いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
366 / 505
第六章~鳥籠の愛~

三百六十五話

 二日後――ぼくは宏ちゃんと一緒に、男の人のお見舞いに行ったん。病院にお問い合わせしたら、熱が下がらはったそうでね。それなら、少しだけ様子を伺いに行っても大丈夫かなあと言うことで。
 
「はぁ……大丈夫やろか?」
 
 お見舞いにと、お花屋さんで作ってもらった小さな花かごを抱く。元気が出るようにって、ビタミンカラーのバラ……綺麗なお花で、励ませればいいなと思う。
 
 ――とんでもないトラブルに遭われたんやものね……快方に向かわれてるのが、せめてもの救いやわ。
 
 立派な総合病院の、広く清潔な廊下を歩いていると、宏ちゃんが「ここだ」と一つの大部屋を指した。――薬品のにおいが、ツンと鼻を刺す。四つのベッドは、お昼間だからかカーテンが開いていた。

「失礼します」

 一番奥のベッドに近づいていくと、布団に凭れるように身を起こしていた男性が、振り返った。
 
「こんにちは」
 
 包帯と湿布に覆われた顔に、穏やかな笑みを浮かぶ。ぼくは、ぺこりと会釈を返しながら、「もう起きてはるなんて」と驚いた。宏ちゃんと二人、そっとベッドの側に近づく。
 宏ちゃんが、穏やかな声音で言う。
 
「こんにちは。もう、起きられて大丈夫なんですか」
「野江さん。はい、おかげさまで。皆さんにも、とてもよくして頂いております」
「無理は禁物ですよ」
 
 男の人は包帯に巻かれていたけれど、快活な様子ではきはきと喋らはる。具合の悪さを感じさせまいと、ぼく達を気遣っているのかもしれない。
 
 ――こんなに酷い怪我をして、気丈な方やなぁ……
 
 胸を打たれていると、男の人がこちらに視線を向けた。

「……失礼ですが、隣のお方は奥様でいらっしゃいますか?」
「ええ。僕の伴侶の成己です」

 宏ちゃんに肩を抱かれ、ひき寄せられる。ぼくはハッとして、頭をさげた。 

「はじめまして、野江の妻の成己と申します。こうしてお話できるほどご回復されて、本当に良かったです……!」

 お見舞いのお花をチェストに置かせて貰うと、男の人は丁寧にお礼を言ってくれはった。
 
「お気遣い頂いて、ありがとうございます。私は宍倉と申します」

 男の人――宍倉さんは、穏やかに微笑んだ。

「奥様にも是非お会いして、お礼を申し上げたかったのです。野江さんから、奥様とお二人で、助けて頂いたのだと伺いましたので……この度は、誠にありがとうございました」
「そ、そんな……!」

 お怪我をなさってるのに、立って礼をしようとするので、ぼく達は慌てて止めた。とっても、律儀な方なんやねえ。

「宍倉さん、だれかとご連絡は……?」

 宏ちゃんが、そっと問う。宍倉さんは、穏やかに微笑んで頷く。

「そうですか……」

 ぼくは、ホッとした。辛いときに、連絡のつく方がいて、よかった。失礼やけど、あんなゴミ捨て場にうずくまってはったから……よほど、孤独なんじゃないかって思ってたん。

――良かった。

 それから、ぼく達は帰ることにしたん。
 お顔を見られたし、長居すると疲れさせてしまうもの。

「ゆっくりご養生なさってくださいね」

 宏ちゃんと二人、お暇をした。宍倉さんは、ぼく達が廊下に消えるまで、しゃんとしてはった。




 その後――無理を聞いて下さった院長先生と、病棟の詰所に差し入れとお礼をして、ぼく達は帰路についたん。

「それにしても、気丈な方やねえ……」

 てくてくと、駐車場まで歩きながら、ぼくはほうと息を吐く。

――あれほどのお怪我やのに、ずっとシャンとしてはって……

 宏ちゃんも、頷く。
 
「とてもトラブルに巻き込まれそうに見えないよなぁ」
「たしかに」

 詮索するのは、よくないと知りつつも、気になってしまう。
 上品で、物腰が穏やかで……センターの職員さん達みたい。

「……?」

 そう思ったとき、ふと記憶に引っかかりを覚えた。スーツで、車の側に立つ姿が、ふと浮かんだん。

――あれ?

 鮮明なイメージに戸惑ってしまう。
 まるで、本当に見たような……だとしても、どこでやろ。


感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。