いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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第六章~鳥籠の愛~

四百四話【SIDE:宏章】

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「失墜――ですか」
 
 俺が復唱すると、宍倉さんは目で頷く。
 
「そりゃ、ずい分穏やかじゃありませんね」
 
 正直の気持ちを述べると、彼は唇をつり上げた。
 
「そうかもしれません。蓑崎に拾われ、有り余る恩を受けながら……その令息を貶めようなど正気じゃありません。少なくとも……半月前の私は、思ってもみませんでした」
「今は違うということですか」
「……」
 
 宍倉さんは黙ったまま、脇に携えていた鞄を開いた。そこから分厚いファイルが三冊と、手の平ほどの大きさの箱を出し、テーブルに置く。
 
「どうぞ、こちらをご覧ください」
 
 促され、俺はファイルを開いてみる。そこには、無数の写真が納められていた。あの日ネットカフェで見たものと同じ――蓑崎晶の不貞現場だ。貴彦さん以外の男とホテルに入るところや、路上でキスをしている写真。ラブホテルの監視カメラと思しき画角で、ひどい痴態を繰り広げる姿が高画質で写し出されている。
 ポルノ写真もびっくりな写真の数々に、胸の奥が冷たくなる。
 
 ――やっぱり、な……
 
 とても見ていられるものではなく、ファイルを閉じる。宍倉さんが、淡々と説明を始めた。
 
「宏章さんに見て頂いたものと同種の類が、あと一冊。別のもう一冊は、ここ数年で晶様がセンターで受けられた外性器・生殖弁の健診結果の控えになります。……短い期間に複数人との性交経験があったことを、確認できますよ」
「……よく手に入れましたね、こんなもの」
「私は、若様の秘書でしたから。案外、家の外は堅固でも、内側のセキュリティは甘いものですよ」 
 
 宍倉さんは薄く笑った。俺は、うすら寒いものを感じながらも、箱の方も開けてみた。中にはメモリーカードがずらりと保管されている。折り鶴に入っていたものと、同じ型だ。
 
「内容は、この写真と同じようなものです。宏章さんに差し上げたものも、このうちの一つですね。……こちらには、城山陽平との行為の記録もございますよ」
「へえ、興味深いですね」
「よろしければ、差し上げます。お好きなものは、どれでも……」
 
 テーブル越しに、宍倉さんが身を乗り出した。ぐ、と熱意が迫ってくる気がして、俺の方は体を引く。
 
「俺は、ポルノ鑑賞は趣味じゃないですよ? 好きな子のじゃないと、何見ても興奮しないのでね」
「私もですよ。さもしい人間に劣情を催すことほど不快なものはありません。ですから――これは、私にとっての燃料のひとつだと思って頂ければ」
「……燃料ですか。具体的に、あなたはこれをどうしたいと?」
 
 俺は顎を撫で、問う。宍倉さんはファイルを開き、冷たい目で被写体を眺めた。
 
「私は……この不貞の証拠を、椹木家につきつけようかと思っていました。ですが……城山との不貞を了解したうえで椹木氏が復縁をと仰っている以上、ことの発展は見込めないと考えています」
「貴彦さんらしいですね。責任感の強い人ですから」
「ええ。人道的な考えをお持ちの方です。ですが……彼はわかっていらっしゃいません。オメガも人間で、悪いことをすれば反省し、謝罪せねばならない。この当たり前のことをさせないのは、むしろ人間扱いではないと」
 
 宍倉さんは、激しく言い――俺を見た。
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