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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話
リハーサル三日目(1)
しおりを挟む翌日。
お城の夕食を仕切る最終日。
「イユリちゃん、どう?」
「完璧です。かっこいいです。最高です。ライト様はなにをお召しになってもかっこいいんですがやっぱりそのスーツ! かっこいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!」
式典やパーティーの時にしか着ない、元の世界から持ってきた黒いスーツを着てみせると、イユリちゃんが仕事中の真面目な顔を忘れて叫び声なのかうめき声なのか……まぁ、いい反応だよね。
でも……
「イユリちゃんも似合っているよ」
「あ……そ、そんな、ライト様には負けます」
今日はイユリちゃんも似た服装。
イユリちゃんが異世界風のこのスーツや襟のあるシャツを毎回褒めてくれるから、今年の誕生日にリリリさんに頼んで作ってもらった、似た形の濃い灰色のスーツ姿だ。
普段のフロックコートとそう変わらないけど、スーツの方がスタイルがいいのが強調される。
年々背が伸びてモデル体型になるイユリちゃんは上手に着こなしていた。
ちなみに、俺もイユリちゃんもうっすらメイクなんかもして、髪は特別な日にする編み込み入りのハーフアップ。
いつものシンプルな指輪に加えて、派手な石のはまったリングもつけた。
「うぅ、本気のライト様の破壊力……すごい……」
姿見の前に立って、俺が一番かっこよく見える表情と姿勢をとると、イユリちゃんが「恍惚」って感じの顔でため息をついた。
「ちゃんと特別感ある?」
「ありすぎます!」
「よし。じゃあ魔王さんのところに行こうか」
「はい!」
魔王さん、喜んでくれるかな……まぁ、絶対に喜んでくれる自信があるけど。
◆
――コンコン
「魔王さん、ご飯だよ」
「あぁ、ライト……ライト!?」
魔王さんの執務室に入った瞬間、魔王さんが椅子から立ち上がって叫んだ。
驚きと嬉しさが100%ずつって感じの顔だな。
「あ、ど、どうして、その、なぜ、かわいい……!」
ちゃんと喋れていないな。俺がかわいいかもしれないけど、魔王さんもかわいい。
「今度、俺がしたいと思っている『おもてなし』の練習に付き合ってほしくて」
「あ、あぁ、そうか。正装の?」
「見た目だけじゃないんだけど……魔王さん」
魔王さんに近づいて掌を差しのべる。
魔王さんは一瞬不思議そうな顔をした後、ゆっくりと自分の手を重ねてくれた。
大正解。
「こっち、来て」
「あぁ」
魔王さんの手をそっと握って、引いて、なるべく恭しく、執務室の入り口に置かれている応接セットのソファまでエスコートすると、イユリちゃんが食事を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。
「……?」
部屋で食べるときもソファに座って食べるからいつもと同じようだけど、今日は俺が向かいではなく魔王さんのすぐ右隣に座る。
「今日は俺がおもてなしするからね」
「……?」
魔王さんはまだ不思議そうだけど、まぁいいや。すぐにわかってもらえるはずだ。
「まずは飲み物……本当はお酒を出してあげたいんだけど、この後もお仕事って聞いたから……」
イユリちゃんがワゴンから俺の目の前にグラスやボトルを置いてくれる。
「食事にも合うノンアルコールのスペシャルドリンク」
「あ、あぁ……」
魔王さんがまだ呆然としながら俺の手元を見る。
ホスト時代に鍛えた所作、まだ手が覚えていてよかった。
小さなトングを使って、凍らせたレモンや柑橘類をグラスに入れ、オレンジジュースを少しとよく冷えたブドウジュースを注ぐ。
「はい。お肉によく合うから、食が進んじゃうと思うよ」
グラスを魔王さんの前に差し出したタイミングで、イユリちゃんが他の料理も並べ始めた。
分厚いステーキやソースがかかったショートパスタ、パン、バター……特別ではないいつもの夕食だ。
作ったのは料理長さんではなく、昨日、一昨日と料理を作ってくれたお店の魔族さんだけど。
「あ……ライトが、作ってくれた飲み物で、食事を……? 昨日のパンといい、なんてすばらしいサービスだ!」
やっと魔王さんが俺のおもてなしを理解してくれたみたいだけど、違うんだよなぁ。
まぁ、今はこれでいいか。
「喜んでもらえてよかった。じゃあ、乾杯しよ?」
「あぁ」
自分用にも同じ飲み物を作って、魔王さんのグラスに近づけた。
「お疲れ様」
「ライトも……お疲れ」
魔王さんはグラスの中身を一口飲むと、すぐに口元を緩ませた。
「美味いな。確かに肉料理に合いそうな味だ」
「でしょう? そうだ、お肉も……ソースとフライドオニオンをかっこよくかけて……はい」
「ははっ! ライトは絵が上手いだけでなく盛り付けのセンスまであるのか!」
俺が仕上げをすると、魔王さんは予想以上に上機嫌でナイフとフォークを構えた。
「あぁ、美味いな。飲み物とも合う。しかし……ライト、今日もライトは食べないのか?」
昨日は魔王さんの前に立ってサンドイッチづくりに専念していたからね。
今日もそういうことだと思った?
「うん。俺のことは気にしないで、美味しく食べて。今日の俺は魔王さんをおもてなしする係だから」
「あ……あぁ?」
よく解らないけど嬉しいなって顔しているな。
仕方ないよね。
だって、この国に、この世界に、そういうサービスや職業が無いらしいから。
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