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第七章~おごりの盾~
四百二十六話
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「ああ、良く働いた」
「ほんまに~」
お店の片づけを終え、家に帰るとほっとした。
腕を回している宏ちゃんに習って、ぼくもグルグル回す。ずっと気合をいれていたからか、なんだか背が縮んだような気がする。
念入りにストレッチしていると、大きな手に肩を包まれた。
「大丈夫か? だいぶ疲れたろ」
「ううん、全然っ」
心配そうな宏ちゃんに、にっこりと笑いかえす。
すると、夫はたちまち難しい顔になって、ぼくのからだをくるりと回転させる。長い指で肩甲骨のくぼを押しこまれて、「ひゃあ」と声をあげてしまった。
「宏ちゃん、くすぐったいよ~」
かちかちに凝った筋をほぐされて、血が巡る。くすぐったくて肩をもぞもぞさせると、宏ちゃんはめっと叱った。
「はいはい、暴れるな……ほら、めちゃくちゃ張ってるじゃないか」
「それを言うなら、宏ちゃんこそ……はうっ」
「俺はごついからいいの。成は華奢だから、駄目」
どういう理屈でしょうか!?
と思うものの、ぐっぐっと肩のツボを押され続けて、心地好さにため息が漏れる。
「ふぁ……」
強張っていた肩や、背筋がほぐれて、頬がとろりとほころんだ。
溶けたチーズみたいになったぼくを、宏ちゃんはぎゅっと抱きしめた。
「このところ、忙しいからな。成のおかげで助かってるよ」
「そんな……ぼくなんか全然っ」
ぎょっとして、振り返る。
「宏ちゃんの方が、よっぽど……今日だって、八面六臂の活躍で……!」
「はは。お前が側で見てくれるから、張り切ってるだけだよ」
「……っ!」
甘い囁きをふきこまれ、頬がぱあっと熱くなった。
宏ちゃんは、いつもこう。自信のないぼくを、優しく一蹴してしまう。
――宏ちゃんは、すごいなあ……
ぼくに触れる指先から、溢れんばかりの労りがしみ込んでくる。
あんなにキラキラしている人に、ここまで気遣ってもらっている自分ってなんなんだろう。
気恥ずかしくて……申し訳ないよ。
「……いつも、ごめんね」
ぽろりと零れた本音に、ぼくを抱きしめる腕に強い力が籠る。
「なんで謝るんだ?」
「……っ」
静かな声に、ハッと息をのんだ。
「遠慮しないで、なんでも頼ってくれよ。夫婦なんだから」
揺るぎのない囁きに、まぶたが熱を持つ。
宏ちゃんは大きくて、抱きしめられるとすっぽりと包まれてしまう。守られている、って安心できるん。
――不安になんか、思ったらあかん……宏ちゃんは、こんなに優しいのに。
すんすんと鼻を啜っていると、宏ちゃんが励ますように、こめかみに頬を寄せてくれる。触れあった肌があんまり優しくて、ぼくは目を閉じて涙を堪えた。
「……そうやね。宏ちゃん、ありがとうっ」
ぱっと顔を上げて、笑う。
いつも見守ってくれる、優しい夫を見つめる。
――目の前の宏ちゃんだけが、真実やんか。……優しくて、あったかい。
番のことなんて、あんな風に持ち出すべきじゃなかったんよ。
――陽平のことで、勝手に不安になって。こんなに大切なことに、簡単に答えを求めたりして……ばかやった。
ぼくは腕の中で振り返り、胸にぎゅっと抱きついた。
「ぼく、大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「……そうか?」
「うん! 宏ちゃん、しばらくこうしてもらってもいい?」
心配そうな瞳を見つめて、明るくお願いする。
宏ちゃんの答えは言葉じゃなかった。背にまわった腕にそっと力が込められて、ぼくは顔をほころばせた。
――もっと頑張ろう。宏ちゃんの側に、胸を張っていられるように。
「ほんまに~」
お店の片づけを終え、家に帰るとほっとした。
腕を回している宏ちゃんに習って、ぼくもグルグル回す。ずっと気合をいれていたからか、なんだか背が縮んだような気がする。
念入りにストレッチしていると、大きな手に肩を包まれた。
「大丈夫か? だいぶ疲れたろ」
「ううん、全然っ」
心配そうな宏ちゃんに、にっこりと笑いかえす。
すると、夫はたちまち難しい顔になって、ぼくのからだをくるりと回転させる。長い指で肩甲骨のくぼを押しこまれて、「ひゃあ」と声をあげてしまった。
「宏ちゃん、くすぐったいよ~」
かちかちに凝った筋をほぐされて、血が巡る。くすぐったくて肩をもぞもぞさせると、宏ちゃんはめっと叱った。
「はいはい、暴れるな……ほら、めちゃくちゃ張ってるじゃないか」
「それを言うなら、宏ちゃんこそ……はうっ」
「俺はごついからいいの。成は華奢だから、駄目」
どういう理屈でしょうか!?
と思うものの、ぐっぐっと肩のツボを押され続けて、心地好さにため息が漏れる。
「ふぁ……」
強張っていた肩や、背筋がほぐれて、頬がとろりとほころんだ。
溶けたチーズみたいになったぼくを、宏ちゃんはぎゅっと抱きしめた。
「このところ、忙しいからな。成のおかげで助かってるよ」
「そんな……ぼくなんか全然っ」
ぎょっとして、振り返る。
「宏ちゃんの方が、よっぽど……今日だって、八面六臂の活躍で……!」
「はは。お前が側で見てくれるから、張り切ってるだけだよ」
「……っ!」
甘い囁きをふきこまれ、頬がぱあっと熱くなった。
宏ちゃんは、いつもこう。自信のないぼくを、優しく一蹴してしまう。
――宏ちゃんは、すごいなあ……
ぼくに触れる指先から、溢れんばかりの労りがしみ込んでくる。
あんなにキラキラしている人に、ここまで気遣ってもらっている自分ってなんなんだろう。
気恥ずかしくて……申し訳ないよ。
「……いつも、ごめんね」
ぽろりと零れた本音に、ぼくを抱きしめる腕に強い力が籠る。
「なんで謝るんだ?」
「……っ」
静かな声に、ハッと息をのんだ。
「遠慮しないで、なんでも頼ってくれよ。夫婦なんだから」
揺るぎのない囁きに、まぶたが熱を持つ。
宏ちゃんは大きくて、抱きしめられるとすっぽりと包まれてしまう。守られている、って安心できるん。
――不安になんか、思ったらあかん……宏ちゃんは、こんなに優しいのに。
すんすんと鼻を啜っていると、宏ちゃんが励ますように、こめかみに頬を寄せてくれる。触れあった肌があんまり優しくて、ぼくは目を閉じて涙を堪えた。
「……そうやね。宏ちゃん、ありがとうっ」
ぱっと顔を上げて、笑う。
いつも見守ってくれる、優しい夫を見つめる。
――目の前の宏ちゃんだけが、真実やんか。……優しくて、あったかい。
番のことなんて、あんな風に持ち出すべきじゃなかったんよ。
――陽平のことで、勝手に不安になって。こんなに大切なことに、簡単に答えを求めたりして……ばかやった。
ぼくは腕の中で振り返り、胸にぎゅっと抱きついた。
「ぼく、大丈夫。心配かけてごめんなさい」
「……そうか?」
「うん! 宏ちゃん、しばらくこうしてもらってもいい?」
心配そうな瞳を見つめて、明るくお願いする。
宏ちゃんの答えは言葉じゃなかった。背にまわった腕にそっと力が込められて、ぼくは顔をほころばせた。
――もっと頑張ろう。宏ちゃんの側に、胸を張っていられるように。
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