六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか

文字の大きさ
16 / 16

越えられないライン

しおりを挟む
「つむぎー、昼メシ行こやぁ……って何やっとん?」

 昼休みになり、俺のクラスにやってきた田中は、目を丸くした。俺は、山積みの課題プリントに埋もれながら、返事をする。

「ご、ごめん、田中! ちょお、待って……!」
「そりゃええけど。宿題忘れたん?」
「いや……あはは」

 不思議そうな田中に、思わず苦笑いしてまう。すると、近くにおったクラスメイトが笑いながら、俺の頭をわしわしと撫でた。

「それが、つむぎなあ。数学の授業で、英語のテキストひらいとってんで」
「そんで、罰としてテキスト倍やらされてんの。珍しいポカやろー?」
「ほんまに!? 命知らずな」

 田中がのけ反って、周囲でどっと笑い声が上がった。

「ううっ、みんな他人事やと思って……」

 と恨めしく呟いてみるものの、俺が悪いからしゃあない。なにせ、数学の先生ってめっちゃ怖いんよな。授業で集中してへんかったら、立たされてお説教&課題倍増の憂き目にあうねん。
 やから俺も、いつもはめっちゃ気をつけてんねんけど。
 今日は、ミニゲームのことが頭から離れんくて――。俺は、手ごたえのない勝利を掴んだ手を、ぐっと握りしめる。
 すると窓際の席から、明るい笑い声が聞こえて、肩が震えた。

「ほら、渉っ。投げ出さないで、ちゃんとプリント解いてください」
「わからんねんもん。沙也がかわりに解いてやぁ」

 沙也さんに詰め寄られて、机に突っ伏した渉が甘えた声を上げる。ちょっと前まで、俺しか聞かへんかったその声に、胸の奥がざわつく。

「それじゃ意味ないですし……そうだ、ちゃんと解けたら、ご褒美あげます」
「ほんま!?」

 がばっと身を起こした渉が、犬のように目を輝かせる。沙也さんは教科書で顔を隠しながら、恥ずかしそうに頷いた。

「よっしゃ! ご褒美ゲットや」

 急にやる気を出した渉は、嬉しそうな声を張り上げる。――わざと聞かせてんのかよ、って邪推しそうになって、唇を噛み締めた。
 俺と違って、朝練の後から、渉と沙也さんはやたらテンションが高かった。いつもやったら、俺も間に割って入ってくねんけどさ。
 今は……なんか元気が出えへん。
 俯いた俺の背を、田中がポンッと叩く。

「大丈夫か、つむぎ。今日は一年ミーティングやけど……」
「……あッ!」

 憐れむような目に、俺はハッとした。
 

 *
 

 俺達テニス部は、チームメイト同士の結束を固めるために、同輩で集まってごはん食べる日があるねん。
 だいたい、隔週で空き教室に集まってな。練習についてとか、学生生活について話し合うわけなんよ。
 
 ――あ~~、最悪やぁ。
 
 空き教室の机に突っ伏して、俺は頭を抱えた。
 いつもは楽しみなミーティングやけど、今日は全然嬉しくない。なにせ――俺は、ちらっと対岸の席を見る。俺の正面に渉が、その右隣に沙也さんが座っとる。ふたりとも弁当持って楽しそうや。
 渉め、人の気も知らんと……そう思って睨んでたら、目が合った。

「……っ?」

 どきりとする。渉は笑いを引っ込めて、じっと見つめてきよる。
 
 ――な、なんなん……?
 
 おろおろと俯くと、渉の笑い声が聞こえた。いつものしたり顔が、見なくても目に浮かぶ。
 思わず、カッとなったとき、

「お待たせ!みんな揃っとる?」
「腹減った~」

 カップうどんとあんパンを携えた、購買組のアッキーと加藤がやってきた。
 いざミーティングが始まると、渉は俺の方を見てへんかった。

「――ってわけでさ。今朝のミニゲーム、みんな練習より固なってたやん。俺としては、もうちょいゲーム形式の練習した方がええと思うねん」
「せやなぁ。俺なんか、試合経験浅すぎやし~。めっちゃあがってまうからさ~」

 田中の提案に、加藤が同意する。アッキーがうどんを啜りながら、首を傾げた。

「けど、いつやるよ? 部活中は、メニュー決まっとるし。いっぱいいっぱいやん」
「たしかに……」

 俺達は顔を見合わせて、ううんと唸った。

「渉、その鶏むね肉の炊き込みご飯、どうですか?」
「めっちゃうまい!」

 浮かれた会話が割り込んできて、頬が引き攣った。
 気にせんとこうとしても、目の前ではしゃがれたら、どうしようもないやんなぁ!?
 俺は、むかむかする胸を押さえ、渉を睨んだ。しかし、相手はどこ吹く風で、沙也さんの持って来た弁当にぱくついとる。

「おい、お前らもミーティング参加せえさ」
「俺らはええわ。なんか決まったら教えてや」

 田中が窘めると、渉は悪びれもせず言う。いつもの口上に、俺らは顔を見合わせた。

「いや、話し合いをすることが大事かなあって……」
「そもそも、僕と渉の意見なんて通らないでしょう?なら、いいじゃないですか」

 俺を遮って、沙也さんがツンと顔を背ける。

「そんなこと……!」
「渉。たまご焼きにはツナを巻いたんですよ。野菜も大事ですけど、まずはタンパク質ですから。朝もおにぎりだけとか、信じられません」
「おう、ありがとうな。色々考えてくれて」

 俺のことはサッパリ無視して、二人で話し出してるし。
 
 ――悪かったな、おにぎりだけでっ。渉が朝弱いから、ちゃっと食べれるもんにしてんのに……!
  
 かっかしとったら、田中が肩を竦め、「ほっとこう」って小声で言う。憤懣やるかたない気持ちで、二人に釘付けになる目をもぎりとったときやった。

「渉はレギュラーなんですから、ちゃんと体つくりしなきゃ! これからは、僕が目を光らせますよ」

 没収です、と渉の弁当を奪い取った沙也さんに、俺は思わず「ちょっと!」と声を上げた。

「それは、あかんやろ……! おばちゃんが、作ってくれた弁当なんやから」

 渉のお母さんは、めっちゃ忙しいねん。それでも、渉が部活を頑張れるように、毎日お弁当を作ってくれてんのに。
 俺は、きっと渉を睨んだ。

「沙也さんの弁当、食べるのは勝手やけど! おばちゃんの弁当だけは、残したらあかんねんからな!」

 思いきり怒鳴ると、シーン……と空き教室が静まり返った。
 渉は、鳩が豆鉄砲を食ったみたいに、ぽかんとしとる。

「つ、つむぎ?」

 アッキーが驚いた顔で、俺を見てる。室内にいた他のグループの視線も集まってて、俺はぼっと赤面した。

「あ……ご、ごめん。でっかい声出して……! ちょっと、飲み物買ってくる!」

 いたたまれんくて、俺は教室を飛び出した。
 ざわつく廊下を早歩きで移動しながら、俺は「あああ」と唸った。
 
 ――めっちゃ怒鳴ってしもた……!
 
 また、やってしもた。部活のときに、プライベートの空気出さんようにしてたのに、ついカッとなって……。
 人だかりになってる購買に着くと、列の最後尾に並んだ。
 あとからやってきて、ひとの弁当にケチつける沙也さんに腹立った。そんで、へらへらしとる渉にも。
 列の流れにしたがいながら、棚からコーヒー牛乳をとる。ポケットに入れていた財布を探り出して、ふうとため息を吐いた。
 
 ――でも。俺の嫉妬も入ってるかも……
 
 俺かて、渉のお弁当作りたかった。
 でも、さすがに昼までは……おばちゃんが渉の為に、いろいろ工夫してお弁当作ってんの知ってたから。
 幼なじみの俺の越えられへんライン、やすやすと越えてく沙也さんが、妬ましかったんかもしれん……。

「はあ……嫉妬なんかなあ……」

 自分が醜く思えて、いやや。暗い気持ちで会計を済ませて購買を出ると、見知った人と行き会う。

「お、つむぎ」
「副キャプテン!こんにちは」

 挨拶すると、副キャプテンはにこにこ笑って近づいて来た。

「ちょうど会えてよかったわ。――ちょっと聞きたいねんけど、今夜の予定どうなってる?」
「え?」

 にこやかに尋ねられ、俺は目を瞬いた。
しおりを挟む
感想 34

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(34件)

シユマ
2026.03.01 シユマ
ネタバレ含む
2026.03.03 高穂もか

シユマさん、読んでくださりありがとうございます!
つむぎの気持ちにあたたかく寄り添っていただいて、本当に嬉しいです😭✨
今はつらい状況にあるつむぎへ、熱いエールを送っていただけて、とても心強いです。
渉には本当に「何をしているの💦」と頭を抱えたくなりますよね……。
これからの展開も、つむぎがきちんと報われ、読んでくださる皆さまが安心して笑顔になれる物語へと、大切に紡いでいきたいと思っています🌸
続きも楽しんでいただけるよう、頑張ります🍀

解除
kk_12
2026.02.18 kk_12
ネタバレ含む
2026.02.20 高穂もか

kk_12さん、はじめまして。読んでくださり、ありがとうございます!
つむぎに優しく寄り添っていただいて、とっても嬉しいです🥹
おっしゃるとおりで、渉の態度はつむぎを傷つけていますよね……💦流石に倦怠期だからって、と作者もハラハラしています。
たくさんつむぎのことを案じてくださって、本当にあたたかいお心をありがとうございます✨
渉が、この先どうなっていくか……そして、つむぎがこの先どんな選択をしても、つむぎがいちばんに最高のハッピーエンドを迎えられるように、心を込めて書いて参ります🌸
続きも楽しんで頂けるように、がんばります🍀

解除
塩
2026.02.05
ネタバレ含む
2026.02.05 高穂もか

塩さん、読んでくださり、ありがとうございます!
わああ……✨!すっごく大きくて、あたたかなエールを頂いて感激ですっ😭💕
登場人物それぞれにお心を寄せていただいて(#^^#)沙也もですけど、渉は本当に何故なのか、ですね……!おっしゃるとおり、一番につむぎに優しくしないといけない立場なのに、あんな感じという🤔沙也を助長させてるのは渉……めっちゃ頷いてしまいました!
つむぎのことを大切に心配してくださり、本当に心がじわあってあたたかいです🥹
つむぎが傷ついた分、一番最高の笑顔になってエンディングを迎えられるよう……心を込めて、お話を紡いでいきたいと思います🌸
こちらこそ、これほどあたたかく、愛あるお言葉を頂き、本当にありがとうございます☺️トリコと言って頂けて、照れてしまいます☺️💕渉は、このさきの展開で悔い改め、涙を流すことでしょうか……続きもドキドキ楽しんで頂けるように、頑張ります🍀

解除

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

昔「結婚しよう」と言ってくれた幼馴染は今日、僕以外の人と結婚する

子犬一 はぁて
BL
幼馴染の君は、7歳のとき 「大人になったら結婚してね」と僕に言って笑った。 そして──今日、君は僕じゃない別の人と結婚する。 背の低い、寝る時は親指しゃぶりが癖だった君は、いつの間にか皆に好かれて、彼女もできた。 結婚式で花束を渡す時に胸が痛いんだ。 「こいつ、幼馴染なんだ。センスいいだろ?」 誇らしげに笑う君と、その隣で微笑む綺麗な奥さん。 叶わない恋だってわかってる。 それでも、氷砂糖みたいに君との甘い思い出を、僕だけの宝箱にしまって生きていく。 君の幸せを願うことだけが、僕にできる最後の恋だから。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

君に捧げる紅の衣

高穂もか
BL
ずっと好きだった人に嫁ぐことが決まった、オメガの羅華。 でも、その婚姻はまやかしだった。 辰は家に仕える武人。家への恩義と、主である兄の命令で仕方なく自分に求婚したのだ。 ひとはりひとはり、婚儀の為に刺繡を施した紅の絹を抱き、羅華は泣く。 「辰を解放してあげなければ……」 しかし、婚姻を破棄しようとした羅華に辰は……?

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

運命よりも先に、愛してしまった

AzureHaru
BL
幼馴染で番同士の受けと攻め。2人は運命の番ではなかったが、相思相愛だった。そんな時、攻めに運命の番が現れる。それを知った受けは身籠もっていたが、運命の番同士の子供の方が優秀な者が生まれることも知っており、身を引く事を決め姿を消す。 しかし、攻めと運命の番の相手にはそれぞれに別の愛する人がいる事をしり、 2人は運命の番としてではなく、友人として付き合っていけたらと話し合ってわかれた。 その後、攻めは受けが勘違いしていなくなってしまったことを両親達から聞かされるのであった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。