いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
397 / 505
第六章~鳥籠の愛~

三百九十六話【SIDE:玻璃】

「私が……こどもですか?」
 
 ほぼ反射的に訊ね返すと、「ええ」と揺らぎのない応えが返る。
 なんだかデジャヴュを感じるやり取りに戸惑っていれば、宍倉さんは笑った。
 
「はい。貴女は、まだ十三歳の中学生。大人の仕事をこなしていても、守られるべき子どもなのだとお伝えしたかった。甘えたり、我儘を言ったりしてもいいのだと」
「……ですが!」
 
 かっとなって立ち上がった。
 
「私は、後継者です。蓑崎に勤めてくれる皆を支える義務があります。だから――今回のことはやっぱり、責任感に欠ける振る舞いだったんです。私のせいで馘首される人が居るのにッ」
 
 言い募るうちに感情が激し、胸を押さえる。
 私が遊んだ結果、起きた惨劇を思った。宍倉さんが首にされ――他の使用人たちの命運まで握られている。私の行動一つで、父に彼らを罰する機会を与えてしまったんだ。
 
 ――そうだ。私は、自分を律さなければいけないんだ。蓑崎の後継者として、皆を守る義務があるんだから。
 
 遊びたいとか、甘えたいとか……子供みたいなことを言ってはいけなかったんだよ。
 拳を握り、唇を噛み締める。
 すると、肩に温かい手が添えられた。
 
「気負い過ぎてはなりません。おっしゃる通り、いずれは玻璃様が従業員の命運を担うことになるでしょう。しかし、それは未来の話で、今ではありません。なぜなら――子どもの貴女に、何の責任が取れるのでしょうか?」
「!」
 
 冷静に告げられた言葉に、頬が熱くなる。
 とんでもない自惚れだと指摘された気がして、ぐっと唇を引き結んだ。
 
「お、おっしゃる通りです……」
 
 しおしおと椅子に腰を下ろせば、宍倉さんは表情を和らげる。
 
「貴女は子供です。そして……私は大人です。ですから、自分の責任は自分で取れます。それは蓑崎に勤める者達も――ご当主様、お兄様も同じ。皆あなたより、年上なのですからね」
「……」
 
 みんな、私より大人――?
 ふと、目を開かれるような思いになった。宍倉さんは、先達の響きを持った声で言う。
 
「子供は、大人の面倒を見なくていい。もっと我儘におなり下さいと……ずっと、お伝えしたかったんです。自分のことだけ考えること――それは、子どものうちにしか出来ないんですから」
「宍倉さん……」
 
 優しさと労わりに満ちた説得だった。
 彼が、私に仕事の手ほどきをしてくれるときのことを、ふと思い出した。厳しくも温かい言葉で、宍倉さんは私を導いてくれていたっけ。
 宍倉さんはいつも、こんな思いで私の側に居てくれたのかと――熱い感情が、胸に押し迫ってきた。
 
 ――『宍倉は、若様の為に力を尽くしとうございます』
 
 そう言ってくれていた、宍倉さん。私は、どこか上からその言葉を受け止めてはいなかったか。守られていると思いながら、本当にはわかっていなかった。
 呆然としていると……宍倉さんが、真剣な顔になる。
 
「こたびの件は、若様のお付きでありながら、上手く事を運べなかった私に全ての責任があります。その為に、若様にお辛い思いをさせてしまった。――誠に申し訳ありませんでした」
 
 宍倉さんは、また頭を下げた。

 ――やめてくれ。

 って、言いたくなったけれど。
 それを言ったら、彼の矜持に傷をつけてしまうだろう。宍倉さんが、せっかく……”私のお付き”としての言葉をくれているのに、謝罪なんて他人行儀は無粋の極みに違いない。
 私は、しゃんと背筋を伸ばした。息を吸い、出来る限り威厳のある声で頷いてみせる。
 
「宍倉さん、謝罪は受けます。それから……ありがとうございました」
 
 満面に笑みを浮かべて、胸を張る。

「はい、若様」

 宍倉さんは、嬉しそうに笑ってくれた。
感想 280

あなたにおすすめの小説

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。 完結しました!ありがとうございました。

文句を言わない婚約者は、俺の愛する幼馴染みを許していなかった【完結保証】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
幼馴染を優先しても、婚約者アウローラは何も言わない。だから、これからも幼馴染みとイチャイチャできる── 侯爵令息トリスタンは、そんな甘い幻想を信じていた。 だが婿入りした瞬間、彼の“軽んじた態度”はすべて清算される。 アウローラは冷徹に、トリスタンの傲慢と欲望を1つずつ暴き、労働と屈辱を与える。 そして最後に残ったのは、誰にも必要とされない現実だけ。 「どうして……俺は、こんなにも愚かだったんだ」 これは愛を勘違いし、身分を過信し、自分の価値を見誤った男の終焉を描くダークドラマ。 ⚠️ 本作は AI の生成した文章を一部に使っています。 4/1「エステルに対する殺意」の内容を一部変更しました。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

愛され方を教えて

あちゃーた
BL
主人公リハルトは自分を愛さなかった元婚約と家族のために無惨に死んだ…はずだった。 次に目が覚めた時、リハルトは過去に戻っていた。 そこは過去のはずなのにどこかおかしくて…

世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました

由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。 ——皇子を産めるかどうか。 けれど私は、産めない。 ならば—— 「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」 そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。 毒を盛られても、捨てられず。 皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。 「お前は、ここにいろ」 これは、子を産めない女が ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。 そして—— その寵愛は、やがて狂気に変わる。