魔王さんのガチペット

回路メグル

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第10章 その後の世界 / パーティーとやりたいことの話

リハーサル三日目(2)

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「ねぇ魔王さん。今日はお仕事、なにを一番頑張った?」
「今日は……会議の議題をまとめるのが大変だった。各国から上がってきている議題が、今回は珍しくバラバラで……緊急のものがあれば優先するのだが、ほとんどが緊急性は薄く、しかしいつかは話しあわねばならないような議題で……優先順位を付けなければいけないが、俺の取捨選択が正しいか不安だ」
「そっか、物事を決めるって大変だよね。しかも魔王さんが決めたことで、もしかしたら困ることが出るかもしれないなんて、プレッシャーだね」
「あぁ。未来のことなんて誰にもわからないから、ある程度は仕方がないが……どれも将来的には国や国民にかかわる大事な議題だ」
「でも、そんなに悩んだり、プレッシャーを感じたりするってことは、魔王さんはそれだけ真剣で責任感があるってことだよね。テキトーに仕事している人ならそんなに大変な思いしないよ? えらいなぁ、魔王さん。お仕事……世界中の人のこと、誰よりもしっかり考えていてえらい。尊敬する」
「あ……」

 魔王さんは、「自分が仕事をするのは当たり前」と思っているからなぁ。
 仕事なんて重要度に関係なくなんでもえらいけど、魔王さんは特にたくさんの人のために働いているからえらいのにね。

「みんな解っているのかな? 魔王さんがこんなに苦しみながら本気でお仕事していること。魔王さんのおかげで、世界中のみんなが幸せなこと」
「それは……どうだろうな」
「わかっていない人も多そうだよね? じゃあ、俺が世界のみんなを代表して……」

 ちょうどナイフを離した魔王さんの右手に触れて、ゆっくりと両手で掌を握る。

「魔王さん、えらいね。みんなを幸せにしてくれて、ありがとう」

 魔王さんの顔を覗き込みながら……この角度。
 俺の一番のキメ顔。
 目の前の人が愛しくてたまらない、ちょっと色気もある切ない微笑み。

「ふぁ」

 魔王さんの体温が一気に上がった気がした。
 カッコイイ顔が驚きと嬉しさで緩んで、口からはよく解らない間抜けな声がでる。
 俺のことを好きにさせるための顔だから、すでに俺のことが好きな魔王さんにはしてこなかった顔なんだけど……効果あるみたいでよかった。

「今日は、俺の大好きな魔王さんの素敵なところがまた一つ知れて嬉しいな」
「あ……いや……」

 魔王さん、ちょっと手を撫でるだけで顔を真っ赤にして喜びすぎ……俺たち、もっともっと濃いスキンシップもたくさんしているのにね。

「じゃあ、頑張っている魔王さんのために特別。パスタに美味しくなる魔法をかけてあげようかな」
「魔法?」

 魔王さんが不思議そうに首をひねる。
 あぁ、この言い方は元の世界的過ぎたかな? この世界で、魔王さんたち魔族は魔法が使えるけど、人間は使えないよね。
 
「本物の魔法じゃないけど……魔法みたいに美味しくなるよ」

 イユリちゃんがテーブルの端に置いてくれていた、粉チーズと香草が入った筒へ手を伸ばす。

「これを……美味しくな~れ」

 ミートソース風のショートパスタにチーズを振りかけて……

「魔王さん、よくがんばっているからオマケでもうちょっと」

 魔王さんに微笑みかけてから更にチーズをかける。
 絶対にかけすぎだけど、チーズも魔力を作るのに必要な栄養が入っているらしいからいいかな。

「これで元気出してお仕事頑張ってね」
「あ、あぁ……!」
 
 魔王さんが目を輝かせながらパスタを見つめる。
 反応良すぎるな。
 そんなに喜ばれるともっとしてあげたくなる。

「あーん、もする?」
「す、する!」

 今度は輝く視線が俺に向いた。
 本当、反応良すぎ。かわいい。

「じゃあ、あーん」

 スプーンでショートパスタとチーズをたっぷりすくって魔王さんの口元に近づけ、自慢の美形が崩れない程度に口を開くと、魔王さんも俺にならって大きく口を開く。

「あー……ん! うまい! 本当に魔法のようだ!」
「でしょ? なんで美味しいかわかる?」
「それは……ライトがチーズをかけてくれたから」
「そうなんだけど、ちょっと違うかな?」
「……?」

 もう一口、スプーンでパスタをすくって……ちょっとキザかな? いや、魔王さんは絶対に喜ぶ。

「俺が魔王さん大好きっていう愛情を込めたから美味しいんだよ」

 チュッ、とスプーンの底にキスをしてから魔王さんの方へ向けると、魔王さんは目を大きく見開いて思い切り驚いた後、にやける顔を抑えられない、締まりのない顔になっていく。

「あい……じょう……あ……そ、そう……か。なるほど……おぉ……」
「ほら、俺の愛情感じながら味わってみて?」
「あぁ……」

 魔王さんの口元にスプーンを寄せると、魔王さんは大きな口でスプーンをくわえ……

「ん! うう、うまい……口の中が幸せだ……!」

 さっきよりいい反応をしてくれるけど、もうちょっと煽っておこう。

「口の中だけ?」
「全身幸せだ!」
「ふふっ、よかった」

 魔王さんが幸せそうな顔をすると、俺も自然と幸せになってしまうので、これは計算でもなんでもなく魔王さんに笑顔を向ける。
 ホスト時代にお客さんを笑顔にするのは楽しかったけど、魔王さんを笑顔にするのはその何倍も楽しいな。

「はぁ……これがライトの言う『もてなし』か。やはり天才だ。なぜ、俺が言われたい言葉がわかるんだ?」
「なんでだろうね? 魔王さんのことが大好きだからかな?」

 魔王さんが特に喜ぶ「かわいい俺」って感じで返事をしたけど、幸せそうな、とろけそうな笑顔のまま魔王さんが首を横に振る。

「ライトの愛も確かに感じる。しかし、言葉でも、行動でも、かわいい見た目でも相手を喜ばせるなんてライトは天才すぎる。奇跡だ。こんな才能まであるなんて!」

 魔王さんが感心したようにパスタのお皿を眺めつつ、グラスへと手を伸ばす。
 あ、中身減っているから次の用意をしておこう。

「ありがとう。これでもプロだったからね」
「プロ……?」

 ちょうど中身がなくなった魔王さんのグラスを受け取って、すぐに次のドリンクを作る。さっきとほぼ同じだけど、オレンジジュースではなくイチゴのジュースにした。

「今日のおもてなしは、俺が元の世界でしていた『ホスト』っていうお仕事を再現してみたんだ」

 ホストクラブでは食事はスナック程度しか提供しないから、系列にあったメイド喫茶も参考にしているけど。

「そうか。以前言っていたな。接客をしていたと。なるほど、接客と言ってもこんなに高度なことなのだな……」

 魔王さんは新しいグラスを受け取り、それにも感心しながら大きく頷いた。

「とても素敵なもてなしだ。だが……」

 魔王さんが折角嬉しそうだったのに、顔を曇らせる。
 なんとなく、不安に思う気持ちはわかるけど、魔王さんの次の言葉を待った。

「……このもてなしも、今度のパーティーで取り入れるのか? ライトが、他の王にも……というのは……い、っ……い……」

 嫌、って言いたいけど我慢している? 俺の考えたこと、頑張っていることを応援したいから?
 あぁ、やっぱり魔王さんかわいい。いじらしい。
 でも、大丈夫だよ。安心してね。

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