455 / 485
第七章~おごりの盾~
四百五十四話
しおりを挟む
「……はい?」
ぼくは、浮かしかけた腰を椅子に戻した。
城山さんの気配が、変わっている。真剣勝負のように研ぎ澄まされた表情に、思わず生唾を飲みこんだ。
「……成己さん。私は、あなたにお願いがあって来たんです」
「お願い、ですか?」
城山さんは、隣の座席に置いていたバッグを探る。大きな手がテーブルに戻って来たときには、四角い箱が握られていた。
「――あなたにこれを」
白いクロスの上を滑るように、それはぼくの前に押し出される。深い赤色の革ばりの箱やった。良くわからずに、城山さんと箱とを見比べていると、「どうぞ」と促されてしまう。
「えと。では……失礼します」
開けるまで許さない――そんな気配に負けて、ぼくはその箱を開けてしまう。
そして、はっと息を飲んだ。
「――!」
手元が、ぱっと明るくなったように錯覚する。漆黒の布張りになった箱の中には、目も覚めるように美しいアクセサリーが横たわっていたん。
それは、華奢なブレスレットやった。
ばら色のルビーが一粒中央にあしらわれて、チェーンは水の雫のようなダイヤが連なっている。午後の陽ざしを吸い込んで、赤と透明の宝石がきらきらして……こんな時なのに見惚れてしまった。
「――気に入って貰えたかな」
錆びた声に訊ねられ、われに返る。ぼくは、宝石に吸いつけられた目を引きはがし、城山さんを見た。
厳しげな目元が、僅かに和らいでいる。
「あなたに受け取って欲しいのだ」
「え……?!」
冗談やと思った。でも、周りは誰も笑ってない。
「……いただけません! 受け取る理由がありませんから」
ぼくはさあっと青ざめて、激しく頭をふる。ジュエリーケースを閉じて、慎重に城山さんの方へ押し返した。
「それは、あなたのものです。成己さん――あなたに結婚式で身に着けてほしくて、私が作らせたのですから」
「……!」
「親族からの何か古いものを受け継げば、花嫁は幸せになれると言うでしょう」
大きな手が、ジュエリーケースを押し戻す。箱が再び開かれ、ルビーとダイヤのブレスレットの輝きをあらわにした。
「このルビーは、私の祖母が大切にしていたイヤリングをリフォームしたものです。あなたに貰ってほしかった。センターから来られるあなたが、城山家の新たな家族だと、自信を持っていられるように……」
「……そんな」
そんな風に、思っていて下さったなんて。ぼくは、初めて知るお義父さんの思いに呆然としてしまう。城山さんは、静かに続けた。
「妻は、これを晶くんに与えようとしていたそうです」
蓑崎さん、と思わず呟く。たしかに、美貌の彼なら華麗な宝石も似合うやろう――と、ぼくの考えを読んだように、城山さんは頭を振った。
「だが、これは晶くんの為に作ったものではない――炎のようなルビーを囲む、ローズカットのダイヤのやわらかな輝きはあなたそのもの。私は、あなたこそ陽平に相応しい人だと思っています」
城山さんの言葉は熱っぽく、真摯に響いた。どうして、今さら――どこか打ちのめされるような思いで、ぼくは俯いた。滲む視界に、ブレスレットが優しく輝いている。
――ほんとに、きれい……
あんまり綺麗で、かなしい。
嬉しさと寂しさが、いっしょくたになって胸に迫ってきて、苦しかったん。――婚約していた時のぼくに、さっきの言葉を聞かせてあげたかった、と心から思う。
目尻に浮かんだ涙を指の腹でおさえながら、ぼくは笑う。
「……ありがとうございます。でも、お気持ちだけで、本当に。そんな風に言って頂けただけで、良かったですから……」
「あなたに受け取って欲しいと言ったでしょう」
城山さんが、ぼくの言葉を遮った。え、と目を見ひらく。
「成己さん。息子のもとに、戻って来てくれませんか」
ぼくは、浮かしかけた腰を椅子に戻した。
城山さんの気配が、変わっている。真剣勝負のように研ぎ澄まされた表情に、思わず生唾を飲みこんだ。
「……成己さん。私は、あなたにお願いがあって来たんです」
「お願い、ですか?」
城山さんは、隣の座席に置いていたバッグを探る。大きな手がテーブルに戻って来たときには、四角い箱が握られていた。
「――あなたにこれを」
白いクロスの上を滑るように、それはぼくの前に押し出される。深い赤色の革ばりの箱やった。良くわからずに、城山さんと箱とを見比べていると、「どうぞ」と促されてしまう。
「えと。では……失礼します」
開けるまで許さない――そんな気配に負けて、ぼくはその箱を開けてしまう。
そして、はっと息を飲んだ。
「――!」
手元が、ぱっと明るくなったように錯覚する。漆黒の布張りになった箱の中には、目も覚めるように美しいアクセサリーが横たわっていたん。
それは、華奢なブレスレットやった。
ばら色のルビーが一粒中央にあしらわれて、チェーンは水の雫のようなダイヤが連なっている。午後の陽ざしを吸い込んで、赤と透明の宝石がきらきらして……こんな時なのに見惚れてしまった。
「――気に入って貰えたかな」
錆びた声に訊ねられ、われに返る。ぼくは、宝石に吸いつけられた目を引きはがし、城山さんを見た。
厳しげな目元が、僅かに和らいでいる。
「あなたに受け取って欲しいのだ」
「え……?!」
冗談やと思った。でも、周りは誰も笑ってない。
「……いただけません! 受け取る理由がありませんから」
ぼくはさあっと青ざめて、激しく頭をふる。ジュエリーケースを閉じて、慎重に城山さんの方へ押し返した。
「それは、あなたのものです。成己さん――あなたに結婚式で身に着けてほしくて、私が作らせたのですから」
「……!」
「親族からの何か古いものを受け継げば、花嫁は幸せになれると言うでしょう」
大きな手が、ジュエリーケースを押し戻す。箱が再び開かれ、ルビーとダイヤのブレスレットの輝きをあらわにした。
「このルビーは、私の祖母が大切にしていたイヤリングをリフォームしたものです。あなたに貰ってほしかった。センターから来られるあなたが、城山家の新たな家族だと、自信を持っていられるように……」
「……そんな」
そんな風に、思っていて下さったなんて。ぼくは、初めて知るお義父さんの思いに呆然としてしまう。城山さんは、静かに続けた。
「妻は、これを晶くんに与えようとしていたそうです」
蓑崎さん、と思わず呟く。たしかに、美貌の彼なら華麗な宝石も似合うやろう――と、ぼくの考えを読んだように、城山さんは頭を振った。
「だが、これは晶くんの為に作ったものではない――炎のようなルビーを囲む、ローズカットのダイヤのやわらかな輝きはあなたそのもの。私は、あなたこそ陽平に相応しい人だと思っています」
城山さんの言葉は熱っぽく、真摯に響いた。どうして、今さら――どこか打ちのめされるような思いで、ぼくは俯いた。滲む視界に、ブレスレットが優しく輝いている。
――ほんとに、きれい……
あんまり綺麗で、かなしい。
嬉しさと寂しさが、いっしょくたになって胸に迫ってきて、苦しかったん。――婚約していた時のぼくに、さっきの言葉を聞かせてあげたかった、と心から思う。
目尻に浮かんだ涙を指の腹でおさえながら、ぼくは笑う。
「……ありがとうございます。でも、お気持ちだけで、本当に。そんな風に言って頂けただけで、良かったですから……」
「あなたに受け取って欲しいと言ったでしょう」
城山さんが、ぼくの言葉を遮った。え、と目を見ひらく。
「成己さん。息子のもとに、戻って来てくれませんか」
280
あなたにおすすめの小説
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
私と幼馴染と十年間の婚約者
川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。
それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。
アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。
婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?
だって、君は210日のポラリス
大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺
モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。
一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、
突然人生の岐路に立たされた。
――立春から210日、夏休みの終わる頃。
それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて――
📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。
エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。
結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。
しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。
友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。
『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。
取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。
彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。
失恋までが初恋です。
あんど もあ
ファンタジー
私の初恋はお兄様。お兄様は、私が五歳の時にご両親を亡くして我が家にやって来て私のお兄様になってくださった方。私は三歳年上の王子様のようなお兄様に一目ぼれでした。それから十年。お兄様にはルシンダ様と言う婚約者が、私にも婚約者らしき者がいますが、初恋は続行中ですの。
そんなマルティーナのお話。
届かない「ただいま」
AzureHaru
BL
いつも通りの変わらない日常のはずだった。
「行ってきます。」と言って出て行った貴方。1日が終わる頃に「ただいま。」と「おかえり。」を笑顔で交わすはずだった。でも、その言葉はもう貴方には届かない。
これは「優しさが奪った日常」の物語。
【完結】留学先から戻って来た婚約者に存在を忘れられていました
山葵
恋愛
国王陛下の命により帝国に留学していた王太子に付いて行っていた婚約者のレイモンド様が帰国された。
王家主催で王太子達の帰国パーティーが執り行われる事が決まる。
レイモンド様の婚約者の私も勿論、従兄にエスコートされ出席させて頂きますわ。
3年ぶりに見るレイモンド様は、幼さもすっかり消え、美丈夫になっておりました。
将来の宰相の座も約束されており、婚約者の私も鼻高々ですわ!
「レイモンド様、お帰りなさいませ。留学中は、1度もお戻りにならず、便りも来ずで心配しておりましたのよ。元気そうで何よりで御座います」
ん?誰だっけ?みたいな顔をレイモンド様がされている?
婚約し顔を合わせでしか会っていませんけれど、まさか私を忘れているとかでは無いですよね!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる