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第一部 決闘大会編
百七十六話
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武道館の前で、片倉先輩と合流した。先輩は、下駄箱に凭れてしゃがみこんでいた。
「片倉先輩、お疲れさまっす!」
「お、お疲れさまですっ」
「……おう。それ、差し入れか?」
片倉先輩は、俺たちのビニル袋を指差した。
「うすっ」
元気よく頷くと、片倉先輩は片手を軽く上げた。
「……悪いな。俺の分は後で渡すわ」
「ありがとうございますっ」
そのまま三人で話していると、葛城先生が「待たせたな」と小走りで登場する。赤いジャージが肩でなびいてて、かっこいいぜ。テスト期間、補習なかったから久々に見た。
「葛城先生、お疲れさまです!」
「うむ、お疲れ。今日は、ゆっくり見学していくと良い」
「うす!」
葛城先生は、武道館の扉にガチャガチャと鍵を差し込んだ。これは、チャンネルキーって言うらしくて、魔法の鍵らしい。
あの鍵で開けた扉は、鍵の指定した「異空間」につながるそうだ。なんか、よくわかんねえけどすげえよな。
勉強会を持ってる先生たちは、このチャンネルキーを使って、授業場所のバッティングを防いでるんだって。たしかに、勉強会の数ってすげー多いらしいから。普通の教室ならともかく、武道館なんかは時間の確保が難しそうだもんな。
それにしても、ロマンあるアイテムだぜ。
「き、キーがないと繋がらない異空間……って言うと、それを持ってない人は、勉強会に出られないってことですか?」
「その通り。だからという訳ではないが、どの勉強会も遅刻は厳禁だぞ。――よし、入れ」
ガチャン、と大きい音を立てて、鍵が開く。葛城先生に促され、どきどきしながら扉を押した。
そして、目の前に広がった光景に、目を見開いた。
「おおお……!」
めっちゃくちゃ広い。これは、サッカーのピッチくらいあるぞ。
その上、芝生もかくやっつー、鮮やかな緑の畳が一面に敷き詰められてる。
「……ばーちゃん家みてぇ」
「あっ、わかります!」
片倉先輩が、ぼそっと呟いた。先輩の言うとおり、いぐさのいい匂いがする。なのに、踏んだら柔らかくて、安全の配慮もバッチリだ。
ダンッ! ダンッ!
「うわっ?」
でかい音に、ビビってのけぞった。
てか、この音。入ったときから、ずっとしてるんだよな。なんか、重い荷物でも落ちたみたいに、床にも振動が伝わってくる。
ところで――俺は先生を振り返った。
「葛城先生。先輩たちは、休憩中っすか?」
「えっ?」
と、何故か森脇が不思議そうな顔をして、言った。
「いい、いるよ? せ、先輩たち。ずっと、あっあそこで闘ってる」
「ええ?!」
マジで?
俺は、慌てて森脇の指した方を見る。……な、なんも、ないみたいに見えるぞ。
じーっ、と目を凝らしていると、葛城先生が声を張った。
「藤川、須々木! 後輩が来たからストップだ!」
――ダンッ!
一際、大きい音がしたかと思うと、忽然と二人の先輩が姿を現した。
二人は、5メートルくらい離れた位置で、相対し構えている。
「えーっ!」
て、手品か!? 思わず、目がまん丸になる。片倉先輩は、眉根を寄せて呟いた。
「……やっぱ、ありえねー……」
「す、すすごく速かった。さすが、さっ三年の先輩……!」
「いや、学年つうか……色だろ」
森脇も、目を輝かせている。俺だけおろおろしてる間に、須々木先輩と藤川先輩が、こちらに歩いてきていた。
藤川先輩は汗だくのまま、俺たちに快活に笑いかけた。
「お疲れさんです! 葛城先生、見学の皆さん」
よく通る声で、須々木先輩が挨拶する。先輩たちは、かっこいい一礼をし、葛城先生も「うむ」と頷いた。
「お疲れ様です! 今日はお世話になりますっ」
俺たちも、慌てて頭を下げる。ハッとして、森脇と目を合わせると、あいつも同じように思ったらしい。
「あ、さ、差し入れ……!」
「おう!」
タイミング的に、今しかないぜということで。三人で、持ってきた差し入れをお渡しした。
葛城先生は目を丸くして、受け取ってくれた。
「これは……気を遣わせた。ありがとうな」
「おおきに、皆!」
「アクエリアスは大好きだ。ありがとう」
先輩たちも喜んでくれたので、俺たちはほっと顔を見合わせた。
すると、葛城先生はどこからともなく紙コップを取り出した。
「では、冷たいうちに、早速頂くとしよう。あいつらも休憩するし丁度いい。まずは、この勉強会の説明から始めるぞ」
「片倉先輩、お疲れさまっす!」
「お、お疲れさまですっ」
「……おう。それ、差し入れか?」
片倉先輩は、俺たちのビニル袋を指差した。
「うすっ」
元気よく頷くと、片倉先輩は片手を軽く上げた。
「……悪いな。俺の分は後で渡すわ」
「ありがとうございますっ」
そのまま三人で話していると、葛城先生が「待たせたな」と小走りで登場する。赤いジャージが肩でなびいてて、かっこいいぜ。テスト期間、補習なかったから久々に見た。
「葛城先生、お疲れさまです!」
「うむ、お疲れ。今日は、ゆっくり見学していくと良い」
「うす!」
葛城先生は、武道館の扉にガチャガチャと鍵を差し込んだ。これは、チャンネルキーって言うらしくて、魔法の鍵らしい。
あの鍵で開けた扉は、鍵の指定した「異空間」につながるそうだ。なんか、よくわかんねえけどすげえよな。
勉強会を持ってる先生たちは、このチャンネルキーを使って、授業場所のバッティングを防いでるんだって。たしかに、勉強会の数ってすげー多いらしいから。普通の教室ならともかく、武道館なんかは時間の確保が難しそうだもんな。
それにしても、ロマンあるアイテムだぜ。
「き、キーがないと繋がらない異空間……って言うと、それを持ってない人は、勉強会に出られないってことですか?」
「その通り。だからという訳ではないが、どの勉強会も遅刻は厳禁だぞ。――よし、入れ」
ガチャン、と大きい音を立てて、鍵が開く。葛城先生に促され、どきどきしながら扉を押した。
そして、目の前に広がった光景に、目を見開いた。
「おおお……!」
めっちゃくちゃ広い。これは、サッカーのピッチくらいあるぞ。
その上、芝生もかくやっつー、鮮やかな緑の畳が一面に敷き詰められてる。
「……ばーちゃん家みてぇ」
「あっ、わかります!」
片倉先輩が、ぼそっと呟いた。先輩の言うとおり、いぐさのいい匂いがする。なのに、踏んだら柔らかくて、安全の配慮もバッチリだ。
ダンッ! ダンッ!
「うわっ?」
でかい音に、ビビってのけぞった。
てか、この音。入ったときから、ずっとしてるんだよな。なんか、重い荷物でも落ちたみたいに、床にも振動が伝わってくる。
ところで――俺は先生を振り返った。
「葛城先生。先輩たちは、休憩中っすか?」
「えっ?」
と、何故か森脇が不思議そうな顔をして、言った。
「いい、いるよ? せ、先輩たち。ずっと、あっあそこで闘ってる」
「ええ?!」
マジで?
俺は、慌てて森脇の指した方を見る。……な、なんも、ないみたいに見えるぞ。
じーっ、と目を凝らしていると、葛城先生が声を張った。
「藤川、須々木! 後輩が来たからストップだ!」
――ダンッ!
一際、大きい音がしたかと思うと、忽然と二人の先輩が姿を現した。
二人は、5メートルくらい離れた位置で、相対し構えている。
「えーっ!」
て、手品か!? 思わず、目がまん丸になる。片倉先輩は、眉根を寄せて呟いた。
「……やっぱ、ありえねー……」
「す、すすごく速かった。さすが、さっ三年の先輩……!」
「いや、学年つうか……色だろ」
森脇も、目を輝かせている。俺だけおろおろしてる間に、須々木先輩と藤川先輩が、こちらに歩いてきていた。
藤川先輩は汗だくのまま、俺たちに快活に笑いかけた。
「お疲れさんです! 葛城先生、見学の皆さん」
よく通る声で、須々木先輩が挨拶する。先輩たちは、かっこいい一礼をし、葛城先生も「うむ」と頷いた。
「お疲れ様です! 今日はお世話になりますっ」
俺たちも、慌てて頭を下げる。ハッとして、森脇と目を合わせると、あいつも同じように思ったらしい。
「あ、さ、差し入れ……!」
「おう!」
タイミング的に、今しかないぜということで。三人で、持ってきた差し入れをお渡しした。
葛城先生は目を丸くして、受け取ってくれた。
「これは……気を遣わせた。ありがとうな」
「おおきに、皆!」
「アクエリアスは大好きだ。ありがとう」
先輩たちも喜んでくれたので、俺たちはほっと顔を見合わせた。
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