エンドロール〜BLゲームの悪役モブに設定された俺の好きな子の話〜

高穂もか

文字の大きさ
96 / 112
第二章 淫紋をぼくめつしたい

■ある姉弟の回想【1】

しおりを挟む
「姉やーん、おかえり!」
 
 県外の女子高に入学して、はや三か月。
 久しぶりに実家の門を潜れば、四歳下の弟の熱い歓迎が待っていた。両腕を広げて抱きついて来ようとするので、ボクサーのようにひょいと身をかわす。
 
「へぶっ」
「……ただいま~」
 
 床に伸びた弟を尻目に、さっさと居間に向かう。すぐさま、どたばたと後を追って来た弟は、不満げに唇を尖らせる。
 
「ちょぉ、なんでよけるん?」
「う・ざ・い。あんたもう、小六でしょ。いちいち抱きついて来んといて」
「そんなあ。だって姉やん、連休は帰ってこおへんだし……寂しかったんやもん」
 
 彼女か、お前は。
 と、思わなくもなかったんだけど、あんまりしょぼくれた顔をするので、正直に言うのはやめてやる。
 
「はいはい。ごめんね、シゲル
「ねえやん!」
 
 赤くなった額をぽんぽんと撫でてやったら、滋は途端に上機嫌になって、へらへらと笑いだす。
 
「えへへ……姉やん、おれ荷物はこぶよ」
「じゃ、部屋までよろしく」
「うんっ」
 
 肩にかけていた鞄を渡すと、嬉しそうに受け取っている。その背後に、ブンブンとちぎれそうに振れる尻尾の幻が見えた。
 
 ――わが弟ながら、ちょろいにもほどがある。
 
 小学六年生の滋は、すでに私と目線が変わらない。小さいころに病弱だったせいか、まるきり女の子みたいだった外見も、ずいぶん少年らしくなってきてるんだけど。
 この子供っぽさは、どうしたことか?
 
「なあなあ、姉やん。夏休みいっぱいまでおれるん?」
「一応、そのつもりだけど……」
「わあ、やったー!」
 
 滋は、嬉しそうにぴょんと飛び上がる。見ないうちに伸びたあめ色の髪が、笑顔を縁取るようにふわりと揺れた。
 
 ――まあ実際、なつかれて悪い気はしないんだけどね。
 
 中坊の弟がいる友達が言うには「あいつはクソガキじゃ」ってもんらしいから。こんな風に接してくるのも、あとちょっとのことぐらいかもしんないし。
 だったら、ちょっとくらい構ってやるかという気持ちになる。
 
「あんな、また晴海も遊びに来るって言うてたん。マリカー強なったから、リベンジしたいって」
「いいけど。あんた、宿題はちゃんとやってんの?」
「えっ、まだやけど。休みなったばっかやし……」
「あーあ。そんなん言って、また晴海くんに泣きつく気やろ」
「ち、ちゃうもん! 姉やんの意地悪っ」
 

 
 ■■

 
 
「――意地悪とは何よ、この馬鹿弟~」
「今ちゃん、今ちゃーん。教授めっちゃ睨んでるよ」
「……はっ!」
 
 しずかちゃんに揺り動かされ、私はがばりと顔を上げた。
 あたりを見回せば、そこは大学の講義室。なつかしい家の風景は、どこにもなかった。
 
 ――やっば、寝てたわ……
 
 昨夜も夜更かししたからか、授業中に寝入ってしまったらしい。
 ……最近、多いのよね。頭がちょっと痛い気もするし、疲れてるのかしら。
「ふああ」と欠伸が一発出たところで、大きな咳払いが聞こえてきた。
 つられて見れば、黒板の前で教授が渋面を作っている。――げげっ。
 
「今井さん、講義を受けるつもりはありますか」
「はい、あります! すみませんでした」
 
 蹴倒すように席を立ち、直角に頭を下げる。
 ぷりぷりしながら授業に戻った教授に、ホッと息を吐いた。すると、隣のしずかちゃんが、こっそりと肘をつついてくる。
 
「今ちゃん、ヤバかったね」
「しずかちゃん~。起こしてくれてありがとう」
「いいよー。でも、最近寝てること多いけど、大丈夫?」
 
 ちょっと心配そうに聞かれ、私は曖昧に笑って誤魔した。
 だって、弟の「ケツを治す薬」を作ってるなんて言えないしね。
 
 ――晴海くんから「検体」が送られてきてから、はや一週間。
 
 私は、解毒剤造りに精を出してきた。
 化学教師はマジモンの変態だけど、さすがはゲームの悪役って感じ。尻の穴に寄生する、精液が主食のスライムなんて何をどうして生み出したのやら。それでいて、突っ込んでる方には何の影響も無いんだから、攻めファースト仕様にも程があんだろと。
 化学的にも、腐女子的にも興味が尽きなくて。
 昼も夜も、大学の課題も忘れて研究して――ついに薬が完成したのが今朝のこと。
 
 ――いや~、自分の天才さが怖いわあ。
 
 この講義が終わったら、シゲルに電話してやろっと。
 私は、ルンルン気分でノートを取った。

 
 
■ある姉弟の回想……(続)
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

転生したが陰から推し同士の絡みを「バレず」に見たい

むいあ
BL
俺、神崎瑠衣はごく普通の社会人だ。 ただ一つ違うことがあるとすれば、腐男子だということだ。 しかし、周りに腐男子と言うことがバレないように日々隠しながら暮らしている。 今日も一日会社に行こうとした時に横からきたトラックにはねられてしまった! 目が覚めるとそこは俺が好きなゲームの中で!? 俺は推し同士の絡みを眺めていたいのに、なぜか美形に迫られていて!? 「俺は壁になりたいのにーーーー!!!!」

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...