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第六章~鳥籠の愛~
三百九十六話【SIDE:玻璃】
「私が……こどもですか?」
ほぼ反射的に訊ね返すと、「ええ」と揺らぎのない応えが返る。
なんだかデジャヴュを感じるやり取りに戸惑っていれば、宍倉さんは笑った。
「はい。貴女は、まだ十三歳の中学生。大人の仕事をこなしていても、守られるべき子どもなのだとお伝えしたかった。甘えたり、我儘を言ったりしてもいいのだと」
「……ですが!」
かっとなって立ち上がった。
「私は、後継者です。蓑崎に勤めてくれる皆を支える義務があります。だから――今回のことはやっぱり、責任感に欠ける振る舞いだったんです。私のせいで馘首される人が居るのにッ」
言い募るうちに感情が激し、胸を押さえる。
私が遊んだ結果、起きた惨劇を思った。宍倉さんが首にされ――他の使用人たちの命運まで握られている。私の行動一つで、父に彼らを罰する機会を与えてしまったんだ。
――そうだ。私は、自分を律さなければいけないんだ。蓑崎の後継者として、皆を守る義務があるんだから。
遊びたいとか、甘えたいとか……子供みたいなことを言ってはいけなかったんだよ。
拳を握り、唇を噛み締める。
すると、肩に温かい手が添えられた。
「気負い過ぎてはなりません。おっしゃる通り、いずれは玻璃様が従業員の命運を担うことになるでしょう。しかし、それは未来の話で、今ではありません。なぜなら――子どもの貴女に、何の責任が取れるのでしょうか?」
「!」
冷静に告げられた言葉に、頬が熱くなる。
とんでもない自惚れだと指摘された気がして、ぐっと唇を引き結んだ。
「お、おっしゃる通りです……」
しおしおと椅子に腰を下ろせば、宍倉さんは表情を和らげる。
「貴女は子供です。そして……私は大人です。ですから、自分の責任は自分で取れます。それは蓑崎に勤める者達も――ご当主様、お兄様も同じ。皆あなたより、年上なのですからね」
「……」
みんな、私より大人――?
ふと、目を開かれるような思いになった。宍倉さんは、先達の響きを持った声で言う。
「子供は、大人の面倒を見なくていい。もっと我儘におなり下さいと……ずっと、お伝えしたかったんです。自分のことだけ考えること――それは、子どものうちにしか出来ないんですから」
「宍倉さん……」
優しさと労わりに満ちた説得だった。
彼が、私に仕事の手ほどきをしてくれるときのことを、ふと思い出した。厳しくも温かい言葉で、宍倉さんは私を導いてくれていたっけ。
宍倉さんはいつも、こんな思いで私の側に居てくれたのかと――熱い感情が、胸に押し迫ってきた。
――『宍倉は、若様の為に力を尽くしとうございます』
そう言ってくれていた、宍倉さん。私は、どこか上からその言葉を受け止めてはいなかったか。守られていると思いながら、本当にはわかっていなかった。
呆然としていると……宍倉さんが、真剣な顔になる。
「こたびの件は、若様のお付きでありながら、上手く事を運べなかった私に全ての責任があります。その為に、若様にお辛い思いをさせてしまった。――誠に申し訳ありませんでした」
宍倉さんは、また頭を下げた。
――やめてくれ。
って、言いたくなったけれど。
それを言ったら、彼の矜持に傷をつけてしまうだろう。宍倉さんが、せっかく……”私のお付き”としての言葉をくれているのに、謝罪なんて他人行儀は無粋の極みに違いない。
私は、しゃんと背筋を伸ばした。息を吸い、出来る限り威厳のある声で頷いてみせる。
「宍倉さん、謝罪は受けます。それから……ありがとうございました」
満面に笑みを浮かべて、胸を張る。
「はい、若様」
宍倉さんは、嬉しそうに笑ってくれた。
ほぼ反射的に訊ね返すと、「ええ」と揺らぎのない応えが返る。
なんだかデジャヴュを感じるやり取りに戸惑っていれば、宍倉さんは笑った。
「はい。貴女は、まだ十三歳の中学生。大人の仕事をこなしていても、守られるべき子どもなのだとお伝えしたかった。甘えたり、我儘を言ったりしてもいいのだと」
「……ですが!」
かっとなって立ち上がった。
「私は、後継者です。蓑崎に勤めてくれる皆を支える義務があります。だから――今回のことはやっぱり、責任感に欠ける振る舞いだったんです。私のせいで馘首される人が居るのにッ」
言い募るうちに感情が激し、胸を押さえる。
私が遊んだ結果、起きた惨劇を思った。宍倉さんが首にされ――他の使用人たちの命運まで握られている。私の行動一つで、父に彼らを罰する機会を与えてしまったんだ。
――そうだ。私は、自分を律さなければいけないんだ。蓑崎の後継者として、皆を守る義務があるんだから。
遊びたいとか、甘えたいとか……子供みたいなことを言ってはいけなかったんだよ。
拳を握り、唇を噛み締める。
すると、肩に温かい手が添えられた。
「気負い過ぎてはなりません。おっしゃる通り、いずれは玻璃様が従業員の命運を担うことになるでしょう。しかし、それは未来の話で、今ではありません。なぜなら――子どもの貴女に、何の責任が取れるのでしょうか?」
「!」
冷静に告げられた言葉に、頬が熱くなる。
とんでもない自惚れだと指摘された気がして、ぐっと唇を引き結んだ。
「お、おっしゃる通りです……」
しおしおと椅子に腰を下ろせば、宍倉さんは表情を和らげる。
「貴女は子供です。そして……私は大人です。ですから、自分の責任は自分で取れます。それは蓑崎に勤める者達も――ご当主様、お兄様も同じ。皆あなたより、年上なのですからね」
「……」
みんな、私より大人――?
ふと、目を開かれるような思いになった。宍倉さんは、先達の響きを持った声で言う。
「子供は、大人の面倒を見なくていい。もっと我儘におなり下さいと……ずっと、お伝えしたかったんです。自分のことだけ考えること――それは、子どものうちにしか出来ないんですから」
「宍倉さん……」
優しさと労わりに満ちた説得だった。
彼が、私に仕事の手ほどきをしてくれるときのことを、ふと思い出した。厳しくも温かい言葉で、宍倉さんは私を導いてくれていたっけ。
宍倉さんはいつも、こんな思いで私の側に居てくれたのかと――熱い感情が、胸に押し迫ってきた。
――『宍倉は、若様の為に力を尽くしとうございます』
そう言ってくれていた、宍倉さん。私は、どこか上からその言葉を受け止めてはいなかったか。守られていると思いながら、本当にはわかっていなかった。
呆然としていると……宍倉さんが、真剣な顔になる。
「こたびの件は、若様のお付きでありながら、上手く事を運べなかった私に全ての責任があります。その為に、若様にお辛い思いをさせてしまった。――誠に申し訳ありませんでした」
宍倉さんは、また頭を下げた。
――やめてくれ。
って、言いたくなったけれど。
それを言ったら、彼の矜持に傷をつけてしまうだろう。宍倉さんが、せっかく……”私のお付き”としての言葉をくれているのに、謝罪なんて他人行儀は無粋の極みに違いない。
私は、しゃんと背筋を伸ばした。息を吸い、出来る限り威厳のある声で頷いてみせる。
「宍倉さん、謝罪は受けます。それから……ありがとうございました」
満面に笑みを浮かべて、胸を張る。
「はい、若様」
宍倉さんは、嬉しそうに笑ってくれた。
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