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第一章 おけつの危機を回避したい
五十七話 十一月十二日(十七時十二分)加筆完了しました!
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「びっくりしたぁ! 何、それ?」
「今井くんこそ、よく気づいたね。面影残ってる?」
「いやもう、声だけ。声しかヒントない」
クオリティ高すぎて、おしっこちびるかと思ったんやから!
そう訴えると、ペニーワイズは可憐な笑みを浮かべて、道化服をつまんだ。
「よかった。同好会のみんなで、ホラー映画上映会してるんだ。キャストから雰囲気出した方が楽しいでしょ?」
「ほええ……めちゃめちゃ怖そう……」
すげぇ。
聞くところによると、猫耳とか吸血鬼とか美しめなんは無しって縛りなんやって。真柴くんなんか、全身キングコング(ホラーかな?)らしいよ。めっちゃ見てみたいんやが。
「でも、あんまり名前呼ばないでね。イメージ崩したくないから」
「わかった! 役作りやね」
「ふふ。そういう事にしとこうかな」
優姫くんは、コロコロと笑う。可愛い。ペニーワイズであっても、可愛さって伝わるんやね。
「今はね、上映中で手が空いてるから食べ物買いに来たんだ。ハットク、プレーンの四つ貰える?」
「わあ、ありがとう!」
おれはいったんオーダーを通しに、列を離れた。中では、みんな変わらず忙しそうに働いとった。竹っちも活き活きとお盆を四つ抱えて走り回ってて、ホッとする。
「ハットク四つ、おまたせしましたっ」
「……! ありがとう」
あつあつのハットクを持って、廊下に戻る。優姫くんは、廊下の窓から中を覗いてたみたいや。
「どうしたん?」
「ううん。――トリックアート、すごい迫力だね。皆に渡したら、また改めて見に来るよ」
「わー、ありがとう! ぜひ来てなっ」
「今井くんも、良かったら来てね。皆も会いたがってるし。午後は、爆笑サメ映画だから怖くないよ」
「うん! 友達と遊びに行くわー!」
優姫くんは、ニコニコと手を振って去って行った。
爆笑映画かあ。きっと皆好きなやつやし、話してみよっと。
「――ねえ、大丈夫? 元気だしなよ」
「うん……」
テーブルを片しとったら、後ろの生徒達の会話が聞こえてきた。二人組の可愛い感じの男の子が、しょんぼりと話し込んでる。
「榊原先生、急にお休みなんて酷いよね。一緒に花火見てくれるって、言ったんでしょ?」
「言わないで。ご家庭の事情だから仕方ないよ……」
――榊原!
おれは、二人の会話にハッとする。
そう言えば、姉やんが言ってた!
「榊原はね、学祭当日休みなのよ。だから、その日誰も行方を知らなくて。いきなりニューッ! と現れて、愛野くんを攫っちゃうわけ。それで会計も探すのに苦労したみたいよ」
榊原が休みって言う事は、今日もゲーム通りに話が進んどるっていう事か……。おれは、ごくりと生唾を飲んだ。
「そうや、薬! やっぱ鞄やなくて、ポケットに入れとこう」
何もないのが一番やけど、手元にあった方が安心する。竹っちが調理スペースにいるのを確認すると、ロッカーに鞄を取りに行く。
「ええと……一番奥にしまったんや……あ、これこれ!」
鞄の奥から、薬の入った袋を引っ張り出す。
長さがあるから、学ランのポケットにいれよう……ファスナーを下ろしてたら、どんっと背中に衝撃が。
「うわあ!」
「ふぎゃ!」
思いきりつんのめって、顔からロッカーに突っ込む。――痛あ!
涙目で振り返ると、愛野くんが尻もちをついとった。その足元に、おれの薬が転がっとる。
「悪い悪い、前見てなかった! あっ、これ今井の?」
「あっ」
拾おうと屈んだ目の前で、小さい手が薬を拾いあげた。
そして、まじまじと薬を見た愛野くんの顔が、一気に茹で上がる。
「お、お前! 皆が頑張って働いてるときに、何持ってるんだよ!」
「へ?」
何のこと?
きょとんとしとったら、愛野くんは小声で衝撃的なことを叫んだ。
「これ、ビデってやつじゃん! エッチの後に使うやつだろ!? レンが言ってた!」
「は、はああ!? 違うし!」
何言うてんねんこの人!
とんでもない誤解に度肝を抜かれる。すると愛野くんは、ぷんぷんしながらエプロンドレスのポケットに薬をしまい込んだ。
突然の暴挙に、おれは猛抗議する。
「ちょっ、返してや! 拾って懐にって、山賊かっ」
「没収だっての! 夕方返すし。いまエッチする気無いなら、別に必要ないだろ!?」
「だから、そういうん違うんやってば! 大事なもんやから、返してッ!」
「だーめーだ!」
追いすがるおれを鼻であしらい、愛野くんは接客に戻ってまう。うそ、おれの薬……!
「愛野くんってば!」
肩を掴もうと、お客さんをかき分けて必死に手を伸ばす。
ほしたら、その手をパッと掴まれて瞠目する。
「どうしたんや、シゲル」
「晴海……!?」
いつの間に戻って来たんか、晴海が目をまん丸にしとった。
「はるみ~!」
「うお!?」
わあんと泣きつくと、晴海はぎょっとしつつ背中を擦ってくれた。
どうしよう、大事な薬やのに無くなってしもた。
息も絶え絶えに説明すると、晴海は神妙に頷いた。
「……それは不安やったなあ。でも、大丈夫やで」
「うう、でもっ」
「まあ落ち着き。まず俺も薬は持ち歩いとる。それに……さっき、客引きのついでに被服室も見てきたんや。ちゃんと薬あったし、鍵もかけてきたからな。後で取りに行ったらええよ。なっ」
丁寧に「大丈夫や」て説いてくれて、気持ちが落ち着いてくる。
そうやんな。おれは動転したら、余計失敗するんやから……!
「ありがとう、晴海。わかった!」
「うん。よし、皆のとこ行こか!」
薬のことはひとまず置いといて、おれは涙を拭った。
「今井くんこそ、よく気づいたね。面影残ってる?」
「いやもう、声だけ。声しかヒントない」
クオリティ高すぎて、おしっこちびるかと思ったんやから!
そう訴えると、ペニーワイズは可憐な笑みを浮かべて、道化服をつまんだ。
「よかった。同好会のみんなで、ホラー映画上映会してるんだ。キャストから雰囲気出した方が楽しいでしょ?」
「ほええ……めちゃめちゃ怖そう……」
すげぇ。
聞くところによると、猫耳とか吸血鬼とか美しめなんは無しって縛りなんやって。真柴くんなんか、全身キングコング(ホラーかな?)らしいよ。めっちゃ見てみたいんやが。
「でも、あんまり名前呼ばないでね。イメージ崩したくないから」
「わかった! 役作りやね」
「ふふ。そういう事にしとこうかな」
優姫くんは、コロコロと笑う。可愛い。ペニーワイズであっても、可愛さって伝わるんやね。
「今はね、上映中で手が空いてるから食べ物買いに来たんだ。ハットク、プレーンの四つ貰える?」
「わあ、ありがとう!」
おれはいったんオーダーを通しに、列を離れた。中では、みんな変わらず忙しそうに働いとった。竹っちも活き活きとお盆を四つ抱えて走り回ってて、ホッとする。
「ハットク四つ、おまたせしましたっ」
「……! ありがとう」
あつあつのハットクを持って、廊下に戻る。優姫くんは、廊下の窓から中を覗いてたみたいや。
「どうしたん?」
「ううん。――トリックアート、すごい迫力だね。皆に渡したら、また改めて見に来るよ」
「わー、ありがとう! ぜひ来てなっ」
「今井くんも、良かったら来てね。皆も会いたがってるし。午後は、爆笑サメ映画だから怖くないよ」
「うん! 友達と遊びに行くわー!」
優姫くんは、ニコニコと手を振って去って行った。
爆笑映画かあ。きっと皆好きなやつやし、話してみよっと。
「――ねえ、大丈夫? 元気だしなよ」
「うん……」
テーブルを片しとったら、後ろの生徒達の会話が聞こえてきた。二人組の可愛い感じの男の子が、しょんぼりと話し込んでる。
「榊原先生、急にお休みなんて酷いよね。一緒に花火見てくれるって、言ったんでしょ?」
「言わないで。ご家庭の事情だから仕方ないよ……」
――榊原!
おれは、二人の会話にハッとする。
そう言えば、姉やんが言ってた!
「榊原はね、学祭当日休みなのよ。だから、その日誰も行方を知らなくて。いきなりニューッ! と現れて、愛野くんを攫っちゃうわけ。それで会計も探すのに苦労したみたいよ」
榊原が休みって言う事は、今日もゲーム通りに話が進んどるっていう事か……。おれは、ごくりと生唾を飲んだ。
「そうや、薬! やっぱ鞄やなくて、ポケットに入れとこう」
何もないのが一番やけど、手元にあった方が安心する。竹っちが調理スペースにいるのを確認すると、ロッカーに鞄を取りに行く。
「ええと……一番奥にしまったんや……あ、これこれ!」
鞄の奥から、薬の入った袋を引っ張り出す。
長さがあるから、学ランのポケットにいれよう……ファスナーを下ろしてたら、どんっと背中に衝撃が。
「うわあ!」
「ふぎゃ!」
思いきりつんのめって、顔からロッカーに突っ込む。――痛あ!
涙目で振り返ると、愛野くんが尻もちをついとった。その足元に、おれの薬が転がっとる。
「悪い悪い、前見てなかった! あっ、これ今井の?」
「あっ」
拾おうと屈んだ目の前で、小さい手が薬を拾いあげた。
そして、まじまじと薬を見た愛野くんの顔が、一気に茹で上がる。
「お、お前! 皆が頑張って働いてるときに、何持ってるんだよ!」
「へ?」
何のこと?
きょとんとしとったら、愛野くんは小声で衝撃的なことを叫んだ。
「これ、ビデってやつじゃん! エッチの後に使うやつだろ!? レンが言ってた!」
「は、はああ!? 違うし!」
何言うてんねんこの人!
とんでもない誤解に度肝を抜かれる。すると愛野くんは、ぷんぷんしながらエプロンドレスのポケットに薬をしまい込んだ。
突然の暴挙に、おれは猛抗議する。
「ちょっ、返してや! 拾って懐にって、山賊かっ」
「没収だっての! 夕方返すし。いまエッチする気無いなら、別に必要ないだろ!?」
「だから、そういうん違うんやってば! 大事なもんやから、返してッ!」
「だーめーだ!」
追いすがるおれを鼻であしらい、愛野くんは接客に戻ってまう。うそ、おれの薬……!
「愛野くんってば!」
肩を掴もうと、お客さんをかき分けて必死に手を伸ばす。
ほしたら、その手をパッと掴まれて瞠目する。
「どうしたんや、シゲル」
「晴海……!?」
いつの間に戻って来たんか、晴海が目をまん丸にしとった。
「はるみ~!」
「うお!?」
わあんと泣きつくと、晴海はぎょっとしつつ背中を擦ってくれた。
どうしよう、大事な薬やのに無くなってしもた。
息も絶え絶えに説明すると、晴海は神妙に頷いた。
「……それは不安やったなあ。でも、大丈夫やで」
「うう、でもっ」
「まあ落ち着き。まず俺も薬は持ち歩いとる。それに……さっき、客引きのついでに被服室も見てきたんや。ちゃんと薬あったし、鍵もかけてきたからな。後で取りに行ったらええよ。なっ」
丁寧に「大丈夫や」て説いてくれて、気持ちが落ち着いてくる。
そうやんな。おれは動転したら、余計失敗するんやから……!
「ありがとう、晴海。わかった!」
「うん。よし、皆のとこ行こか!」
薬のことはひとまず置いといて、おれは涙を拭った。
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