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第一章 おけつの危機を回避したい
六十八話
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「ばーか、ばーか! 媚薬に頼るような奴、誰が好きになるか!」
「威勢がいいですね。そんな君が、劒谷くんの前で私のチンポをねだると思うと昂りますよ」
「ざっけんな死ね! レン以外ごめん……ああんっ、変なもん入れるなー!」
おれは、どっどっと激しく打つ鼓動に口を結んで――ひとつ所を凝視した。
――解毒剤や!
床に落ちたエプロンのポケットから覗く、白い袋。あれは紛れもなく、愛野くんが持ってった解毒剤や。まさか、こんな形で相まみえるとは……!
おれは、希望に胸がふくらむのを感じた。
まだ、間に合う。この解毒剤さえおけつに入れれば、壊れんですむ……!
「んぐ……」
とにかく、隠さないと。
ずりずり、と前に這って、エプロンドレスを身体の下に押し込んだ。
窺い見ると、榊原は気づいてへんようや。――それどころか、部屋を出て行こうとする。
「あっ、おい! どこに行くんだよ」
「ふふ、最後の仕上げがあるのでね。すぐに戻りますよ」
パタン、と音を立てて扉が閉まる。
絶好のチャンスに、おれは涙があふれた。
今のうちや……! 手を伸ばそうとして――腕が縛られとるんを思い出した。
「ああっ……?!」
戒められた手首を解こうと、慌てて腕を捩る。――痛ったい! 細い紐が、動かせば動かす程、肌に食い込んでくる。
取れへん。なんで、希望が見えたとこやのにぃ……!
半泣きでじたばたしとったら、愛野くんが「どうした!?」と叫んだ。
「イキそうなのか?!」
「ち、ちが……! 腕、解きたいねんっ」
「うでぇ?」
ベッドから訝しそうにおれを見下ろした愛野くんが、目をまん丸にする。
「今井! それ、結束バンドだよ!」
「え? 何それ」
けっそくばんど? 何でそんな驚いとるんやろって思てたら、愛野くんは顔を輝かせた。
「それ、簡単に壊せるぜ! 俺、知ってる」
「えっ、マジで!?」
おれは瞠目する。何でそんな知っとるん?
「おう! 引っ張っちゃダメだ。思いっきり、腰に叩きつけろ!」
「え……こ、こう?」
言われる通り、腕を持ち上げて――腰に叩きつける。と、おけつに力が入って、人参をギュって締め付けてまう。中がじんじんして、腕に力が入らへん。
「ひうっ」
思わず動きを止めると、愛野くんが檄を飛ばす。
「もう一回!」
「ううっ!」
――バシン! バシン!
おけつのジンジンするかゆみに耐えながら、何度も手首を叩きつける。――すると、数回繰り返したとき、バチン! と音がして手首が軽くなった。
おれは、目を見開く。
「あ……!? 外れた!」
「よっしゃあ!」
久々に、自由になった手首を擦る。ちょっと赤くなっとるけど、全然問題なく動かせるで。
解毒剤を手に取ったら、安堵で涙が滲んだ。これを、おけつに――
「今井! 俺の手も解いてくれっ!」
「あ……わかった!」
愛野くんが、鎖をガチャガチャ言わしながら叫んだ。
そうや。愛野くんも縛られとったんや。おれは、慌ててパンツを引き上げて、ベッドに駆け寄る。
「あ……!」
ベッドに横たわる愛野くんの姿を見て、おれは息を飲む。
――ひどい……!
愛野くんは、両手首をベルトの手錠でベッドに繋がれて、両脚はカエルみたいに縛られとった。女の子のパンツの隙間から、ピンク色のバイブが突き立っとるのが見えて、慌てて目を逸らす。
「とりあえず、腕だけ頼む。後はなんとかすっから」
「うん……!」
鼻を啜りながら、手首のベルトを解きにかかる。震える指に、愛野くんが「しっかりしろ!」と喝を入れる。
「ご、ごめん……」
「バッカだなー、平気だっての。悪いのは榊原じゃん!」
「愛野くん」
「だいたい、レンのはこんな粗チンじゃねえから!」
がははと笑われて、胸が詰まった。
愛野くんて、すごい。こんな目に遭ってんのに、なんて気持ちが強いんや。……おれも頑張らないとあかん!
気合を入れて、ベルトを解いた。固くて難儀したけど、なんとか両手を自由にする。
「やった!」
「サンキュ、今井!」
愛野くんと笑い合ったとき、背後でガチャリと音がする。
――榊原が、戻ってきた!
カツ、カツ、と靴音を響かせて、榊原が近づいてくる。
「何をしてるんですか? 今井くん」
「あ……あ……」
能面のような顔がこっちを見て、全身が恐怖で総毛だつ。
ぶるぶると膝が震えた。怖い。こわい……!
「今井、怯むな! 戦うんだ!」
「!」
上体を起こした愛野くんが、怒鳴る。
その声に背を押され、おれは「わあああ!」と叫んで駆け出した。――床に落ちてたナスビと、でっかい籠を拾う。
「えい!」
ナスビを投げつける。――ひらりと身をかわされ、避けられてまう。おれを捕まえようと、急接近してきた榊原に肝を潰しながら、籠をめちゃめちゃに振り回す。
「わあああ!」
「……全く。鬱陶しい」
鋭い裏拳で籠を叩き落される。
「ああっ!」
一瞬で、手首を捻り上げられてまう。このまま捕まったら、どんな目に遭わされるか……! パニックになって、おれはジタバタ暴れた。
「大人しくしなさい!」
「嫌や~!」
と――必死に振り上げた右足が、ずん! と榊原の股座を思い切り蹴り飛ばした。
榊原は、「ぐっ」と低く呻いて、その場に倒れ込む。
「あ……うわ……」
思わず内またになりつつ、後じさる。同じ男として申し訳ないけど、助かった……。
――おれも、やれば出来るんや……!
ほっと胸を撫でおろした、そのとき。
「あああああ!」
愛野くんの絶叫が、部屋に響いた。
「威勢がいいですね。そんな君が、劒谷くんの前で私のチンポをねだると思うと昂りますよ」
「ざっけんな死ね! レン以外ごめん……ああんっ、変なもん入れるなー!」
おれは、どっどっと激しく打つ鼓動に口を結んで――ひとつ所を凝視した。
――解毒剤や!
床に落ちたエプロンのポケットから覗く、白い袋。あれは紛れもなく、愛野くんが持ってった解毒剤や。まさか、こんな形で相まみえるとは……!
おれは、希望に胸がふくらむのを感じた。
まだ、間に合う。この解毒剤さえおけつに入れれば、壊れんですむ……!
「んぐ……」
とにかく、隠さないと。
ずりずり、と前に這って、エプロンドレスを身体の下に押し込んだ。
窺い見ると、榊原は気づいてへんようや。――それどころか、部屋を出て行こうとする。
「あっ、おい! どこに行くんだよ」
「ふふ、最後の仕上げがあるのでね。すぐに戻りますよ」
パタン、と音を立てて扉が閉まる。
絶好のチャンスに、おれは涙があふれた。
今のうちや……! 手を伸ばそうとして――腕が縛られとるんを思い出した。
「ああっ……?!」
戒められた手首を解こうと、慌てて腕を捩る。――痛ったい! 細い紐が、動かせば動かす程、肌に食い込んでくる。
取れへん。なんで、希望が見えたとこやのにぃ……!
半泣きでじたばたしとったら、愛野くんが「どうした!?」と叫んだ。
「イキそうなのか?!」
「ち、ちが……! 腕、解きたいねんっ」
「うでぇ?」
ベッドから訝しそうにおれを見下ろした愛野くんが、目をまん丸にする。
「今井! それ、結束バンドだよ!」
「え? 何それ」
けっそくばんど? 何でそんな驚いとるんやろって思てたら、愛野くんは顔を輝かせた。
「それ、簡単に壊せるぜ! 俺、知ってる」
「えっ、マジで!?」
おれは瞠目する。何でそんな知っとるん?
「おう! 引っ張っちゃダメだ。思いっきり、腰に叩きつけろ!」
「え……こ、こう?」
言われる通り、腕を持ち上げて――腰に叩きつける。と、おけつに力が入って、人参をギュって締め付けてまう。中がじんじんして、腕に力が入らへん。
「ひうっ」
思わず動きを止めると、愛野くんが檄を飛ばす。
「もう一回!」
「ううっ!」
――バシン! バシン!
おけつのジンジンするかゆみに耐えながら、何度も手首を叩きつける。――すると、数回繰り返したとき、バチン! と音がして手首が軽くなった。
おれは、目を見開く。
「あ……!? 外れた!」
「よっしゃあ!」
久々に、自由になった手首を擦る。ちょっと赤くなっとるけど、全然問題なく動かせるで。
解毒剤を手に取ったら、安堵で涙が滲んだ。これを、おけつに――
「今井! 俺の手も解いてくれっ!」
「あ……わかった!」
愛野くんが、鎖をガチャガチャ言わしながら叫んだ。
そうや。愛野くんも縛られとったんや。おれは、慌ててパンツを引き上げて、ベッドに駆け寄る。
「あ……!」
ベッドに横たわる愛野くんの姿を見て、おれは息を飲む。
――ひどい……!
愛野くんは、両手首をベルトの手錠でベッドに繋がれて、両脚はカエルみたいに縛られとった。女の子のパンツの隙間から、ピンク色のバイブが突き立っとるのが見えて、慌てて目を逸らす。
「とりあえず、腕だけ頼む。後はなんとかすっから」
「うん……!」
鼻を啜りながら、手首のベルトを解きにかかる。震える指に、愛野くんが「しっかりしろ!」と喝を入れる。
「ご、ごめん……」
「バッカだなー、平気だっての。悪いのは榊原じゃん!」
「愛野くん」
「だいたい、レンのはこんな粗チンじゃねえから!」
がははと笑われて、胸が詰まった。
愛野くんて、すごい。こんな目に遭ってんのに、なんて気持ちが強いんや。……おれも頑張らないとあかん!
気合を入れて、ベルトを解いた。固くて難儀したけど、なんとか両手を自由にする。
「やった!」
「サンキュ、今井!」
愛野くんと笑い合ったとき、背後でガチャリと音がする。
――榊原が、戻ってきた!
カツ、カツ、と靴音を響かせて、榊原が近づいてくる。
「何をしてるんですか? 今井くん」
「あ……あ……」
能面のような顔がこっちを見て、全身が恐怖で総毛だつ。
ぶるぶると膝が震えた。怖い。こわい……!
「今井、怯むな! 戦うんだ!」
「!」
上体を起こした愛野くんが、怒鳴る。
その声に背を押され、おれは「わあああ!」と叫んで駆け出した。――床に落ちてたナスビと、でっかい籠を拾う。
「えい!」
ナスビを投げつける。――ひらりと身をかわされ、避けられてまう。おれを捕まえようと、急接近してきた榊原に肝を潰しながら、籠をめちゃめちゃに振り回す。
「わあああ!」
「……全く。鬱陶しい」
鋭い裏拳で籠を叩き落される。
「ああっ!」
一瞬で、手首を捻り上げられてまう。このまま捕まったら、どんな目に遭わされるか……! パニックになって、おれはジタバタ暴れた。
「大人しくしなさい!」
「嫌や~!」
と――必死に振り上げた右足が、ずん! と榊原の股座を思い切り蹴り飛ばした。
榊原は、「ぐっ」と低く呻いて、その場に倒れ込む。
「あ……うわ……」
思わず内またになりつつ、後じさる。同じ男として申し訳ないけど、助かった……。
――おれも、やれば出来るんや……!
ほっと胸を撫でおろした、そのとき。
「あああああ!」
愛野くんの絶叫が、部屋に響いた。
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