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第一章 おけつの危機を回避したい

四十九話

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 そういえば、朝に届くよって姉やん言ってたっけ!
 晴海、朝から寮監さんとこ行ってきてくれたんやなあ。
 
「ありがとーな、晴海」
「ええて。早速、開けてみるか?」
「うんっ」
 
 晴海が小包の封を切ると、中にはもう一回り小さい箱が入っとった。開けてみると、細長い袋に入った筒状のもんが、十個くらい入っとる。
 一つ持ってみた感じ、軽い。お高いポッキーか、シャーペンみたいな持ち心地や。
 試しに一袋開けてみたら、中から白い棒状の筒が出てきた。――わりと長さがある。中指くらいの太さで、表面はつるつるなめらか。注射器みたいなピストンがついとるけど、先っちょに針はなくて、むしろまん丸い。
 おれらは薬を眺めて、首を傾げる。
 
「……なんか、思ってたんとちゃうな。解毒薬って言うと、錠剤とか水薬とかやと」
「おう、俺も。たぶんやけど……このキャップとってピストン押したら、中から薬出てくるんちゃうか?」
「ほうほう。普通に飲んだらええんかな?」
「待て。注射の形やし。インフルエンザの薬みたいに鼻からいくんちゃうか」
「いやぁ、裂けちゃうて!」
 
 ひとしきり、ああでもないこうでもないと言い合ってから、姉やんに電話することにした。超・夜型の姉やんが出てくれるか微妙やったけど、ワンコールで出てくれた。今まで、スプラトゥーンして起きてたんやって。
 
『あ、薬届いた? よかったわー!』

 寝てへんせいか、姉やんは些かハイやった。

「うん、ありがとう。ほんで、悪いんやけどさ。これどういう使い方するもんなん? 鼻の穴から突っ込むん?」
『馬鹿ねぇ! んなわけないでしょうが』
 
 恐る恐る聞いたら、軽く笑い飛ばされてホッとした。
 
「そうやんなっ。じゃあ、どうやって」
『それは、肛門にブスッと突っ込んで使うの』
「――肛門っ!?」
 
 俺と晴海は、ぎょっとして叫んだ。姉やんは嬉しそうに説明を続ける。
 
『解毒剤つったでしょ? つまりそれ、ケツ穴に盛られた媚薬を中和する薬なのよね。だから、その筒の中に入ってる解毒ジェルを、直腸に注入する必要があるわけ。使い方は簡単、先端のキャップを外して、肛門にゆっくり挿入したらピストンを押し込むだけ――』
「ちょっ……この棒をおけつに入れんの?! 痛いんちゃうん?」
『何よ、そんくらい。人参とかチンポより、全然細いでしょうが』
「チ……!?」
 
 あけすけな言葉に絶句しとったら、姉やんが画面に向かって指を突きつけてくる。
 
『言っとくけど、あの媚薬ローションは普通なら、精液でしか中和されないんだからね。精液をいれるまで疼き続けて、最終的には脳ミソがイカれちゃうんだから! わかる? 使われたが最後、チンポを突っ込まれるしか助かる道がないのよ?! それをこの天才な姉がいるおかげで、処女を失わずに済むんだから。もっと感謝しなさいよね』
「ひ……ひええ」
 
 余りの恐ろしさに、青ざめる。榊原の奴、なんてもんを作り出しとるんや。悪魔や!
 些か顔色を悪くした晴海が、スマホに向かって頭を深く下げる。
 
「お姉さん、本当にありがとうございます。このご恩は忘れません!」
「は、晴海……姉やん、おれのためにありがとうな。大好きやで」
 
 真摯なお礼に、おれもハッとする。並んで、深々と頭を下げた。すると、姉やんは「ふへっ」と不思議な息を吐いた後、照れ臭そうに笑った。
 
『ま、まあ。晴海くんには、こちらこそありがとうだし? シゲル、あんたはね、詳しい使い方を箱の中に取説をいれたから。ちゃんと読んでおくこと』
「わかった!」
 
 敬礼すると、姉やんは「もう寝るから」と言って、通話を切ってしもた。照れ屋さんやねんかなあ。また帰るとき、おいしいミカン持ってくから、楽しみにしとってな。
 へらへらしながらスマホを抱いとったら、晴海が取り扱い説明書を読んでた。
 
「シゲル。これ、常温で保管しといてええみたいやで。保険として、お互いに一個ずつ持ち歩いとこか」
「あっ、そうやね。晴海も持っててくれるん?」
「お前が手ぶらのときも、あるかもやん。まあ、何もないのが一番なんやけどな。「備えあれば患いなし」言うし、一応持っといて損はないやろ。……とりあえず二本、持ち歩く分と。あとは、被服室にも隠しとくか」
「うん、そうする!」
 
 一本受けとって、おれは鞄に入れることにした。ポケットにぎりぎり入らんこともないけど、何かの拍子に折れたりしたらあかんからね。
 着々と、おけつ破壊の回避のために、準備ができてる気がして嬉しい。

「晴海、ありがとうな」
「何やねん、改まって。ええて」

 ニッと笑った晴海に、肩を抱かれる。ふわっとほっぺが熱くなって、おれははにかんだ。
 知らず俯くと、スマホのランプが点灯しとるんに気づいた。

「……あれ? スマホにメッセージ来とる。竹っちからや!」
 
 おれは、自分のことで手いっぱいやったから。
 大事なことを見過ごしてることに、気づかへんかった。
 ほんまに、ちっとも。
 
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