気を高めてくれたんだ。手当を出すのは当然だろう?」
「しかし……」
「もらってくれないと俺の気が済まない」
金をもらったからといって、尊厳が戻るわけではない。
だが……無理やりにでも対価のある仕事と割り切れば、私の心に重くのしかかる部分が少しだけ軽くなる気がした。
「それと、今後はもう応えなくていい」
「あ……」
それは、私だってそうしたい。
しかし、これから死に征く兵士たちは……。
「専用の男娼に頼む。希望する店があればだが……戦禍になってから人間の店は売り上げが減っているらしいから、そういう意味でも助けになるかもしれないだろう」
「……!」
この方は……本当に自分の周りのことが見えている人だ。
「ただ、それでもお前に夜這いに来る奴はいるかもしれないから……ローズウェル、お前は今日から俺の専属性処理係になってもらう」
「え?」
専属の……性処理係?
ペットの代わりということか?
一番様のことは尊敬しているが……。
「……と、いうことにしよう」
「ということに?」
真剣な顔で話していた一番様が、普段よく見せてくれる楽しそうな笑顔になった。
「ん? 嫌か? 俺と本当にエッチしたかったのか?」
「いえ、それは……」
一番様が嫌と言うよりも、仕事で顔を合わせる相手とは……。
「上司となんて気まずいよな? あと、俺もお前の顔は結構好きだけど、体がなぁ……最近更に痩せたか? 細すぎる。お前の体を見て勃つ気がしないんだよなぁ」
ややデリカシーのない発言ではあるが、私を気遣っての冗談交じりなのだと思う。
半分くらいは本気かもしれないが。
「堂々と宣言することでもないが、ここに来るまでに皆に見せつけたし、聞かれた時にはそう言っておけばすぐに噂は広まるだろう」
先ほどの遠回りはそのために……?
「あと、切り込み隊を前線へおくる前日は、この部屋に泊まれ」
「そ、そんな、畏れ多く……!」
「万が一俺のものに手を出す奴がいれば、前線に送る前に死刑になるだろう? 兵士を減らしたくないんだ。それに、ローズウェルが不調だと仕事が滞る」
「あ……」
「その代わり、お前はソファだぞ? お前の方が小柄だし……一緒にベッドで寝ると、俺の体につぶされかねない。寝相が悪いからな」
一番様のベッドは、いつも乱れていない。寝相の良い方なのに。
上司と一緒だと休めないからという心配か。
どこまで優しいんだ? この方は……
「一番様……」
感謝、尊敬、そして……もうあんな思いをしなくても良いという大きな安心感。
自分の瞳から、涙がこぼれていくのが解った。
「あ、ありがとうございます……ありがとうございます!」
「よく頑張ったなぁ……」
また優しく頭を撫でてくれた大きな手の持ち主に、一生、自分の全てをかけて仕えようと心に決めた。
恩人だから。
それ以上に、自分の全てをかけるに値する、素晴らしい方だから。
「この御恩は、一生、一生忘れません!」
「ははっ。大げさだなぁ」
この日は、泣き疲れて寝てしまって……私はソファでと言われていたのに、この日だけは私がベッドで、一番様はソファでお休みになられていた。
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