魔王さんのガチペット

回路メグル

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番外編3 一番の●●

ライト様(3)

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 着替えて戻って来たライト様もすごかった。
 どの魔族にも、気難しいエルフやドワーフの王にも、物おじせず笑顔を向けておしゃべりをしていた。
 横に魔王がついているわけでもないのに、あんな風に堂々と……そして可愛らしく振る舞えるなんて信じられなかった。
 しかも、ただ楽しく話すだけではない。
 一瞬で懐に入っていった。
 この世の全てを手に入れて、どんな贈り物も言葉も喜ぶことのない国際商工ギルドのギルドマスターがあんなに喜ぶなんて。
 私が距離を縮めようと何度声をかけても会話が弾まなかったエルフの王が、献上品の約束をするほど気に入るなんて。

 そして……

「はい、導王様。どうぞ」
「あ、あぁ……」

 先ほど、ひどいことをした私たちにも、他の来賓へ向けたのと同じ笑顔を向けてくれた。
 なんだ? 天使ちゃんかと思ったが、もっと慈悲深い女神様か?
 ライト様は笑顔のまま私の後ろに隠れるオファを覗き込む。
 その仕草もかわいい……!

「あと、オファちゃんにはお花じゃなくて……特別にこれ」
「え?」

 ……え?
 他の来賓のペットにはバラの花を渡していたのに?
 ライト様は笑顔だが、オファにだけは茶色い地味な紙袋を渡す。
 なぜ? やはり……内心怒っているのか?

「化粧水とクリーム」
「……っ!?」

 オファが出しかけた手を止める。
 化粧水? クリーム?
 なぜオファに?
 それに、オファも……なぜ焦るんだ?

「あ、疑ってる? 大丈夫、毒じゃないよ……ほら」

 ライト様は袋から瓶を取り出し、目の前で手に塗り込んで見せてくれる。
 手に塗り込むさりげない動作が美しい。

「これ、使い心地いいんだよ? 見て、俺の肌キレイでしょう? これでおしろいも何も使っていない素肌なの、ちょっと自慢」
「っ……!」

 オファが唇を噛んで下を向く。
 ……オファ?
 さっきから、オファのことがよく解らない。
 私は飼い主なのに……。

「ねぇオファちゃん。肌荒れしているところにおしろい塗りたくるの、良くないって知ってる?」
「……はい」

 肌荒れ?

「なんで肌荒れしているかわかってる?」
「……いいえ」

 オファが俯いたまま微かに首を振る。

「俺もプロじゃないけどね……」

 ライト様は前置きをしてからもう一歩オファに近づいて顔を覗き込んだ。

「まずは食生活乱れすぎ。さっきから肉、しかも揚げ物ばかり食べてるよね? 油とりすぎ。あと、甘い物もクリームとか脂肪が多い物選びすぎ。ニキビできるの当然」
「え?」

 食生活? 確かに、オファが喜ぶから……ぽっちゃりして欲しいから、揚げ物も甘い物も沢山与えていたが……。
 肌荒れ? 言われてみれば……角度によっては……?

「あと、洗顔の時、ちゃんと石鹸泡立ててる? ゴシゴシ力まかせに擦ってない? 荒れているからって汚れ落とそうとしてない? 石鹸でも、洗った後のタオルでもゴシゴシしたら余計に荒れるよ」
「え? え?」
「あと、オイル系のもの顔に塗ってるでしょ? テカリやばい。オイリー肌にオイル塗ってない?」
「えぇ……?」
「それと、手や髪が顔に当たるのも良くない。その長い前髪切った方が良いよ」
「でも……」
「隠したい?」
「……はい」

 オファが泣きそうな顔でまた下を向く。
 私に顔が見えなくなるが……最近下を向いていることが多かったのは、まさか……!?

「肌、荒れてるのがバレて導王様に嫌われるのが嫌?」
「っ……はい……」

 ……!

「だから常に導王様のちょっと後ろにいるんだ?」
「……はい」

 ……!!!!

「導王様のこと、大好きなんだね? ペットとしては尊敬するよ」

 オファ……?
 え……?

「オファちゃん……」

 ライト様がその場に片膝をついて、オファの顔を覗き込む。

「肌荒れって辛いよね。よく頑張ったね」

 ライト様がオファに優しく話しかけている間、あまりの衝撃で頭の中がぐちゃぐちゃだった。
 そんなことで悩んでいたのか?
 しかも原因は私にもあるのか?
 私が好きだから打ち明けられなかったのか?

「良い子だね」
「あ……」
「……」
「あ、あの……」
「オファ!」

 ライト様が立ち上がって、オファから一歩離れた瞬間、頬を赤くして泣きそうになっているオファに堪らず抱き着いた。

「そんなことを気にしていたのか!?」
「あ……」
「お前は、いてくれるだけでかわいいのだから……そんなこと、気にしなくていい!」
「導王様……」
「しかし、お前の悩みに気付いてやれなかった。飼い主失格だ。すまない。これからはお前の悩みにきちんと寄り添おう!」

 自分の威厳も立場も、なりふり構わず叫ぶと、私たちを見守ってくれているライト様が声をかけてくれた。

「そうだよ、年齢や体質で仕方がない場合もあるけど、ストレスとか、不潔な環境とか、服やリネンの素材とか、肌に悪い物はたくさんあるんだから、導王様がきちんとオファちゃんをかわいがってあげてよ? 魔王さんは俺の食事にも気を使ってくれているし、俺に触れる時はきちんと手を洗ってハンドクリーム塗ってからにしてくれるよ」

 清潔は心がけていたつもりだが……そうか……私は人間に詳しい気でいたが、まだまだ無知ではないか。

「そ、そこまで……そうか……悔しいが、何の反論もできない」
「導王様、オファちゃんがこんなに導王様を慕っているってことは、導王様はすごく優しくてペットに愛情を与えてくれる素敵な飼い主さんなんだと思うよ。でも、かわいがるだけが飼い主の責任じゃない。きちんとオファちゃんを見てあげて? 導王様ほど愛情深い人ならできると思うから」

 ライト様……なんて方だ。
 ただ叱るのではなく、私のことをたった数分顔を合わせただけでこんなにも理解してくださって……あぁ、やはり女神様かもしれない。
 ライト様の言葉をしっかりと噛みしめて頷いた。

「……あぁ、そうだな。オファ、これからは一層お前のことを大切にするからな!」

 オファのことを大切にすると決めたのに、独りよがりだった。
 魔王よりもペットといい関係を築けているというおごりがあった。
 もう六人目だからという油断もあった。

 国に戻ったらきちんとオファと対話しよう。
 オファのことを、もっと深く知って、いつものペットではなく、オファという一人の人間と対峙しよう。

「それじゃあ、お幸せに」

 かわいいライト様の声を聴きながら、オファを抱きしめる手に力を込めた。
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