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番外編3 一番の●●
ライト様(2)
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なぜそんなことを?
いや、今はそれよりも……
「あぁ、すまない! まだ本格的に飼い始めて一ヶ月。躾がなっていなくて……国に帰ったらきちんと躾しなおしておこう」
どんな理由があったとしても、魔王の怒りがオファに向けば、まだペットになりたてで魔族に慣れていないオファは耐えられないかもしれない。
謝罪、そして私の指示だと思ってもらった方が良い。
前回だって勝手に勘違いしただろう?
だが……ライト様のことは特別気に入っているようだから、魔王が本気で怒ることも覚悟しないといけない。
攻撃魔法が飛んできて、ギリギリ保っていた緊張関係が崩れてしまうかもしれない。
この場をどうやって収めるか……。
最悪の事態まで頭をよぎったが……魔王は私の言葉など聞いていなかった。
「ライト! ライト、大丈夫か? 怪我は?」
「ワインが服にかかっただけだよ。大丈夫」
「俺がついておきながら、すまない……!」
「なんで魔王さんが謝るの? 俺が膝に座りたいなんて我儘言っちゃったからだよ」
私のこともオファのことも全く見ずに、ライト様の両肩を掴み、ワインのかかった場所を確認していた。
気に食わない敵国の王より、失礼なペットより、自分のペットの無事を……優先していた。
「それより魔王さん」
ライト様が魔王に笑顔を向けてから、ゆっくりと王座から降りる。
音楽も話し声も止まり、私を含めその場の全員がライト様を見ていたと思う。
「……」
え?
なぜ私にかわいらしく笑顔を向けるんだ?
驚いていると、ライト様はすぐにくるっと振り返り、魔王へ笑顔を向ける。
「よかったね」
「え?」
「え?」
魔王も私も他の魔族たちも、目を瞬かせて驚いた。
よかった?
ワインをかけられて、なぜ?
「魔王さん、最後までこの服にするか、もう一つの服にするか迷っていたけど……汚れちゃったのを理由に、堂々ともう一着にお色直ししてみんなに見てもらえるね」
「あ……ライト……」
「魔王さんがこっちの方が似合うって言ってくれたからコレにしたけど……俺、本当はもう一着の方が気に入ってたんだ。ラッキー」
「あ……あぁ」
銀色の詰襟の胸元を軽く引っ張って肩をすくめる姿がかわいくて仕方がない。
魔王の声も落ち着き、表情が緩んだのが解った。
かわいいだけでなく、考え方も天才的にかわいい。
そして……
「オファちゃんは、汚れてない? 服大丈夫?」
「え? あ、はい……」
オファの心配まで?
な、なんて優しいんだ?
天使ちゃんか?
「……」
「え? あの……」
ライト様は笑顔のままじっとオファの顔を覗き込む。
なんだろう?
かわいいとかわいいが並んでめちゃくちゃにかわいいのだが?
「汗かいているみたいだけど、化粧直ししなくて大丈夫?」
「!?」
化粧? そういえば最近、私と会う時は毎日化粧をして、オシャレを頑張ってくれているなかわいいなと思っていたが……?
「まぁいいや。俺、着替えてくるね」
オファの肩をポンと叩いて、ライト様は出口へと向かう。
ただ歩いているだけなのに。
服はワインで汚れているのに。
とても、とても、かわいくて……。
「みなさん、次の衣装もお楽しみに……ね?」
は?
なんだ今のポーズ。
片目を瞑りながら手を振るポーズ……なぜこんな、こんな……。
「おぉぉぉぉぉ!」
「うわぁっ!?」
「か、かっわいい!」
「かわいい……」
会場全体からうめき声と叫び声が上がる。
立場上堪えたが、私も叫びそうだった。
かわいくて……かわいすぎて……私も魔王も、もうライト様で頭がいっぱいだった。
「その……本当に、本当に悪かった。必ず詫びはする」
「あ、あぁ……」
二人ともお互いの顔なんか見ずに、一応の話の決着だけはつけて、ただただライト様が出て行った扉を眺めていた。
……オファは、ローブの胸元を押さえて俯いていたが……失敗を反省しているのだろうと思って、あまり気にしていなかった。
飼い主、失格だな。
いや、今はそれよりも……
「あぁ、すまない! まだ本格的に飼い始めて一ヶ月。躾がなっていなくて……国に帰ったらきちんと躾しなおしておこう」
どんな理由があったとしても、魔王の怒りがオファに向けば、まだペットになりたてで魔族に慣れていないオファは耐えられないかもしれない。
謝罪、そして私の指示だと思ってもらった方が良い。
前回だって勝手に勘違いしただろう?
だが……ライト様のことは特別気に入っているようだから、魔王が本気で怒ることも覚悟しないといけない。
攻撃魔法が飛んできて、ギリギリ保っていた緊張関係が崩れてしまうかもしれない。
この場をどうやって収めるか……。
最悪の事態まで頭をよぎったが……魔王は私の言葉など聞いていなかった。
「ライト! ライト、大丈夫か? 怪我は?」
「ワインが服にかかっただけだよ。大丈夫」
「俺がついておきながら、すまない……!」
「なんで魔王さんが謝るの? 俺が膝に座りたいなんて我儘言っちゃったからだよ」
私のこともオファのことも全く見ずに、ライト様の両肩を掴み、ワインのかかった場所を確認していた。
気に食わない敵国の王より、失礼なペットより、自分のペットの無事を……優先していた。
「それより魔王さん」
ライト様が魔王に笑顔を向けてから、ゆっくりと王座から降りる。
音楽も話し声も止まり、私を含めその場の全員がライト様を見ていたと思う。
「……」
え?
なぜ私にかわいらしく笑顔を向けるんだ?
驚いていると、ライト様はすぐにくるっと振り返り、魔王へ笑顔を向ける。
「よかったね」
「え?」
「え?」
魔王も私も他の魔族たちも、目を瞬かせて驚いた。
よかった?
ワインをかけられて、なぜ?
「魔王さん、最後までこの服にするか、もう一つの服にするか迷っていたけど……汚れちゃったのを理由に、堂々ともう一着にお色直ししてみんなに見てもらえるね」
「あ……ライト……」
「魔王さんがこっちの方が似合うって言ってくれたからコレにしたけど……俺、本当はもう一着の方が気に入ってたんだ。ラッキー」
「あ……あぁ」
銀色の詰襟の胸元を軽く引っ張って肩をすくめる姿がかわいくて仕方がない。
魔王の声も落ち着き、表情が緩んだのが解った。
かわいいだけでなく、考え方も天才的にかわいい。
そして……
「オファちゃんは、汚れてない? 服大丈夫?」
「え? あ、はい……」
オファの心配まで?
な、なんて優しいんだ?
天使ちゃんか?
「……」
「え? あの……」
ライト様は笑顔のままじっとオファの顔を覗き込む。
なんだろう?
かわいいとかわいいが並んでめちゃくちゃにかわいいのだが?
「汗かいているみたいだけど、化粧直ししなくて大丈夫?」
「!?」
化粧? そういえば最近、私と会う時は毎日化粧をして、オシャレを頑張ってくれているなかわいいなと思っていたが……?
「まぁいいや。俺、着替えてくるね」
オファの肩をポンと叩いて、ライト様は出口へと向かう。
ただ歩いているだけなのに。
服はワインで汚れているのに。
とても、とても、かわいくて……。
「みなさん、次の衣装もお楽しみに……ね?」
は?
なんだ今のポーズ。
片目を瞑りながら手を振るポーズ……なぜこんな、こんな……。
「おぉぉぉぉぉ!」
「うわぁっ!?」
「か、かっわいい!」
「かわいい……」
会場全体からうめき声と叫び声が上がる。
立場上堪えたが、私も叫びそうだった。
かわいくて……かわいすぎて……私も魔王も、もうライト様で頭がいっぱいだった。
「その……本当に、本当に悪かった。必ず詫びはする」
「あ、あぁ……」
二人ともお互いの顔なんか見ずに、一応の話の決着だけはつけて、ただただライト様が出て行った扉を眺めていた。
……オファは、ローブの胸元を押さえて俯いていたが……失敗を反省しているのだろうと思って、あまり気にしていなかった。
飼い主、失格だな。
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