エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

五十三話

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「恩人って、どういうこと?」
 
 自慢やないけど、これまでの人生で晴海に助けられたことはあれ、その逆はあんま無いような。……すると晴海は、ちょっと遠くを見るような目をして、話し出した。
 
「俺、小六まで空手やっとったやろ?」
「うん、そうやね」
「初めて言うねんけどな。俺、空手は親に言われてやってただけで、あんまり好きやなかってん」
「え!?」
 
 ぎょっとする。
 ホンマに初耳……というか、思いもせんかったぞ。だって、晴海はいっつも一生懸命練習してたし、試合でもめっちゃ強かったから。
 驚いとるおれに、晴海は眉を下げる。
 
「ごめんな、シゲル。お前もずっと応援してくれてたのに。がっかりしたか?」
「そんなわけないやんっ! おれこそごめんな。晴海、辛かったのに全然気づかんくて……」
 
 慌てて、首をブンブン振る。
 がっかりなんてするわけない! むしろ、晴海がしんどいことも知らんと、「がんばれ~」て応援に行ってた自分が恥ずかしいわ。
 ずーんと落ち込んどったら、ぽんぽんと頭を撫でられた。
 
「謝らんといてくれ。お前が応援に来てくれるから、「頑張ろう」て思えたんや。ただ、がっかりされへんかな、とだけ気になっててなあ……はは、長年のつかえが取れたわ」
「晴海ぃ……」
 
 すっきりした笑顔を向けられて、胸が熱くなる。
 優しすぎるで。おれが鈍感なせいで、ずっと苦しかったはずやのに――
 
「話し戻すで。小六のとき、試合前に腕の骨折った事あったやろ? 親父とお袋がブチギレて、ギブス嵌めて試合出たわけなんやけど」
「覚えてるよ。酷い怪我やのに試合出る言うから、びっくりしたんやで」
「はは。お前、ずっと泣きながら「頑張れ」て言うてくれたなあ」
「もう! おれあんなん嫌やからっ」
 
 ふい、とそっぽを向いたら、晴海が「ごめんなあ」て笑う。
 でもな……晴海を凄い奴やと思ったんも、ほんとやで。怪我の理由から、晴海らしくてな。一年生が、木から下りれんくなってんの助けて骨折れたんよ。
 けど、確か――その大会を最後に、晴海は空手をやめたんよな。
 そう聞いたら、晴海は「あん時に目が覚めたんや」て頷いた。
 
「試合の後、親父に「情けない試合しやがって、やめちまえ!」て殴られてなあ。こちとら腕折れてんのに優勝したんやから、「お疲れ」くらいは言うてくれると思ってたんよ。流石にむかついて、「じゃあ、やめたらあ!」て売り言葉に買い言葉さ」
「そうやったん……」
「そしたら、親父もお袋もブチギレるやん。親父は全力グーパンかまして「お前みたいな性根の腐ったやつ、息子じゃねえ!」って怒鳴りよんの。「いくら親でも許さん」てゲンコ握ったときに、お前が「晴海~!」て飛んできて」
「えっ」
 
 目をまん丸にするおれを、晴海は目を細めて見た。
 
「わんわん泣きながら、俺の首っ玉に抱きついてな。「晴海は腐ってへん、酷いこと言うな!」て庇ってくれたんや。親父に怒鳴られても、ずっと抱きしめてくれてたやろ。……俺には味方がおるって、めっちゃ嬉しかった」
「晴海……」
 
 おれは思わず、晴海の手を握った。すぐにぎゅっと握り返されて、胸が詰まる。
――せやった。お祝い言いに行ったら、晴海が酷いこと言われてて、びっくりして。……でも、おれは泣くだけで、何も出来ひんかったから。
 そんな風に思ってくれてたなんて、知らんかった。
 
「俺の親な、学生時代に空手頑張ってたらしくて、子供に「その夢をつがそう」て、思ってたんやて。まあ、親が喜ぶならええかと思ったけど、俺の人生は俺のもんやん?」
「うん。晴海のもんやよ!」
 
 力をこめて頷くと、晴海は笑う。
 
「ありがとう。あの時、お前が守ってくれたから……俺は親を責めずに済んだ。言うなりになっとらんと、ちゃんとぶつかろうと思えたんや」
「そう、なん?」
「おう。おかげで、今は普通に話せとる。俺の夢も、応援してもろてるし。喧嘩して見切りつけんで良かったと、心から思っとるよ。シゲルは――俺の恩人なんや」
「晴海……」
「やから、俺もお前を守りたい」
 
 息を呑んだ。
 晴海の目が、この上なく優しくて。包み込むみたいな光が、わーっと放射されてきて……じっと見てるうちに、胸が苦しなってくる。
 鼻の奥がツンと痛んで、すぐに涙が溢れてきた。
 
「はるみぃ……!」
 
 勿体ないよ。
 だって――そんな風に言ってもらうなんて。おれ、何も出来てへん。ぜんぶ、晴海が頑張ったからやんか。
 何も出来ひんおれなんかが、そんな……お前に大切にされてもええん?
 
「ふぐぅ、うえっ」
「シゲルは泣き虫やなあ」
 
 晴海は呆れながら、優しい手付きでほっぺを拭ってくれる。――もう、堪らんかった。
 おれは、晴海に飛びつくみたいに抱きつく。
 
「晴海っ……おれ、晴海のこと大好きやっ」
「うん。俺もやで」
 
 ぽろっと口から転がりでた言葉に、晴海も返してくれる。背中をトントン、て優しく叩かれて、余計に泣けてきた。
 でも、なんでやろ。胸がぎゅーってして痛いのに、なんか幸せやねん。
 
「あのな、花火楽しみにしてるからっ。絶対、一緒にいてな?」
「おう。お祝いも兼ねて、ぱあっとやろうや」
「うん、うん……!」
 
 なんどもなんども頷いて、おれは晴海の肩にほっぺを埋めた。

「シゲル……」
 
 ふいに、ほっぺに手がかかって仰向かされる。面映ゆそうな顔の晴海と、目が合った。
 
――そのとき。
 
 タラランタラランと間抜けな着信音が、鳴り響いた。
 おれらは、お互いに茹でられたみたいな顔のまま、慌てて体を離す。
 
「あっ、あわわ! で、電話や!」
「そそそうやな!」
 
 危なかった。なんか、また変な感じになってたで……! おれは大慌てでスマホを掴み、窓際に寄る。液晶を見れば、着信相手は竹っちや。呼吸を整えて受話器を上げる。
 
「も、もしもし。竹っち、どしたん? …………えっ?」
 
 S・Yに、振られた……!?

 
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