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第一章 おけつの危機を回避したい
四十話
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「おーい、白の絵の具どこよー?」
「悪い、ちょっと借りてるー」
早朝の教室は、賑やかな声であふれとる。
朝の学祭準備は自由参加なんやけど。もう、学祭まで間もないし、クラス皆が参加しとるみたいやった。
「上杉、こっちにあるから投げるぞ」
「サンキュー」
クラスメイトが、絵の具のチューブをぽーんと投げてよこす。軽々キャッチした上杉は、笑って片手を上げた。
「さー、どんどん塗っちまおうぜ!」
「おう!」
上杉の檄に、おれらも笑顔で筆を掲げた。
ほんで、床に敷き詰めた新聞の上に座って、プラカードにせっせと色を塗る。
そう。
おれらも、準備に参加できるようになってん!
って言うのも昨日、教室に帰ったらな……
「今井、お前って超ウブだったんだな! あれじゃ、レンの奴とは絶対無理だって納得したぜ。なんか、ゴメンな? 知らずにいじめちゃってさ!」
待ち構えてた愛野くんが、両手を合わせて謝ってきてん。
予想外すぎて、おれらはポカンとしてしもた。
愛野くんに続いて、どやどやと他のクラスメイトも謝ってくれたんよ。何故か、「これからも仲良くな」って激励が一番多くて、おれも晴海も真っ赤になってしもた。
ほんで、おれらも「わかってくれたんやったらええよ」って言うたんよな。
藤崎も、愛野くんに促されて渋々ながら謝ってくれた。思うとこ、ないわけやないけど。謝ってくれたから、まあよしとしよってことになった。
ともかく、そういう流れで。
めでたく、今日から準備に復帰してるねん。
「やっぱ、参加できねーと楽しくないよな」
竹っちが嬉しそうに、パレットに色を絞り出す。「違いない」と答えた山田に、鈴木が問いかけた。
「そういやさ。大橋と桃園とは話したのか?」
「ああ。一応、仲直りはしたっぽいんだけどさ。でも俺、こっちいたいから居ていい?」
「お、そうか?」
「俺らは、山田いて楽しいからいいよ」
「へへ、サンキュ!」
山田はからっと笑う。みんな、その肩をポンポンと順繰りに叩いた。――やっぱり、いっぺんグループを抜けるとかなったら、そう直ぐには気持ちがついていかんよね。
山田は楽しくて、ええ奴や。みんな、とっくに仲間やと思っとるから、居てくれるのはめっちゃ嬉しいよ。
――やからこそ、仲間のために出来ることがあるなら、力になりたい。
おれらは、密かに顔を見合わせて、頷きあった。
「あっ、今井。そこもうちょっと赤っぽくして」
「はーい。わかった~」
おれは、パレットのピンクに赤を足すべく、絵の具のチューブを探した。すると、ちょうど晴海の前に転がってる。
「よいっしょ」
「これか?」
赤の絵の具に伸ばしたおれの手に、取ってくれようとした晴海の手が重なった。
「あっ……!」
「っ、悪い!」
おれと晴海は、弾かれたように手を離した。
かああっ、とほっぺに血が上る。
「あ、いや。おれこそ……っ」
触れた手を、もう一方の手で包みながら、わたわたと後退る。そしたら、踏みつけた新聞紙がよれて、バランスを崩した。
「ひえっ!」
さあっと血の気が引く。
「い、今井ー!」
皆の叫ぶのが聞こえた。しかし、おれは為すすべもなく、パレットの上に倒れかかった。
もうあかん――そう思ったとき、ぎゅっと体を抱きとめられた。せっけんの匂いがして、パチリと目をあける。
「シゲル、大丈夫か?」
晴海が、心配そうに覗き込んどった。土壇場で、おれを抱きとめてくれたみたいや。
胸が、ドキンと高鳴る。
「う、うん……」
「そうか。よかった」
「ナイスキャッチ、有村!」
ホッと息を吐いた晴海を、上杉が明るい声でからかった。
おれは、ドキドキしながら忙しく息を吐いた。――あかん、胸が苦しい。よっぽど怖かったんやろか……?
胸を撫でてたら、晴海が顔を覗き込んでくる。
「どした?」
「ううん、なんも……っ?」
慌てて身動いでから、おけつの違和感にきづく。
は、晴海の両手が、おけつを鷲掴みにしとる……!?
気づいた途端、かああっ、と全身が火を点けられたみたいに、熱くなった。
「は、は、晴海のドすけべッ!」
「あだっ!?」
ばちん! と胸を叩いたら、晴海は目をまん丸にした。
それから、やっと自分が握っとったんが"何か"に気づいて、顔を真っ赤にする。
「わ、悪い! 咄嗟に掴んでしもたんや」
「しらん、アホっ」
「シゲル~」
そっぽを向くと、晴海が慌てて追っかけてくる。
鈴木が、呆れ顔で言うた。
「どうしたよ。ケツもんだりとか、今まで普通にしてたじゃん」
「……っそれは、そうやけどっ」
痛いところをつかれて、うッとつまる。
――でも、なんか前と違って、恥ずかしいんやもん……!
おれ、昨日から変なんや。
晴海とキスしそうやった、て思ったら……。しても良かった、て思ったら。
なんか、晴海とどう接したらええか、わからんくなってきて。
晴海も同じみたいで、何となくぎこちないし。
おれら、どうなっちゃったん?
「悪い、ちょっと借りてるー」
早朝の教室は、賑やかな声であふれとる。
朝の学祭準備は自由参加なんやけど。もう、学祭まで間もないし、クラス皆が参加しとるみたいやった。
「上杉、こっちにあるから投げるぞ」
「サンキュー」
クラスメイトが、絵の具のチューブをぽーんと投げてよこす。軽々キャッチした上杉は、笑って片手を上げた。
「さー、どんどん塗っちまおうぜ!」
「おう!」
上杉の檄に、おれらも笑顔で筆を掲げた。
ほんで、床に敷き詰めた新聞の上に座って、プラカードにせっせと色を塗る。
そう。
おれらも、準備に参加できるようになってん!
って言うのも昨日、教室に帰ったらな……
「今井、お前って超ウブだったんだな! あれじゃ、レンの奴とは絶対無理だって納得したぜ。なんか、ゴメンな? 知らずにいじめちゃってさ!」
待ち構えてた愛野くんが、両手を合わせて謝ってきてん。
予想外すぎて、おれらはポカンとしてしもた。
愛野くんに続いて、どやどやと他のクラスメイトも謝ってくれたんよ。何故か、「これからも仲良くな」って激励が一番多くて、おれも晴海も真っ赤になってしもた。
ほんで、おれらも「わかってくれたんやったらええよ」って言うたんよな。
藤崎も、愛野くんに促されて渋々ながら謝ってくれた。思うとこ、ないわけやないけど。謝ってくれたから、まあよしとしよってことになった。
ともかく、そういう流れで。
めでたく、今日から準備に復帰してるねん。
「やっぱ、参加できねーと楽しくないよな」
竹っちが嬉しそうに、パレットに色を絞り出す。「違いない」と答えた山田に、鈴木が問いかけた。
「そういやさ。大橋と桃園とは話したのか?」
「ああ。一応、仲直りはしたっぽいんだけどさ。でも俺、こっちいたいから居ていい?」
「お、そうか?」
「俺らは、山田いて楽しいからいいよ」
「へへ、サンキュ!」
山田はからっと笑う。みんな、その肩をポンポンと順繰りに叩いた。――やっぱり、いっぺんグループを抜けるとかなったら、そう直ぐには気持ちがついていかんよね。
山田は楽しくて、ええ奴や。みんな、とっくに仲間やと思っとるから、居てくれるのはめっちゃ嬉しいよ。
――やからこそ、仲間のために出来ることがあるなら、力になりたい。
おれらは、密かに顔を見合わせて、頷きあった。
「あっ、今井。そこもうちょっと赤っぽくして」
「はーい。わかった~」
おれは、パレットのピンクに赤を足すべく、絵の具のチューブを探した。すると、ちょうど晴海の前に転がってる。
「よいっしょ」
「これか?」
赤の絵の具に伸ばしたおれの手に、取ってくれようとした晴海の手が重なった。
「あっ……!」
「っ、悪い!」
おれと晴海は、弾かれたように手を離した。
かああっ、とほっぺに血が上る。
「あ、いや。おれこそ……っ」
触れた手を、もう一方の手で包みながら、わたわたと後退る。そしたら、踏みつけた新聞紙がよれて、バランスを崩した。
「ひえっ!」
さあっと血の気が引く。
「い、今井ー!」
皆の叫ぶのが聞こえた。しかし、おれは為すすべもなく、パレットの上に倒れかかった。
もうあかん――そう思ったとき、ぎゅっと体を抱きとめられた。せっけんの匂いがして、パチリと目をあける。
「シゲル、大丈夫か?」
晴海が、心配そうに覗き込んどった。土壇場で、おれを抱きとめてくれたみたいや。
胸が、ドキンと高鳴る。
「う、うん……」
「そうか。よかった」
「ナイスキャッチ、有村!」
ホッと息を吐いた晴海を、上杉が明るい声でからかった。
おれは、ドキドキしながら忙しく息を吐いた。――あかん、胸が苦しい。よっぽど怖かったんやろか……?
胸を撫でてたら、晴海が顔を覗き込んでくる。
「どした?」
「ううん、なんも……っ?」
慌てて身動いでから、おけつの違和感にきづく。
は、晴海の両手が、おけつを鷲掴みにしとる……!?
気づいた途端、かああっ、と全身が火を点けられたみたいに、熱くなった。
「は、は、晴海のドすけべッ!」
「あだっ!?」
ばちん! と胸を叩いたら、晴海は目をまん丸にした。
それから、やっと自分が握っとったんが"何か"に気づいて、顔を真っ赤にする。
「わ、悪い! 咄嗟に掴んでしもたんや」
「しらん、アホっ」
「シゲル~」
そっぽを向くと、晴海が慌てて追っかけてくる。
鈴木が、呆れ顔で言うた。
「どうしたよ。ケツもんだりとか、今まで普通にしてたじゃん」
「……っそれは、そうやけどっ」
痛いところをつかれて、うッとつまる。
――でも、なんか前と違って、恥ずかしいんやもん……!
おれ、昨日から変なんや。
晴海とキスしそうやった、て思ったら……。しても良かった、て思ったら。
なんか、晴海とどう接したらええか、わからんくなってきて。
晴海も同じみたいで、何となくぎこちないし。
おれら、どうなっちゃったん?
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