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手を取る夜
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その日の夜、外出から戻ってきたシエルは、まっすぐにリュカの部屋にやってきた。
「リュカ~、見てくれ!」
バーン、と勢いよくドアが開き、机で書き物をしていたリュカは、驚いて振り返った。
「お兄様っ? お帰りなさいませ……」
「ふっふっふ」
席をたって出迎えたリュカに、シエルは得意そうな笑みを浮かべた。桜色の唇がうずうずと震え、咲き初めた花びらのようだ。
「じゃーん!」
シエルは威勢よく声を上げ、かき合わせるようにして着ていた外套を、ぱっと脱ぎ捨てる。その瞬間、リュカと、部屋に控えていたハンナとテオは、「あっ」と目を見ひらいた。
突然、部屋に大輪の花が咲き誇ったかのようだった。
外套を脱いだ勢いで、桜桃色のレース編みの布が、ふわりと舞う。照明用の魔石の光を受け、金糸と真珠が麗しく輝いている。
シエルの白磁の肌を包んでいるのは、昼間、呉服商でリュカが試した流行の衣だったのだ。
(すごい……僕が着たときと、全然違う……)
リュカが完全に着られてしまった衣装を、シエルは完璧に着こなしていた。――いや、完璧以上というべきか。きっと、この衣の作り手でさえ、ここまでの美しさを想像していなかったはずだ。
リュカにはセクシーすぎた意匠は、シエルの麗しい容姿を完全に引き立てていた。均整の取れたしなやかな体躯は、芳醇な色気を放ちながらも、気品を損なっていない。
リュカは、兄の美しさに少し気圧されつつ、言った。
「お兄様……なんて、美しいんでしょう」
「いいだろう? 社交の帰りに、母上と呉服商に寄って来たんだ。これで、お前のお見合いパーティは万全だぞ!」
シエルは弟の賛辞に、嬉しそうに胸を張る。首を傾げた拍子に、金細工の髪飾りがしゃらりと揺れる。それは高名な彫金師による一点物だと、呉服商のオーナーが得意げに説明していたものだ。
「さすが、シエル様! その衣装もシエル様に召されて本望でしょうね」
「ははっ、お前は口が上手いなぁ!」
愛想の良い笑みを浮かべ、テオが拍手をする。シエルは、衣の裾をひょいと摘まんで見せる。
「本当は、リュカと一緒に選びたかったんだけどなー。お揃いか、せめて色違いにしたかったし……そしたら、これが一番人気の衣だって言うじゃん? じゃあ、リュカもこれにしたんじゃないかなって思って!」
「えっ」
リュカはきょとんと目を丸くする。シエルは悪戯が成功したように、にっこり笑う。
「なあ、当りだった? 答え合わせしよ」
「え、ええと」
甘えるように肩を揺さぶられ、リュカは焦った。
(どうしよう。お兄様、僕とお揃いにしようと思ってらしたんだ……!)
こうして、凛々しい兄は、弟の自分には甘やかなところをお見せになる。考えてみれば、このお見合いはリュカの門出であり、ルミエールとして出席できる最後の夜会。何か、特別なことをしたいと思っていて下さったのかもしれない――リュカは、「自分に似合うものを」とだけ考えていた己を恥じた。
「ごめんなさい、お兄様。僕の衣装、それとは違うんです」
「ええっ!」
ショックを受けたように目を見ひらくシエルに、リュカは小さくなって謝った。
「これ以外に、いいやつあったっけ?! 俺、どれもぱっとしねえと思ったけど……」
「ええと……こういうものなのです」
気をきかせて、ハンナが持って来てくれた衣を、リュカはそっと羽織って見せた。――魔石の光の下、翠の衣が優しい光沢を放つ。異国の特殊な染料は、夜の明るさで見ると、リュカの白い肌をあたたかく映えさせていた。
「……」
シエルが、驚いたように息を飲んだ。リュカは気づかずに、兄に経緯を説明している。
「僕は、お兄様のように艶やかな衣が似合わなくて……それで、オーナーが「これならどうか」とアドバイスを下さったんです」
「……すげぇ変わった色だな。見たことない」
「異国の染料なんだそうです。まだ、アルムではあまり出回っていないと聞きました」
「出回ってない……」
「僕、とっても素敵な色だな、って気に入ってしまって」
シエルは、リュカの羽織る衣をつまみ、魅入られたように見つめた。自分の腕に当ててみたり、手触りを確かめた後――ぱっと放す。
「……そっか。見せてくれてサンキュ!」
「ごめんなさい。僕、何も考えてなくて……お兄様は、僕のこと考えて選んでくださったのに」
「いーよ、いーよ! 予想が外れたなあ、って悔しいけどさっ」
からっとしたシエルの態度に、リュカはホッと息を吐く。少し、後ろめたい思いを抱えながら。
(僕、嫌な子だ。お兄様と、せめて同じ衣でなくて良かったって、ちょっと思ってる)
美しい兄は、どのパーティでも一番の華となる。けれど、このお見合いパーティはリュカにとって特別な夜だ。
小さな花でもいい。シエルとは別の花として、見てほしいと思っていた。
すると、強張った肩にぽんと温かい手が乗った。
「リュカ様、ご衣装を仕舞ってまいりますわ」
「ありがとう、ハンナ」
そっと囁いたばあやに、リュカはほほ笑みかえした。
まだ話し足りなそうなシエルの為に、テオにお茶を用意してもらう。いつもは文句たらたらの彼も、シエルがいるとなればテキパキと茶の手配をしてくれた。
「なあリュカ。パーティの準備はどうなってる?」
シエルがお茶を飲みながら、ワクワクした様子で訊ねる。リュカもふふ、とほほ笑む。
「みんなが助けてくれるので、順調に進んでいます」
「へえーっ、俺も見てもいい?」
「はい。どうぞお兄様」
リュカはにっこりして、さっきまで書いていたノートをシエルに渡す。シエルは、ぱっと姿勢を正し、真剣にページを繰っていた。そして、言う。
「なあなあなあ。これ、ちょっと直していいか?」
「えっ?」
リュカは、目を見ひらく。シエルはノートを開いて見せ、難しい顔をした。
「全体的に、ちょっと豪勢すぎると思う。たとえば料理、もっと量減らせないか? たいてい余らせて、もったいないだろ?」
「そ、そうなのですが……今回は立食の形式ですので。お客様をもてなすために、これくらいは必要かと……」
立食形式の料理は、会場のインテリアの一つだ。贅沢すぎても品がないが、質素すぎるのもお客様ががっかりする。執事長や料理長と何度も話し合い、決めた料理の案であるため、リュカも推す。
「うーん……俺、魔獣狩りの任務でよく民と関わるからなあ。どうにも、贅沢過ぎって言うか……遊んでる場合じゃねえよって思っちゃうんだよな。俺、もっと貴族に意識改革してほしい。だから、ルミエールが先陣を切れればいいと思うんだけど……」
「お兄様……」
物憂げにため息を吐くシエルに、リュカは胸を痛める。
(お兄様のおっしゃることは、正しい……)
アルムは現在の陛下が名君であり、治世を行っているため豊かだ。しかし、国土に発生する魔獣は、常に民の脅威であり続けている。魔獣狩りであるシエルは、彼らの痛みに近い為、心を痛めているのだろう。
(僕だって、愛しい人が魔獣の危機にさらされていると思うと……)
リュカは左肩に手を当て、シエルを見た。
「わかりました、お兄様。お志、とても立派で……僕も及ばずながら、お力になれればと思います」
「リュカ! じゃあ――」
「ですが、今回はこのままの案でいかせてください」
ぱっと表情を明るくしたシエルに、リュカは辛い気持ちで伝えた。
「な……なんで?」
「お父様から……今回は公爵家をはじめとする高名な方々や、隣国の大商人も来られると伺いました。ルミエール家の威光を傷つけないパーティをひらけと仰せつかっております」
父にパーティの準備を命じられたとき、その予算の高額なことに驚いた。でも、招待客の目録を見せられて、リュカは納得した。万一にも、お客様にルミエールはもてなしを知らないと思われては困るのだと。
シエルは、困惑気に瞳を揺らす。
「それなら、尚更じゃん! 偉い奴らがたくさん来るなら、意識改革のチャンスだろ……?ここで、ルミエールは他の貴族と違って高潔だって見せてやろうよ!」
「ごめんなさい、お兄様……僕には、一か八かは怖いです」
この発想は、貴族のなかではかなり新しい。この志が伝わればいいが、もし不敬だと取られてしまったら――結果は、考えるだに恐ろしかった。
「そんなあ……」
シエルの瞳が、自分への失望に潤むのを、リュカは悲しい思いで見つめながら、言い募った。
「お兄様のお志は、本当に素晴らしいんです。だから僕、嫁いだら……少しずつ、実践してみようと思います。友人たちの茶会からはじめて、少しずつ意識を変えていけたら……」
「もういいよ」
シエルは力なく項垂れて、リュカの言葉をとめた。華やいでいた顔は、やるせない笑みに象られていた。
「わかってる、俺が無茶言ってるんだよな。お前も、好きにパーティしたいのにな」
「お兄様、ぼく……」
「ああ、俺がパーティの采配をさせてもらえたら、ドーンとやってやるのにさっ。俺は、母上に全部仕切られちゃうからな……」
背もたれに身を投げ、シエルはため息を吐く。後継であるシエルは、パーティの差配なども母からの薫陶をうけている。リュカなどは羨ましく思うが、先進的なシエルには窮屈なのかもしれない。
(ご自分の気持ちをわかってもらえないのは、寂しいはず……)
リュカは、寂しそうな兄の横に座り、そっと手を取った。
「……お兄様、さっきのこと。僕、必ず実践いたします。いつかきっと、みんなにお兄様の気持ちが届くように」
だから、一人ではありません――。そう伝えるつもりで、リュカは握った手に力をこめた。シエルは肩を震わせ、長いこと黙っていた。
それから、ポツリと言う。
「じゃあ、さ。パーティのお客に、俺の友達も呼んでいいか。あいつらアルファだし、良い奴らだから」
「……はいっ、お兄様」
兄からの提案に、リュカは笑った。それが兄からの遠回しな”仲直り”だと、わかったからだ。
その招待客が、誰であるか。
パーティの夜に、自分にとんだ運命が喰らいついて来ることも――まだ、知らないままで。
「リュカ~、見てくれ!」
バーン、と勢いよくドアが開き、机で書き物をしていたリュカは、驚いて振り返った。
「お兄様っ? お帰りなさいませ……」
「ふっふっふ」
席をたって出迎えたリュカに、シエルは得意そうな笑みを浮かべた。桜色の唇がうずうずと震え、咲き初めた花びらのようだ。
「じゃーん!」
シエルは威勢よく声を上げ、かき合わせるようにして着ていた外套を、ぱっと脱ぎ捨てる。その瞬間、リュカと、部屋に控えていたハンナとテオは、「あっ」と目を見ひらいた。
突然、部屋に大輪の花が咲き誇ったかのようだった。
外套を脱いだ勢いで、桜桃色のレース編みの布が、ふわりと舞う。照明用の魔石の光を受け、金糸と真珠が麗しく輝いている。
シエルの白磁の肌を包んでいるのは、昼間、呉服商でリュカが試した流行の衣だったのだ。
(すごい……僕が着たときと、全然違う……)
リュカが完全に着られてしまった衣装を、シエルは完璧に着こなしていた。――いや、完璧以上というべきか。きっと、この衣の作り手でさえ、ここまでの美しさを想像していなかったはずだ。
リュカにはセクシーすぎた意匠は、シエルの麗しい容姿を完全に引き立てていた。均整の取れたしなやかな体躯は、芳醇な色気を放ちながらも、気品を損なっていない。
リュカは、兄の美しさに少し気圧されつつ、言った。
「お兄様……なんて、美しいんでしょう」
「いいだろう? 社交の帰りに、母上と呉服商に寄って来たんだ。これで、お前のお見合いパーティは万全だぞ!」
シエルは弟の賛辞に、嬉しそうに胸を張る。首を傾げた拍子に、金細工の髪飾りがしゃらりと揺れる。それは高名な彫金師による一点物だと、呉服商のオーナーが得意げに説明していたものだ。
「さすが、シエル様! その衣装もシエル様に召されて本望でしょうね」
「ははっ、お前は口が上手いなぁ!」
愛想の良い笑みを浮かべ、テオが拍手をする。シエルは、衣の裾をひょいと摘まんで見せる。
「本当は、リュカと一緒に選びたかったんだけどなー。お揃いか、せめて色違いにしたかったし……そしたら、これが一番人気の衣だって言うじゃん? じゃあ、リュカもこれにしたんじゃないかなって思って!」
「えっ」
リュカはきょとんと目を丸くする。シエルは悪戯が成功したように、にっこり笑う。
「なあ、当りだった? 答え合わせしよ」
「え、ええと」
甘えるように肩を揺さぶられ、リュカは焦った。
(どうしよう。お兄様、僕とお揃いにしようと思ってらしたんだ……!)
こうして、凛々しい兄は、弟の自分には甘やかなところをお見せになる。考えてみれば、このお見合いはリュカの門出であり、ルミエールとして出席できる最後の夜会。何か、特別なことをしたいと思っていて下さったのかもしれない――リュカは、「自分に似合うものを」とだけ考えていた己を恥じた。
「ごめんなさい、お兄様。僕の衣装、それとは違うんです」
「ええっ!」
ショックを受けたように目を見ひらくシエルに、リュカは小さくなって謝った。
「これ以外に、いいやつあったっけ?! 俺、どれもぱっとしねえと思ったけど……」
「ええと……こういうものなのです」
気をきかせて、ハンナが持って来てくれた衣を、リュカはそっと羽織って見せた。――魔石の光の下、翠の衣が優しい光沢を放つ。異国の特殊な染料は、夜の明るさで見ると、リュカの白い肌をあたたかく映えさせていた。
「……」
シエルが、驚いたように息を飲んだ。リュカは気づかずに、兄に経緯を説明している。
「僕は、お兄様のように艶やかな衣が似合わなくて……それで、オーナーが「これならどうか」とアドバイスを下さったんです」
「……すげぇ変わった色だな。見たことない」
「異国の染料なんだそうです。まだ、アルムではあまり出回っていないと聞きました」
「出回ってない……」
「僕、とっても素敵な色だな、って気に入ってしまって」
シエルは、リュカの羽織る衣をつまみ、魅入られたように見つめた。自分の腕に当ててみたり、手触りを確かめた後――ぱっと放す。
「……そっか。見せてくれてサンキュ!」
「ごめんなさい。僕、何も考えてなくて……お兄様は、僕のこと考えて選んでくださったのに」
「いーよ、いーよ! 予想が外れたなあ、って悔しいけどさっ」
からっとしたシエルの態度に、リュカはホッと息を吐く。少し、後ろめたい思いを抱えながら。
(僕、嫌な子だ。お兄様と、せめて同じ衣でなくて良かったって、ちょっと思ってる)
美しい兄は、どのパーティでも一番の華となる。けれど、このお見合いパーティはリュカにとって特別な夜だ。
小さな花でもいい。シエルとは別の花として、見てほしいと思っていた。
すると、強張った肩にぽんと温かい手が乗った。
「リュカ様、ご衣装を仕舞ってまいりますわ」
「ありがとう、ハンナ」
そっと囁いたばあやに、リュカはほほ笑みかえした。
まだ話し足りなそうなシエルの為に、テオにお茶を用意してもらう。いつもは文句たらたらの彼も、シエルがいるとなればテキパキと茶の手配をしてくれた。
「なあリュカ。パーティの準備はどうなってる?」
シエルがお茶を飲みながら、ワクワクした様子で訊ねる。リュカもふふ、とほほ笑む。
「みんなが助けてくれるので、順調に進んでいます」
「へえーっ、俺も見てもいい?」
「はい。どうぞお兄様」
リュカはにっこりして、さっきまで書いていたノートをシエルに渡す。シエルは、ぱっと姿勢を正し、真剣にページを繰っていた。そして、言う。
「なあなあなあ。これ、ちょっと直していいか?」
「えっ?」
リュカは、目を見ひらく。シエルはノートを開いて見せ、難しい顔をした。
「全体的に、ちょっと豪勢すぎると思う。たとえば料理、もっと量減らせないか? たいてい余らせて、もったいないだろ?」
「そ、そうなのですが……今回は立食の形式ですので。お客様をもてなすために、これくらいは必要かと……」
立食形式の料理は、会場のインテリアの一つだ。贅沢すぎても品がないが、質素すぎるのもお客様ががっかりする。執事長や料理長と何度も話し合い、決めた料理の案であるため、リュカも推す。
「うーん……俺、魔獣狩りの任務でよく民と関わるからなあ。どうにも、贅沢過ぎって言うか……遊んでる場合じゃねえよって思っちゃうんだよな。俺、もっと貴族に意識改革してほしい。だから、ルミエールが先陣を切れればいいと思うんだけど……」
「お兄様……」
物憂げにため息を吐くシエルに、リュカは胸を痛める。
(お兄様のおっしゃることは、正しい……)
アルムは現在の陛下が名君であり、治世を行っているため豊かだ。しかし、国土に発生する魔獣は、常に民の脅威であり続けている。魔獣狩りであるシエルは、彼らの痛みに近い為、心を痛めているのだろう。
(僕だって、愛しい人が魔獣の危機にさらされていると思うと……)
リュカは左肩に手を当て、シエルを見た。
「わかりました、お兄様。お志、とても立派で……僕も及ばずながら、お力になれればと思います」
「リュカ! じゃあ――」
「ですが、今回はこのままの案でいかせてください」
ぱっと表情を明るくしたシエルに、リュカは辛い気持ちで伝えた。
「な……なんで?」
「お父様から……今回は公爵家をはじめとする高名な方々や、隣国の大商人も来られると伺いました。ルミエール家の威光を傷つけないパーティをひらけと仰せつかっております」
父にパーティの準備を命じられたとき、その予算の高額なことに驚いた。でも、招待客の目録を見せられて、リュカは納得した。万一にも、お客様にルミエールはもてなしを知らないと思われては困るのだと。
シエルは、困惑気に瞳を揺らす。
「それなら、尚更じゃん! 偉い奴らがたくさん来るなら、意識改革のチャンスだろ……?ここで、ルミエールは他の貴族と違って高潔だって見せてやろうよ!」
「ごめんなさい、お兄様……僕には、一か八かは怖いです」
この発想は、貴族のなかではかなり新しい。この志が伝わればいいが、もし不敬だと取られてしまったら――結果は、考えるだに恐ろしかった。
「そんなあ……」
シエルの瞳が、自分への失望に潤むのを、リュカは悲しい思いで見つめながら、言い募った。
「お兄様のお志は、本当に素晴らしいんです。だから僕、嫁いだら……少しずつ、実践してみようと思います。友人たちの茶会からはじめて、少しずつ意識を変えていけたら……」
「もういいよ」
シエルは力なく項垂れて、リュカの言葉をとめた。華やいでいた顔は、やるせない笑みに象られていた。
「わかってる、俺が無茶言ってるんだよな。お前も、好きにパーティしたいのにな」
「お兄様、ぼく……」
「ああ、俺がパーティの采配をさせてもらえたら、ドーンとやってやるのにさっ。俺は、母上に全部仕切られちゃうからな……」
背もたれに身を投げ、シエルはため息を吐く。後継であるシエルは、パーティの差配なども母からの薫陶をうけている。リュカなどは羨ましく思うが、先進的なシエルには窮屈なのかもしれない。
(ご自分の気持ちをわかってもらえないのは、寂しいはず……)
リュカは、寂しそうな兄の横に座り、そっと手を取った。
「……お兄様、さっきのこと。僕、必ず実践いたします。いつかきっと、みんなにお兄様の気持ちが届くように」
だから、一人ではありません――。そう伝えるつもりで、リュカは握った手に力をこめた。シエルは肩を震わせ、長いこと黙っていた。
それから、ポツリと言う。
「じゃあ、さ。パーティのお客に、俺の友達も呼んでいいか。あいつらアルファだし、良い奴らだから」
「……はいっ、お兄様」
兄からの提案に、リュカは笑った。それが兄からの遠回しな”仲直り”だと、わかったからだ。
その招待客が、誰であるか。
パーティの夜に、自分にとんだ運命が喰らいついて来ることも――まだ、知らないままで。
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