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第七章~おごりの盾~
四百五十四話
「……はい?」
ぼくは、浮かしかけた腰を椅子に戻した。
城山さんの気配が、変わっている。真剣勝負のように研ぎ澄まされた表情に、思わず生唾を飲みこんだ。
「……成己さん。私は、あなたにお願いがあって来たんです」
「お願い、ですか?」
城山さんは、隣の座席に置いていたバッグを探る。大きな手がテーブルに戻って来たときには、四角い箱が握られていた。
「――あなたにこれを」
白いクロスの上を滑るように、それはぼくの前に押し出される。深い赤色の革ばりの箱やった。良くわからずに、城山さんと箱とを見比べていると、「どうぞ」と促されてしまう。
「えと。では……失礼します」
開けるまで許さない――そんな気配に負けて、ぼくはその箱を開けてしまう。
そして、はっと息を飲んだ。
「――!」
手元が、ぱっと明るくなったように錯覚する。漆黒の布張りになった箱の中には、目も覚めるように美しいアクセサリーが横たわっていたん。
それは、華奢なブレスレットやった。
ばら色のルビーが一粒中央にあしらわれて、チェーンは水の雫のようなダイヤが連なっている。午後の陽ざしを吸い込んで、赤と透明の宝石がきらきらして……こんな時なのに見惚れてしまった。
「――気に入って貰えたかな」
錆びた声に訊ねられ、われに返る。ぼくは、宝石に吸いつけられた目を引きはがし、城山さんを見た。
厳しげな目元が、僅かに和らいでいる。
「あなたに受け取って欲しいのだ」
「え……?!」
冗談やと思った。でも、周りは誰も笑ってない。
「……いただけません! 受け取る理由がありませんから」
ぼくはさあっと青ざめて、激しく頭をふる。ジュエリーケースを閉じて、慎重に城山さんの方へ押し返した。
「それは、あなたのものです。成己さん――あなたに結婚式で身に着けてほしくて、私が作らせたのですから」
「……!」
「親族からの何か古いものを受け継げば、花嫁は幸せになれると言うでしょう」
大きな手が、ジュエリーケースを押し戻す。箱が再び開かれ、ルビーとダイヤのブレスレットの輝きをあらわにした。
「このルビーは、私の祖母が大切にしていたイヤリングをリフォームしたものです。あなたに貰ってほしかった。センターから来られるあなたが、城山家の新たな家族だと、自信を持っていられるように……」
「……そんな」
そんな風に、思っていて下さったなんて。ぼくは、初めて知るお義父さんの思いに呆然としてしまう。城山さんは、静かに続けた。
「妻は、これを晶くんに与えようとしていたそうです」
蓑崎さん、と思わず呟く。たしかに、美貌の彼なら華麗な宝石も似合うやろう――と、ぼくの考えを読んだように、城山さんは頭を振った。
「だが、これは晶くんの為に作ったものではない――炎のようなルビーを囲む、ローズカットのダイヤのやわらかな輝きはあなたそのもの。私は、あなたこそ陽平に相応しい人だと思っています」
城山さんの言葉は熱っぽく、真摯に響いた。どうして、今さら――どこか打ちのめされるような思いで、ぼくは俯いた。滲む視界に、ブレスレットが優しく輝いている。
――ほんとに、きれい……
あんまり綺麗で、かなしい。
嬉しさと寂しさが、いっしょくたになって胸に迫ってきて、苦しかったん。――婚約していた時のぼくに、さっきの言葉を聞かせてあげたかった、と心から思う。
目尻に浮かんだ涙を指の腹でおさえながら、ぼくは笑う。
「……ありがとうございます。でも、お気持ちだけで、本当に。そんな風に言って頂けただけで、良かったですから……」
「あなたに受け取って欲しいと言ったでしょう」
城山さんが、ぼくの言葉を遮った。え、と目を見ひらく。
「成己さん。息子のもとに、戻って来てくれませんか」
ぼくは、浮かしかけた腰を椅子に戻した。
城山さんの気配が、変わっている。真剣勝負のように研ぎ澄まされた表情に、思わず生唾を飲みこんだ。
「……成己さん。私は、あなたにお願いがあって来たんです」
「お願い、ですか?」
城山さんは、隣の座席に置いていたバッグを探る。大きな手がテーブルに戻って来たときには、四角い箱が握られていた。
「――あなたにこれを」
白いクロスの上を滑るように、それはぼくの前に押し出される。深い赤色の革ばりの箱やった。良くわからずに、城山さんと箱とを見比べていると、「どうぞ」と促されてしまう。
「えと。では……失礼します」
開けるまで許さない――そんな気配に負けて、ぼくはその箱を開けてしまう。
そして、はっと息を飲んだ。
「――!」
手元が、ぱっと明るくなったように錯覚する。漆黒の布張りになった箱の中には、目も覚めるように美しいアクセサリーが横たわっていたん。
それは、華奢なブレスレットやった。
ばら色のルビーが一粒中央にあしらわれて、チェーンは水の雫のようなダイヤが連なっている。午後の陽ざしを吸い込んで、赤と透明の宝石がきらきらして……こんな時なのに見惚れてしまった。
「――気に入って貰えたかな」
錆びた声に訊ねられ、われに返る。ぼくは、宝石に吸いつけられた目を引きはがし、城山さんを見た。
厳しげな目元が、僅かに和らいでいる。
「あなたに受け取って欲しいのだ」
「え……?!」
冗談やと思った。でも、周りは誰も笑ってない。
「……いただけません! 受け取る理由がありませんから」
ぼくはさあっと青ざめて、激しく頭をふる。ジュエリーケースを閉じて、慎重に城山さんの方へ押し返した。
「それは、あなたのものです。成己さん――あなたに結婚式で身に着けてほしくて、私が作らせたのですから」
「……!」
「親族からの何か古いものを受け継げば、花嫁は幸せになれると言うでしょう」
大きな手が、ジュエリーケースを押し戻す。箱が再び開かれ、ルビーとダイヤのブレスレットの輝きをあらわにした。
「このルビーは、私の祖母が大切にしていたイヤリングをリフォームしたものです。あなたに貰ってほしかった。センターから来られるあなたが、城山家の新たな家族だと、自信を持っていられるように……」
「……そんな」
そんな風に、思っていて下さったなんて。ぼくは、初めて知るお義父さんの思いに呆然としてしまう。城山さんは、静かに続けた。
「妻は、これを晶くんに与えようとしていたそうです」
蓑崎さん、と思わず呟く。たしかに、美貌の彼なら華麗な宝石も似合うやろう――と、ぼくの考えを読んだように、城山さんは頭を振った。
「だが、これは晶くんの為に作ったものではない――炎のようなルビーを囲む、ローズカットのダイヤのやわらかな輝きはあなたそのもの。私は、あなたこそ陽平に相応しい人だと思っています」
城山さんの言葉は熱っぽく、真摯に響いた。どうして、今さら――どこか打ちのめされるような思いで、ぼくは俯いた。滲む視界に、ブレスレットが優しく輝いている。
――ほんとに、きれい……
あんまり綺麗で、かなしい。
嬉しさと寂しさが、いっしょくたになって胸に迫ってきて、苦しかったん。――婚約していた時のぼくに、さっきの言葉を聞かせてあげたかった、と心から思う。
目尻に浮かんだ涙を指の腹でおさえながら、ぼくは笑う。
「……ありがとうございます。でも、お気持ちだけで、本当に。そんな風に言って頂けただけで、良かったですから……」
「あなたに受け取って欲しいと言ったでしょう」
城山さんが、ぼくの言葉を遮った。え、と目を見ひらく。
「成己さん。息子のもとに、戻って来てくれませんか」
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