15 / 16
喜べない勝利
しおりを挟む
「ゲーム! アンドウォンバイ、高中・小山内!」
加藤が高らかに宣言し、わあっと歓声がコートを包む。
「すげぇやん、渉! まさかの大逆転劇や!」
「さすが一年エースやなぁ!」
コートを囲む仲間たちが、興奮気味に話してるんが聞こえてきた。俺も呆然として膝に手をつき、荒い息を吐く。
――信じられへん。勝ってしまうやなんて……
あの後、試合展開は急転した。渉の連続ポイントで、追いつき追い越し……まさかの逆転勝利をおさめたんや。
「……っ」
俺は、何も出来ひんかったのに。ラケットをぎゅっと握りしめ、渉を振り返る。いつも通り、シャツを引っ張って汗を拭ってる渉が、どこか違って見える。
「おい! タラタラしてんな。握手!」
山田先輩の大音声が響いた。俺は、慌ててネットまで駆け寄った。渉が後ろに来とる足音に、少し安堵しながら。
「すみません!」
ネットごしに、山田先輩と副キャプと握手を交わす。熱く濡れた手のひらに、先輩らの本気さを感じて、どきりとした。
「先輩、ありがとうございましたっ」
「ええ動きしてたで、つむぎ。なあ、ヤマ」
「そうすかね。まあ、ああいう状況でミスせんのは褒めたるわ」
「あはは……」
俺は、ぎこちなく笑った。
ああいう状況、って言うのは……渉の独壇場って意味やろな。あそこで得点に絡めへん俺は、ミスせんようにだけつとめてたの、先輩らにはバレバレやったんや。
ついで、渉も握手をする。
「今回はやられたわ。無茶な奴やなぁ、渉は」
「っす」
副キャプの賛辞に、渉は軽く会釈する。山田先輩は気に入らへんかったんか、じろりと渉を睨んだ。
「高中。勝ったからて図に乗んなよ。2ゲームぽっち、何の駆け引きもないんやからなぁ!」
「はあ、そうすね」
「……渉!」
白けた顔で、肩をすくめてみせる渉にぎょっとする。なんでそんなに好戦的やねん。狼狽していると、山田先輩が額に青筋を浮かべ、吼える。
「クソガキが……ええか、高中。お前がやったんは、ダブルスとちゃうわ!」
太い声が、俺の胸を貫く。
副キャプが低く叫んだ。
「ヤマ!!」
ふだん穏やかな副キャプの怒声に、コートがシンと静まり返る。山田先輩も、ぐっと押し黙った。
「その辺にせえ。負けたからって、騒ぐのはカッコ悪いで」
「……うす。すんません」
萎れてる山田先輩に頷いて見せると、副キャプはころりと笑顔になった。
「お前ら、すまんな。色々ええ勉強になったわ!」
「あっ、いえいえ! こちらこそ、ありがとうございました!」
すまなそうに片目をつぶられ、俺は慌てて頭を振った。
すると、副キャプは山田先輩の背を押し、コートを出ていかはった。出て行く寸前に見えた、二人の横顔は真剣で……きっと、ペアとして、ゲーム内容の検討をするんやろうと思った。負けたあとは、それこそ念入りにせなあかんから――。
「……いいなぁ」
思わず呟いて、ハッとする。
――いいな、って何? 勝ったんやで、俺らは……。
試合に負ける悔しさより、ずっといいはずや。なのに……なんで、こんなに苦しいんやろう?
胸を押さえてぼんやりしていると、足下に影が重なってきた。
俺は、はっとして顔を上げた。
「つむぎ」
渉が、俺を見下ろしていた。
顎をふんと突き出して、得意そうな笑みを口に浮かべとる。「どうや!」と思っとるのが、ありありと伝わってくるん。
勝ち誇っとる割に、嫌みの一つもない渉に、俺はちょっと首を傾げた。
――もしかして、褒めてほしいんやろうか。
こういう時、俺はいつも思いっきり褒めてたから。小さいころからの習い性って言うのもあるけど……俺は、渉が好きやから、勝手に褒め言葉が出てくるねん。
「あ……そのっ」
せやのに、なんでかのどが干からびてしもて、声が出えへん。目の前の渉を見上げたまま、呆然と立ち尽くしとったら……渉が、少し不思議そうな顔をする。
「つむ――」
眉を寄せ、俺に手を伸ばしてきた……そのとき、
「渉ーっ!」
澄んだ声が響き渡る。
たかたかと軽い足音が近づいてきたと思うと、細身のシルエットが俺と渉の間に割り込んできた。
「……っ!?」
逞しい胸に飛び込んだ黒髪に、俺はゾッとする。
「うわっ、沙也!?」
「渉、すごかったですっ!」
ぎょっと声を上げた渉に、沙也さんが明るい声で賛辞を贈る。白く繊細な頬が薔薇色に染まって、目がきらきらしとる。ほんまに、「渉が勝って嬉しい」と伝わる様子に、呆気にとられていた渉が笑顔になる。
「さっきのプレイはなんなんですか? あんなショット、見たことありませんっ」
「はは、そうやろ! また、教えたるわ」
心から嬉しそうな渉に、俺は胸が詰まった。
――そんなに嬉しい? 俺は……
けど、沙也さんが近づいたのを皮切りに、わらわらと試合を見ていたみんなが駆け寄ってくる。渉の背を叩いたりしながら、興奮気味に賛辞をおくっとる。
俺は、次第に押しのけられて……渉から遠のいてしもた。
「つむぎ、おめでと~。にしても、渉のやつすげぇやんなあ。あんなん出来るとは思わんかったわ~」
「加藤……」
審判台を下りた加藤が、俺の肩を叩く。チームメイトの躍進を喜ぶ、まっすぐな気持ちが伝わってきて……俺は、一気に後ろめたくなる。
「ナイスジャッジ、加藤。俺……クールダウンしがてら、田中とアッキーの様子見てくるわ」
これ以上、重たい感情を抱えて、ここにいたくなかったんや。加藤は不思議そうに目を瞬く。
「えっ、渉は……」
「後で行くやろ。今は、ヒーローやから!」
俺は誤魔化すように笑うと、走ってコートを出た。
――あかん。なんか変や、俺……
一目散に走る俺は、気づかんかった。輪の中心から渉が見ていたことなんて――。
加藤が高らかに宣言し、わあっと歓声がコートを包む。
「すげぇやん、渉! まさかの大逆転劇や!」
「さすが一年エースやなぁ!」
コートを囲む仲間たちが、興奮気味に話してるんが聞こえてきた。俺も呆然として膝に手をつき、荒い息を吐く。
――信じられへん。勝ってしまうやなんて……
あの後、試合展開は急転した。渉の連続ポイントで、追いつき追い越し……まさかの逆転勝利をおさめたんや。
「……っ」
俺は、何も出来ひんかったのに。ラケットをぎゅっと握りしめ、渉を振り返る。いつも通り、シャツを引っ張って汗を拭ってる渉が、どこか違って見える。
「おい! タラタラしてんな。握手!」
山田先輩の大音声が響いた。俺は、慌ててネットまで駆け寄った。渉が後ろに来とる足音に、少し安堵しながら。
「すみません!」
ネットごしに、山田先輩と副キャプと握手を交わす。熱く濡れた手のひらに、先輩らの本気さを感じて、どきりとした。
「先輩、ありがとうございましたっ」
「ええ動きしてたで、つむぎ。なあ、ヤマ」
「そうすかね。まあ、ああいう状況でミスせんのは褒めたるわ」
「あはは……」
俺は、ぎこちなく笑った。
ああいう状況、って言うのは……渉の独壇場って意味やろな。あそこで得点に絡めへん俺は、ミスせんようにだけつとめてたの、先輩らにはバレバレやったんや。
ついで、渉も握手をする。
「今回はやられたわ。無茶な奴やなぁ、渉は」
「っす」
副キャプの賛辞に、渉は軽く会釈する。山田先輩は気に入らへんかったんか、じろりと渉を睨んだ。
「高中。勝ったからて図に乗んなよ。2ゲームぽっち、何の駆け引きもないんやからなぁ!」
「はあ、そうすね」
「……渉!」
白けた顔で、肩をすくめてみせる渉にぎょっとする。なんでそんなに好戦的やねん。狼狽していると、山田先輩が額に青筋を浮かべ、吼える。
「クソガキが……ええか、高中。お前がやったんは、ダブルスとちゃうわ!」
太い声が、俺の胸を貫く。
副キャプが低く叫んだ。
「ヤマ!!」
ふだん穏やかな副キャプの怒声に、コートがシンと静まり返る。山田先輩も、ぐっと押し黙った。
「その辺にせえ。負けたからって、騒ぐのはカッコ悪いで」
「……うす。すんません」
萎れてる山田先輩に頷いて見せると、副キャプはころりと笑顔になった。
「お前ら、すまんな。色々ええ勉強になったわ!」
「あっ、いえいえ! こちらこそ、ありがとうございました!」
すまなそうに片目をつぶられ、俺は慌てて頭を振った。
すると、副キャプは山田先輩の背を押し、コートを出ていかはった。出て行く寸前に見えた、二人の横顔は真剣で……きっと、ペアとして、ゲーム内容の検討をするんやろうと思った。負けたあとは、それこそ念入りにせなあかんから――。
「……いいなぁ」
思わず呟いて、ハッとする。
――いいな、って何? 勝ったんやで、俺らは……。
試合に負ける悔しさより、ずっといいはずや。なのに……なんで、こんなに苦しいんやろう?
胸を押さえてぼんやりしていると、足下に影が重なってきた。
俺は、はっとして顔を上げた。
「つむぎ」
渉が、俺を見下ろしていた。
顎をふんと突き出して、得意そうな笑みを口に浮かべとる。「どうや!」と思っとるのが、ありありと伝わってくるん。
勝ち誇っとる割に、嫌みの一つもない渉に、俺はちょっと首を傾げた。
――もしかして、褒めてほしいんやろうか。
こういう時、俺はいつも思いっきり褒めてたから。小さいころからの習い性って言うのもあるけど……俺は、渉が好きやから、勝手に褒め言葉が出てくるねん。
「あ……そのっ」
せやのに、なんでかのどが干からびてしもて、声が出えへん。目の前の渉を見上げたまま、呆然と立ち尽くしとったら……渉が、少し不思議そうな顔をする。
「つむ――」
眉を寄せ、俺に手を伸ばしてきた……そのとき、
「渉ーっ!」
澄んだ声が響き渡る。
たかたかと軽い足音が近づいてきたと思うと、細身のシルエットが俺と渉の間に割り込んできた。
「……っ!?」
逞しい胸に飛び込んだ黒髪に、俺はゾッとする。
「うわっ、沙也!?」
「渉、すごかったですっ!」
ぎょっと声を上げた渉に、沙也さんが明るい声で賛辞を贈る。白く繊細な頬が薔薇色に染まって、目がきらきらしとる。ほんまに、「渉が勝って嬉しい」と伝わる様子に、呆気にとられていた渉が笑顔になる。
「さっきのプレイはなんなんですか? あんなショット、見たことありませんっ」
「はは、そうやろ! また、教えたるわ」
心から嬉しそうな渉に、俺は胸が詰まった。
――そんなに嬉しい? 俺は……
けど、沙也さんが近づいたのを皮切りに、わらわらと試合を見ていたみんなが駆け寄ってくる。渉の背を叩いたりしながら、興奮気味に賛辞をおくっとる。
俺は、次第に押しのけられて……渉から遠のいてしもた。
「つむぎ、おめでと~。にしても、渉のやつすげぇやんなあ。あんなん出来るとは思わんかったわ~」
「加藤……」
審判台を下りた加藤が、俺の肩を叩く。チームメイトの躍進を喜ぶ、まっすぐな気持ちが伝わってきて……俺は、一気に後ろめたくなる。
「ナイスジャッジ、加藤。俺……クールダウンしがてら、田中とアッキーの様子見てくるわ」
これ以上、重たい感情を抱えて、ここにいたくなかったんや。加藤は不思議そうに目を瞬く。
「えっ、渉は……」
「後で行くやろ。今は、ヒーローやから!」
俺は誤魔化すように笑うと、走ってコートを出た。
――あかん。なんか変や、俺……
一目散に走る俺は、気づかんかった。輪の中心から渉が見ていたことなんて――。
456
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する
子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき
「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。
そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。
背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。
結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。
「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」
誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。
叶わない恋だってわかってる。
それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。
君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。
夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。
伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。
子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。
ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。
――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか?
失望と涙の中で、千尋は気づく。
「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」
針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。
やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。
そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。
涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。
※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。
※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。
幼馴染がいじめるのは俺だ!
むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに...
「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」
「はっ...ぁ??」
好きな奴って俺じゃないの___!?
ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子
ーーーーーー
主人公 いじめられっ子
小鳥遊洸人
タカナシ ヒロト
小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。
姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。
高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、
脳破壊。
千透星への恋心を自覚する。
幼馴染 いじめっ子
神宮寺 千透星
ジングウジ チトセ
小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。
美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている)
転校生の須藤千尋が初恋である
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
君に捧げる紅の衣
高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。
でも、その婚姻はまやかしだった。
辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。
ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。
「辰を解放してあげなければ……」
しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる