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第一章 おけつの危機を回避したい
三十九話
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ひどい、ひどい。
――晴海のアホ!
おれは泣きながら、廊下を猛ダッシュした。後ろから、「シゲル!」と晴海の声が追いかけてくる。
「シゲル! 待ってくれ!」
「しらんっ! ついて来んといて!」
下校中の生徒達が、「何だなんだ」と不思議そうに振り返る。人波をぬって必死に逃げたけど、被服室に着いたところで追いつかれてしもた。
「シゲル!」
グイっと手を掴まれて、振り返らされる。涙でぐちゃぐちゃの顔に驚いたんか、晴海は目を見開いた。見られたくなくて、腕をブンブン振る。せやのに、晴海は離してくれんくて、むしろもう片っぽの腕まで掴んできた。
「やぁ、離してやっ!」
「ごめん! ごめんな、シゲル。泣かんとってくれ……!」
晴海は悲痛な声で謝ってきて、おれの肩とか腕とか、落ち着かすように撫でてくれる。――その優しさも今はイヤで、身体を揺すって避けた。
「……っ」
傷ついた顔に、胸がズキズキする。でも、何も言えんくて、俯いたまましゃくりあげとった。
晴海は、がっくりと項垂れる。
「悪かった。ああでもせんと、治まらんと思って……」
悲しそうに言われて、胸が辛くなる。おれかて、ホンマはわかってるもん。晴海が、おれのために我慢してくれたんやって。でも、でも……!
「お前の気持ち、考えてへんかった……俺とキスなんて、辛かったよな」
「――ちゃうもん!」
見当違いのことを言われて、カッとなる。
「俺とキスなんて辛い」って、何それ。おれは拳を振り上げて、晴海の胸を突いた。
「なんでそんなこと言うん!?」
「シゲルッ?」
どん、どんって何度も晴海の胸を叩く。ぼろぼろと零れる涙が、ほっぺをぐしょぐしょに濡らした。
「晴海のアホ! おれ、ファーストキスやねんでっ? 人前で、あんな……恥ずかしいに決まってるやんかっ」
「……うん」
「でも、晴海とやから! 晴海がするって言うたから、おれ、覚悟したのに! お前、せえへんかったやん!」
「えっ」
叫びすぎて、ヒック! ってでっかいしゃっくりが出る。胸が塞いで、息が苦しい。
「俺が嫌やろ」って、なんでやねん。晴海のほうが、キスすんの嫌やったくせに。
おれの覚悟は、なんやったん?!
恥ずかしくて――それより、もっと悲しくて。わんわん泣きながら、晴海の胸をポカスカ殴る。
「晴海のあほっ、へたれ!」
「ちょ……ちょっと待て!」
されるがままになっとった晴海は、急に正気付いて、おれの手首を捕まえる。
「はなせ、アホっ」
「つまり、お前……俺とキスすんのは嫌やないん?」
「えっ?」
おれは、はたと動きを止める。予想外の質問すぎて、ポカンとしてしもたん。
晴海の顔が怖いくらい真剣で、ドキッとする。
ほっぺがかあって熱うなってきて、おれはもごもごと答えた。
「お、おれは……晴海とやったら嫌ちゃうもん……やから」
「そ、そうか……」
晴海の顔も、ぱーっと赤くなる。さっきまでの辛そうな雰囲気が霧散して、どことなくウキウキした気配が漂いだす。――なんか、晴海、嬉しそうとちゃう? なんで……?
なんかようわからんけど――その顔みてたら、お腹の中がムズムズしてきてまう。照れくさいような、恥ずかしいような、不思議な気分や……。
すると、ちっとも熱がひかんほっぺに、晴海が触れてきた。
「……んっ」
「シゲル、キスしてもええ?」
「――はあっ?!」
おれは、くわっと目を見開いた。
「なんで!? い、いまはもう、必要ないやん!?」
「いや、お前を泣かせた責任がある。っつーのも建前で、俺がしたい」
「建前なんかい!」
身を引こうにも、いつのまにか腰にガッツリ腕が回っとる。やから、力が強いんやってば……! オロオロと視線をさ迷わせとったら、晴海が真剣な目で見つめてくる。
その目見てたら、さっきみたいに、身動きできんくなってまう。
「いやか?」
「……ううん」
「ほな、キスしよ?」
コツン、とオデコがぶつかる。
ほっぺを優しく撫でられて、胸がドキドキするのが止まらへん。――晴海の顔が、近づいてくる。
ええっ? ど、どうしよ、どうしてたらええの……!? おろおろしてたら、「目ぇ閉じて」って言われて、慌ててギュッと瞑る。
「は、晴海……」
「シゲル……」
唇に、吐息が触れた。
そのとき――ガラッ!! と勢いよく扉が開いた。
「有村、今井! 悪かった、つい熱くなっちまって!」
「お前らが付き合いたてなの、忘れて、た……?」
どやどやと飛び込んできた竹っち・上杉・鈴木・山田の四人は、おれらの様子を見て、カチンと固まった。
おれも晴海も固まったまま、しばし時が止まる。
で。
「お、お、お前らなあ!! 何してくれてんねん!?」
いっちゃん最初に我に返った晴海が、すごい怒鳴り声をあげた。
ぴゃーっと飛び上がった四人は、真っ赤な顔でペコペコと頭を下げる。
「す、すまん! 本当に悪かった有村!」
「悪かった、悪かったから! 泣くなよ、有村!」
「やかましいっ! もう、今度という今度はなあ……!」
ワイワイと大騒ぎするみんなを見ながら、おれはぺたんと座り込んだ。
かっかと熱を持つほっぺを押さえて、完全に我に返ってしもたんよ。
――お、おれ……みんなが来んかったら。ほんまに、晴海とキスするとこやった……!
「う、うわぁ~~!」
――晴海のアホ!
おれは泣きながら、廊下を猛ダッシュした。後ろから、「シゲル!」と晴海の声が追いかけてくる。
「シゲル! 待ってくれ!」
「しらんっ! ついて来んといて!」
下校中の生徒達が、「何だなんだ」と不思議そうに振り返る。人波をぬって必死に逃げたけど、被服室に着いたところで追いつかれてしもた。
「シゲル!」
グイっと手を掴まれて、振り返らされる。涙でぐちゃぐちゃの顔に驚いたんか、晴海は目を見開いた。見られたくなくて、腕をブンブン振る。せやのに、晴海は離してくれんくて、むしろもう片っぽの腕まで掴んできた。
「やぁ、離してやっ!」
「ごめん! ごめんな、シゲル。泣かんとってくれ……!」
晴海は悲痛な声で謝ってきて、おれの肩とか腕とか、落ち着かすように撫でてくれる。――その優しさも今はイヤで、身体を揺すって避けた。
「……っ」
傷ついた顔に、胸がズキズキする。でも、何も言えんくて、俯いたまましゃくりあげとった。
晴海は、がっくりと項垂れる。
「悪かった。ああでもせんと、治まらんと思って……」
悲しそうに言われて、胸が辛くなる。おれかて、ホンマはわかってるもん。晴海が、おれのために我慢してくれたんやって。でも、でも……!
「お前の気持ち、考えてへんかった……俺とキスなんて、辛かったよな」
「――ちゃうもん!」
見当違いのことを言われて、カッとなる。
「俺とキスなんて辛い」って、何それ。おれは拳を振り上げて、晴海の胸を突いた。
「なんでそんなこと言うん!?」
「シゲルッ?」
どん、どんって何度も晴海の胸を叩く。ぼろぼろと零れる涙が、ほっぺをぐしょぐしょに濡らした。
「晴海のアホ! おれ、ファーストキスやねんでっ? 人前で、あんな……恥ずかしいに決まってるやんかっ」
「……うん」
「でも、晴海とやから! 晴海がするって言うたから、おれ、覚悟したのに! お前、せえへんかったやん!」
「えっ」
叫びすぎて、ヒック! ってでっかいしゃっくりが出る。胸が塞いで、息が苦しい。
「俺が嫌やろ」って、なんでやねん。晴海のほうが、キスすんの嫌やったくせに。
おれの覚悟は、なんやったん?!
恥ずかしくて――それより、もっと悲しくて。わんわん泣きながら、晴海の胸をポカスカ殴る。
「晴海のあほっ、へたれ!」
「ちょ……ちょっと待て!」
されるがままになっとった晴海は、急に正気付いて、おれの手首を捕まえる。
「はなせ、アホっ」
「つまり、お前……俺とキスすんのは嫌やないん?」
「えっ?」
おれは、はたと動きを止める。予想外の質問すぎて、ポカンとしてしもたん。
晴海の顔が怖いくらい真剣で、ドキッとする。
ほっぺがかあって熱うなってきて、おれはもごもごと答えた。
「お、おれは……晴海とやったら嫌ちゃうもん……やから」
「そ、そうか……」
晴海の顔も、ぱーっと赤くなる。さっきまでの辛そうな雰囲気が霧散して、どことなくウキウキした気配が漂いだす。――なんか、晴海、嬉しそうとちゃう? なんで……?
なんかようわからんけど――その顔みてたら、お腹の中がムズムズしてきてまう。照れくさいような、恥ずかしいような、不思議な気分や……。
すると、ちっとも熱がひかんほっぺに、晴海が触れてきた。
「……んっ」
「シゲル、キスしてもええ?」
「――はあっ?!」
おれは、くわっと目を見開いた。
「なんで!? い、いまはもう、必要ないやん!?」
「いや、お前を泣かせた責任がある。っつーのも建前で、俺がしたい」
「建前なんかい!」
身を引こうにも、いつのまにか腰にガッツリ腕が回っとる。やから、力が強いんやってば……! オロオロと視線をさ迷わせとったら、晴海が真剣な目で見つめてくる。
その目見てたら、さっきみたいに、身動きできんくなってまう。
「いやか?」
「……ううん」
「ほな、キスしよ?」
コツン、とオデコがぶつかる。
ほっぺを優しく撫でられて、胸がドキドキするのが止まらへん。――晴海の顔が、近づいてくる。
ええっ? ど、どうしよ、どうしてたらええの……!? おろおろしてたら、「目ぇ閉じて」って言われて、慌ててギュッと瞑る。
「は、晴海……」
「シゲル……」
唇に、吐息が触れた。
そのとき――ガラッ!! と勢いよく扉が開いた。
「有村、今井! 悪かった、つい熱くなっちまって!」
「お前らが付き合いたてなの、忘れて、た……?」
どやどやと飛び込んできた竹っち・上杉・鈴木・山田の四人は、おれらの様子を見て、カチンと固まった。
おれも晴海も固まったまま、しばし時が止まる。
で。
「お、お、お前らなあ!! 何してくれてんねん!?」
いっちゃん最初に我に返った晴海が、すごい怒鳴り声をあげた。
ぴゃーっと飛び上がった四人は、真っ赤な顔でペコペコと頭を下げる。
「す、すまん! 本当に悪かった有村!」
「悪かった、悪かったから! 泣くなよ、有村!」
「やかましいっ! もう、今度という今度はなあ……!」
ワイワイと大騒ぎするみんなを見ながら、おれはぺたんと座り込んだ。
かっかと熱を持つほっぺを押さえて、完全に我に返ってしもたんよ。
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