エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

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第一章 おけつの危機を回避したい

五十五話

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『何ですって!? 竹っちくんが化学教師と!?』
 
 姉やんは、電話口で叫んだ。画面越しにもわかるほど、顔が青くなっとる。
 負けず劣らず青ざめた顔で、晴海が問う。
 
「やっぱり、お姉さんの反応から見ても……これは、ゲームでは無かったことですよね?」
『ええ! 悪役モブの友達が化学教師に接触するなんて、ありえない。一体、何が起こってるのよ……?!』
 
 今は、帰寮しておれらの部屋におる。竹っちは、上杉らが「鍋しようぜ」って、一緒にいてくれてるから、その間に姉やんに電話してるねん。
 あの後、すぐに晴海に相談したんや。榊原と竹っちが抱き合ってたこと、竹っちから聞いてた”好きな人”の特徴と榊原が一致してること……そしたら、「兎も角すぐにお姉さんに言おう」ってことになって。
 そんで、最近の竹っちの様子とか、色々全部話したんやけれど――
 
「姉やん、どうしよう。まさか竹っちが、榊原と仲良くなるなんて。あんなヤバい奴、竹っちに相応しくないよ……!」

 竹っちは、真剣に恋してる。でも……榊原なんか、絶対あかんって!

『シゲル、気づかなかったの? 話し聞いてたんでしょ?』
「うっ……!」
 
 ぐさ、と姉やんの言葉が胸に刺さる。確かに、ずっと話し聞いてたのに、なんで気づかへんかったんやろう。
 すると晴海が、悔やむように言う。
 
「それやったら、俺もです。竹っちが、理科棟で誰かと会っとるん知ってたのに、わざと触れんようにしてました」
「ちゃうよ、晴海! おれの為やんか……!」
 
 ぎょっとして、腕を掴む。晴海は、イベントが起こらへんようにって。おれを、榊原に近づけへんようにしてくれてたんやもん。
 すると、姉やんが低く唸った。
 
『ごめん、ちょっと想定外で、動転しちゃって。恐らく、物語を歪ませたことによる、弊害だと思うけど……竹っちくんと化学教師を絡ませて、何がしたいの?』
 
 姉やんは、頭をわしわしと掻きまわす。

「ちょっと待ってください。竹っちが、ゲームに巻き込まれたかもしれんってことですか?」
『可能性が高いわ。でも、その理由がわかんないの。くっ、また展開が読めなくなってきた……!』
「えっ、ちょっ。ゲームのこともやけど。竹っちの目を覚まさすのは、どうしたら」

 会議が踊ってきたとき、ガチャリと戸が開いた。鈴木と竹っちが部屋に入ってくる。

「おーい、もうじき鍋煮えるぞって、上杉が」
「あっ、わあ! ありがとう」
「悪い、通話中だった? じゃ、来いよな」
 
 二人は、そそくさと部屋を出ていった。……危なかった。聞かれてへんかったかな。
 晴海と顔見合わせてたら、姉やんが目ん玉かっぴらいとる。

「どしたん、姉やん」
『あ……さ、さっきの茶髪の方、竹っちくん? 前と雰囲気違わない?』
「ああ、イメチェンしたんやで。好きな人が出来たから、お似合いになりたいって……」

 しんみりと伝えると、姉やんは電流を食らったように震えた。

『そうか、わかったわ狙いが……! 竹っちくんは、「シゲル」なのよ!』
 
 姉やんは叫んだ。 
 
『そうよ、思い返せば、会計の時も、榊原の時も……竹っちくんは殆どのイベントに絡んでる。いつだって、運命の入れ替わりは可能だったのよ!』
 
 晴海はぎょっとしてスマホを掴み上げる。
 
「どういうことですか!?」
『強制力のこと、覚えてる? 私は今まで、ゲームの強制力で、化学教師と無理に接触させられると思ってたのよ。でも、ゲームからすれば、会計ルートのイベントさえ起こせれば、なんでもよかったんだわ。だから、強制力で……竹っちくんを「シゲル」に仕立て上げたのよ』
「竹っちが……おれに?」
 
 呆然と問い返す。まさか、そんなことがありえるん?
 
『竹っちくんは、シゲルのグループにいるでしょ。一緒になって愛野くんと反目し、会計や化学教師とも接触してる。「シゲル」の代理として、うってつけの人材だわ。……実は少しおかしいと思ってたの。最終のエロイベントに「シゲル」は装置として不可欠。なのに、ゲーム側からの動きが無さすぎるって。竹っちくんに標的が変わってたなら、説明がつく』
「しかし、そんな簡単にキャラクターの立ち位置が変わるもんなんですか?」
 
 晴海が怪訝そうに首を捻る。
 
『キャラって言っても、モブだもの。さっきの竹っちくん、遠目に見てシゲルに似てなくもないし……スチルに出てくる「人参を突っ込まれた茶髪モブ」の絵面が守られるなら、アリなんじゃない?』
「そ、そんなずさんな……!」
 
 おれは愕然とした。
 そんなガバガバの設定で、おれはおけつを破壊される運命にあったんか? 人の尊厳を何と思ってるんや、と制作者に怒りが湧く。
 ゲームからするとモブかもしれへんけど、おれにも竹っちにも、それぞれの人生があるんやから! このおけつがあかんから、あのおけつって、そんな簡単に考えんで欲しい。
 悔しさを逃すように息を吐いて――ふと思い至り、叫んだ。
 
「姉やん! おれの代わりって言うたよな! じゃあ、竹っちが酷い目に遭わされるってこと?!」
『……シゲルの運命を肩代わりしたなら……そうなると思う』
「そんな……!」
 
 竹っちが、おれのせいで――グラリ、と目の前の景色が揺らいだ。
 と、力一杯肩を抱かれる。ハッとして顔をあげれば、晴海の怖いくらい真剣な横顔がある。
 
「お姉さん! 竹っちが助かる方法はないんですか」
 
 力強い問いかけに、おれだけやなく姉やんも息を飲む。
 そうや。
 今は、まだショックを受けるところや無い。何ができるか、考えるんや! おれがフラグ回避したことで、巻き込んでしもた竹っち――おれが助けんで何とする!
 肩に回された手を、ギュッと握りしめた。
 
「姉やん! おれ、竹っちを助けたい。どうしたらええ?!」
『シゲル……晴海くん。そうね、まだ終わったわけじゃないわ! とにかく、学祭が終わるまで、竹っちくんを一人にしないこと……竹っちくんが変態の手に落ちなきゃ、薬漬けにされようもないわ。それさえ防げば、イベントが起きることは不可能になるはず』
「わかった!」
 
 おれと晴海は力強く頷く。
 
『でも、無茶しないで。物語を完遂するために、向こうも無茶してくるはずだから。くれぐれも、危険な目に遭わないように』
「うん、大丈夫。姉やん、ありがとう!」
 
 激励に微笑んで、通話を切る。
 晴海を振り返ると、二ッと頼もしい笑みを浮かべ――拳を差し出される。
 
「シゲル、大丈夫や。竹っちは必ず助かる」
「晴海……うん!」
 
 おれも笑って、拳をぶつけた。
 竹っち。必ず、助けるからな……!
 
 
 
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