いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

三百六十五話

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 二日後――ぼくは宏ちゃんと一緒に、男の人のお見舞いに行ったん。病院にお問い合わせしたら、熱が下がらはったそうでね。それなら、少しだけ様子を伺いに行っても大丈夫かなあと言うことで。
 
「はぁ……大丈夫やろか?」
 
 お見舞いにと、お花屋さんで作ってもらった小さな花かごを抱く。元気が出るようにって、ビタミンカラーのバラ……綺麗なお花で、励ませればいいなと思う。
 
 ――とんでもないトラブルに遭われたんやものね……快方に向かわれてるのが、せめてもの救いやわ。
 
 立派な総合病院の、広く清潔な廊下を歩いていると、宏ちゃんが「ここだ」と一つの大部屋を指した。――薬品のにおいが、ツンと鼻を刺す。四つのベッドは、お昼間だからかカーテンが開いていた。

「失礼します」

 一番奥のベッドに近づいていくと、布団に凭れるように身を起こしていた男性が、振り返った。
 
「こんにちは」
 
 包帯と湿布に覆われた顔に、穏やかな笑みを浮かぶ。ぼくは、ぺこりと会釈を返しながら、「もう起きてはるなんて」と驚いた。宏ちゃんと二人、そっとベッドの側に近づく。
 宏ちゃんが、穏やかな声音で言う。
 
「こんにちは。もう、起きられて大丈夫なんですか」
「野江さん。はい、おかげさまで。皆さんにも、とてもよくして頂いております」
「無理は禁物ですよ」
 
 男の人は包帯に巻かれていたけれど、快活な様子ではきはきと喋らはる。具合の悪さを感じさせまいと、ぼく達を気遣っているのかもしれない。
 
 ――こんなに酷い怪我をして、気丈な方やなぁ……
 
 胸を打たれていると、男の人がこちらに視線を向けた。

「……失礼ですが、隣のお方は奥様でいらっしゃいますか?」
「ええ。僕の伴侶の成己です」

 宏ちゃんに肩を抱かれ、ひき寄せられる。ぼくはハッとして、頭をさげた。 

「はじめまして、野江の妻の成己と申します。こうしてお話できるほどご回復されて、本当に良かったです……!」

 お見舞いのお花をチェストに置かせて貰うと、男の人は丁寧にお礼を言ってくれはった。
 
「お気遣い頂いて、ありがとうございます。私は宍倉と申します」

 男の人――宍倉さんは、穏やかに微笑んだ。

「奥様にも是非お会いして、お礼を申し上げたかったのです。野江さんから、奥様とお二人で、助けて頂いたのだと伺いましたので……この度は、誠にありがとうございました」
「そ、そんな……!」

 お怪我をなさってるのに、立って礼をしようとするので、ぼく達は慌てて止めた。とっても、律儀な方なんやねえ。

「宍倉さん、だれかとご連絡は……?」

 宏ちゃんが、そっと問う。宍倉さんは、穏やかに微笑んで頷く。

「そうですか……」

 ぼくは、ホッとした。辛いときに、連絡のつく方がいて、よかった。失礼やけど、あんなゴミ捨て場にうずくまってはったから……よほど、孤独なんじゃないかって思ってたん。

――良かった。

 それから、ぼく達は帰ることにしたん。
 お顔を見られたし、長居すると疲れさせてしまうもの。

「ゆっくりご養生なさってくださいね」

 宏ちゃんと二人、お暇をした。宍倉さんは、ぼく達が廊下に消えるまで、しゃんとしてはった。




 その後――無理を聞いて下さった院長先生と、病棟の詰所に差し入れとお礼をして、ぼく達は帰路についたん。

「それにしても、気丈な方やねえ……」

 てくてくと、駐車場まで歩きながら、ぼくはほうと息を吐く。

――あれほどのお怪我やのに、ずっとシャンとしてはって……

 宏ちゃんも、頷く。
 
「とてもトラブルに巻き込まれそうに見えないよなぁ」
「たしかに」

 詮索するのは、よくないと知りつつも、気になってしまう。
 上品で、物腰が穏やかで……センターの職員さん達みたい。

「……?」

 そう思ったとき、ふと記憶に引っかかりを覚えた。スーツで、車の側に立つ姿が、ふと浮かんだん。

――あれ?

 鮮明なイメージに戸惑ってしまう。
 まるで、本当に見たような……だとしても、どこでやろ。


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