仮面王子は笑わない - 私に下された命令、それは笑わなくなった王子様を笑顔にして欲しいという無茶苦茶な命令だった…

泥水すする

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第2章 とある冒険者は王子の世話をする

第2話

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 それから5日ばかり過ぎた頃、王子の部屋にやってきたルイードに激震が走っていた。

「な、何ですかこれは!?」

 口を開けた瞬間にもそう叫んだルイードの目に、すっかり乱れた室内は映る。ここ最近でやっと見れるまでには整理整頓した室内が、今この瞬間にも元どおりには荒れ狂っていたのである。

「せっかく掃除したのに…」

 掃除という慣れない作業を悪戦苦闘しらやっと覚えてきた最中の出来事なだけに、ルイードはうんざりとした表情を浮かべていた。そうしてその原因を流し見て、

「王子、これはどういうことですか!?」

 窓の向こう遠い目線で眺める王子に向かって訊いた。

「……こっちの方が落ち着く」

 一言。そう言っては定位置であるベッドに戻っては、いつものようにしてシーツに包まり始めた。

 ルイードはそんな王子の態度にムッとして、ズカズカとベッドと歩み寄ると、王子の包まったシーツを強引には剥ぎ取った。

「な、何をする無礼者!?」

「王子!これではいくら掃除してもキリがありませんよ!?」

 たとえ相手が王子であっても知ったことかーーそう思うルイードとは、ここ最近に於いて王子との距離を少しずつではあったが縮めつつあった。口を聞くぐらいには距離を縮め、そして今日はついに文句を言うまでに。

 確かに王子に辛い過去があるのは理解した。ただだからと言ってこのままこの堕落した生活を続けていたって仕方がないではないのか、それでは王子を心配する皆に申し訳ないではないかーーと、そう思っていたのである。

 ルイードは王子から剥ぎ取ったシーツをくるくると巻き上げると、乱暴には投げ捨てた。

「では王子!一緒に掃除をしましょう!」

「は、はぁ!?ふざけるな!何故俺様が掃除などと…それに!俺様には俺様の居心地というものがーー」

「グタグタ言わない!ほらっ、立って!」

「ば、馬鹿!?勝手に触るな!」

「知りませんよ!私はよそ者ですのでお城のルールなんて分かりません!」

 ルイードは物怖じせずに言って王子を立たせると、ほうきを手渡した。王子は一瞬躊躇いはしたが、ルイードが本気なのも悟ってか、渋々といった様子ではほうきを握りしめた。

「今日だけだからな!?」

 そう吐いて、掃除に取り替える。
 
 仮面で表情は見えない。もしかしたら怒り顔浮かべているのかもしれないが、まぁいっかーールイードは掃除を始める王子を見てフッと笑みをこぼすと、ずっと閉ざされたままとなってカーテンを開けた。

 そうして窓を全開にして、部屋に緩かな風が流れ込む。そして太陽の暖かな陽気が部屋へと差し込み、淀んだ部屋の空気が浄化されていくよう感覚を覚えていた。

「ほら王子みて下さい!絶景ですよ?こんな良い場所からこんな素敵な風景をいつでも見れるというのに勿体無いじゃないですか!」

「ふん、知るか」

 王子は素っ気ない返事をした。だが、最初の頃のようには怒鳴り散らすこともなく、カーテンを閉めろとは言わなかった。





 掃除が終わって、すっかり見違えた室内を見てルイードは笑みを浮かべた。

「どうですか王子、初めての掃除は?自分で掃除すると、もう汚したいとは思わないでしょう?」

「……別に、それよりもだ、飯だ飯。直ぐに持って来い」

 そう言って、腹が減ったとはいつものようにはベッドに寝転んだ。片付いた部屋に満足したのか、その態度はしてやったと言わんばかりには嬉しそうである。もしも仮面をつけていなかったすれば、口角を上げてニヤニヤとしている表情を見れたに違いない。

 ルイードは一回迷った末にも、王子に向かって尋ねた。

「せっかく天気がいいですし、今日はお外で昼食をとるというのはどうですか?」

 そんな提案。王子は直ぐ様反応して、乾いた笑い声を零した。

「はっ、馬鹿言うな。誰が外になどでるものか戯け!俺様はこの部屋が一番落ち着くのだ!」

 と、やはり横暴な態度を見せる。

 どうにかして王子を外へと連れ出せないものかーーー困ったルイードは考えて、ふと、以前ラッカルに聞いた話が頭を過ぎっていた。

『王子はよく王妃様と一緒に庭園に出られていましたわね。というのも、王子は庭園のお花をこよなく好いており、以前はよく自分でお花の手入れをしていたものです』

 と、そんな内容の話をである。
 
 ルイードは少しばかり考えてーーーとある妙案を思いついた。直ぐ様王子の元に駆け寄ると、ベッドでゴロゴロと寝転がる王子に向かって声を弾ませては、

「王子、聞いて下さい!実はですね、今現在このセントクルス城の庭園には、世にも珍しいラブテスカスの花が咲いているようなのです!」

 そう言ったルイードの言葉に、王子は跳ね上がって応えた。

「な、何!?ラブテスカスの花だと!?それは誠か!?」

「ええ!もちろんです!私も昨日この目で見て来たので間違いありません!」

 もちろんそれは嘘であった。一日中王子の側についていたルイードが庭園に出る暇などあるわけもなく、庭園を見たのは最初このセントクルス城に来たのが最後であった。

 ましてやラブテスカスの花という、それはここより遠方の、寒い北の国しか咲かないとされる黄色と青色を花弁に散らした幻の花である。ただでさえ幻の花であり、なおかつ温暖な気候であるセントクルス王国に咲くことなどまずあり得なくてーーそれでも王子は興奮した様子で、ルイードの嘘に食いついて離れなかった。

「言え!ラブテスカスの花はどこに咲いておる!?」

 ルイードの肩をしっかりと掴んでは、力強くグラグラと揺らす。ルイードは王子に揺さぶられて、その力強さに「やっぱり男の子なんだなぁ」としみじみ感じていた。

「庭園の端の方です。どうですか王子、今から一緒に行きませんか?」

「おう、もちろんだ!直ぐにでも行ってやるーー」

 と言いかけて、王子は「あっ」と声を漏らしては、途端に冷静さを取り戻した。そうしてルイードに背を向けると、寂しそうな声で、

「でも、やはり駄目だ…誰かに見られてしまう…」

 そう言って項垂れてはため息を漏らした。どうやら本気で人に会いたくないらしく、それは城の者も例外ではないらしい。

 ルイードは不思議に思って首をかしげた。

「私は大丈夫なのに、どうして他の者は駄目なんですか?」

「…駄目な駄目なのだ…あいつら以前の俺をよく知っている…」

 ああ成る程、とはルイードは手をついた。
 つまりだ、王子は以前のような明るい自分を知っている城の人間達と会うのも酷く恐れているようだった。王子の心中について深く理解したわけではないが、その気持ちを何となく察したルイード。

 ルイードは王子の肩に手を置いては、

「安心して下さい!城の皆には私から言っておきますら…少し待ってて下さいね?」

「いやいや、お前なぁ…」

「ここは私に任せて!では王子、後ほど」

 戸惑う王子にそう言い残して、ルイードは部屋を後にした。


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