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第2章 とある冒険者は王子の世話をする
第3話
しおりを挟むルイードのお願いに、城中は慌ただしく騒然としていた。
「な、何!?王子が庭園に出られるですって!?」
その中でも特に驚いていたラッカルは声を張り上げていた。その周りにはセントクルス城の人間達がぞくぞくと集まってきており、中には衛士から学者やら料理人やらメイドやらと様々で、このセントクルス城に仕える人間達の殆どがルイードを取り囲んでいた。
あまりの反応に面を食らったルイードではあったが、目を見開いてはそれが真実であることを明かした。
「え、ええ…私が庭園にラブテスカスの花が咲いているという嘘をついたら食いついてきてですねぇ…ですので皆様に一時だけ庭園に近付かないでいただけると助かるのですが…」
ルイードがそう言った瞬間、「おおっ!!」とは歓声が上がった。皆一様には嬉しそうに笑い、手を取りあって喜びを分かち合っていた。
ただ王子が外に出るというだけなのに何だこの喜びようはーールイードはそう思いはしたが、それを言ってしまえば水を差してしまうようで、やめた。
そんなルイードを置き去りに、セントクルス城の人達の中で勝手に話は進行していた。
「にしてもラブテスカスの花とは大きく出たな…用意できるか?」
「無理でしょう。それよりもラブテスカスの花と同等の造花をするというのは?」
「王子は花についてかなり詳しい…ラブテスカスの花じゃなないと直ぐに気づくのではないか?」
「料理はどうしましょう!?せっかくの外食です、いつもの料理とは違うもの用意してあげますか!?」
「王子の好物、いや違うな……そうだ!王子がよく王妃様と召し上がってサンドイッチなる軽食はいかがか!?」
「成る程!その手が!では早速!」
「衛士達よ!庭園に人が寄り付かぬよう厳重警備体制は図れ!」
「「「ははぁ!!」」」
「メイド達よ!今直ぐ庭園を整備しなさい!王子に最高の景色でもてなしてあげるのです!」
「「「かしこまりましたラッカル様!!」」」
と、一瞬にしてまるでお祭り騒ぎのような有様で、一人ポカンと置いてきぼりを食らうルイードを唐突にはラッカルが駆け寄ってきては抱きしめた。
「よくやりましたルイード!やはり貴女は最高ですことよ!」
「は、はぁ…」
これは素直に喜んでいいのか?
よく分からないまま、ルイードはただ呆然と佇む。
そうして、城を挙げての王子を持て成す計画が着々と進行していった。王子を庭園に呼ぶのは一時間後、それまでには全てをこなしてみせるとセントクルス城の皆々は意気揚々としていた。
「おお!これは凄い!!」
庭園に来て直ぐにも、王子は感嘆してそう言った。その隣に立つルイードもまた王子同様には感嘆して、眼前に広がる庭園の景色が以前の数倍にも増して綺麗な事に驚いていた。
ただでさえ美しかった庭園がだ、ここ一時間で更に美しさに磨きがかかっていた。カラフルな花々が咲き乱れ、古今東西あらゆる地方でしか見られないとされる様々な花が庭園を彩っていた。中には造花と呼ばれる本物の花でないものも紛れ混んでいるのだろうが、それでも一見だけでは全く区別がつかない。
美しい景色に目を奪われ、ルイードと王子は庭園の中を歩み進んでいった。
「おい、俺はこんなの聞いてないぞ!いつからここはこんな素晴らしい場所に生まれ変わったのだ!?」
「私だって知りませんよ?私が来たのはつい一週間ばかし前のことですし」
つい一時間前ですとは真実を隠して、ルイードは軽やかな足取りではしゃぐ王子の背を微笑ましくは眺めた。
王子は年齢にして16歳ほどとルイードより少しだけ若く、ただそれにしたって最早小さな子供ってわけではない。ないが、今ここにはいるのは無邪気な子供のようには喜ぶ王子の姿であった。
王子の程の年齢の、一人で生きる若者達をいままでごまんと見て来たルイード。ルイードもまた王子の年の時には一人のトレジャーハンターとしてあちこち旅をしてきたわけではあるが、今の王子はただの子供のそれ。仮面を被って顔は見えないが、その下では満面の笑みを浮かべているだろうことが容易に想像できるルイードであった。
「ところでラブテスカスの花はどこだ!?」
ついにきたか、とはルイードは瞬時に緊張していた。そもそも王子が庭園にやってきたのはラブテスカスの花が目的であり、今こうして眺めている他の花々も昼食という名目もその飾りでしかない。
ルイードは王子にぎこちない笑みを浮かべて、
「この奥です」
とは、頼りない声で返した。王子は声を弾ませ「そうか!」と応えると、足早には駆け出した。その背に続きルイードは駆け出して、チラリと庭園の物陰へと目線を移した。ルイードの視線先ではラッカルが親指を突き立てニヤリとは口角を上げていた。
問題ないと言いたげで、今はセントクルス城の人達に任せようとはラッカルに頷いて、王子の後を追った。
綺麗、その一言じゃ足りない。そんな気持ちに成る程に、その花々は燦然と咲き誇っていた。
「…う、美しい…」
「ですね…」
あまりの美しさに呟いた王子に、ルイードも続いては呟いた。
ラブテスカスの花、花言葉を幻風景。この世には存在するかも疑わしきとまで呼ばれた幻の花が、今まさにルイードと王子の目の前に広がっていた。
これが造花であると理解しているルイードではあったが、そんなことを思わせない程に美しく、太陽の下に咲き誇るその様は本当にラブテスカスの花なのかもしれないとルイード達を錯覚させる。
しばしラブテスカスの花に魅入るルイードと王子、そんな最中にもルイードはふと気が付いて、そう言えば昼食がまだである事を思い出した。
「では王子、私は昼食を持って参ります。しばしお待ちを」
「あ、ああ…すまぬ」
他言を挟むなとは言いたげに王子は呟いて、ルイードは王子を残し昼食を取りに戻った。が、昼食は既にルイード達の背後には用意されており、サンドイッチと呼ばれる外国の食べ物がそこにはあった。
これも全てをセントクルス城の人達の粋な計らいだろうーーールイードがキョロキョロと辺り一端に見回すと、物陰からセントクルス城の人達が頭を出して覗き混んでいた。その数を数えようとして、あまりの数に数えるのも馬鹿らしく思ったルイード。
涙を浮かべる者もいれば笑みを浮かべる者もいる、皆がみせる感情は様々である。だが、その気持ちの一心は王子の楽しそうな姿のみに注がれているようであった。
本当に王子は愛されているのだなぁーーその光景は微笑ましくもあり、また同時に羨ましくあるルイードであった。
私もこんな人達に囲まれて育ちたかったなぁーーそんなことを思って、すぐ様その感情を押し殺した。
「王子、昼食にしましょう!」
「え?あ、ああ…て、もう持ってきたのか?」
「ええ!超特急で持って参りました!」
「そうか…って、おお…サンドイッチ…」
王子の目はラブテスカスの花からサンドイッチへ、この料理もまた王子にとっては大切なものであるようだった。
「昔、よくお母様が作ってくれたなぁ…」
と、染み染みとした様子では呟いて、サンドイッチを手に取る。そうして気づいたらしい。
「むぅ、仮面が邪魔で食べられぬ」
王子は辺りを見回して、次にルイードを見ては、
「本当に…誰もいないのだな?」
と、そう尋ねた。どうやら自身の素顔を誰にも見られたくないらしい。私を除いて。
「ええ、そう言っておりますので安心してください」
「そうか…なら、」
と、王子は仮面を掴むと、ゆっくりとは持ち上げ、仮面を取った。その瞬間、パサリと金色の髪が靡き、王子の肩にかかった。仮面で分からなかったが、王子はかなり髪が伸び切っており、肩下程の長髪であった。また黄金色の髪色で、太陽を反射させてはキラキラと輝いていた。
そして、ルイードは始めて王子の素顔を見てーーー呟いた。
「綺麗…」
ラブテスカスの花を見た時と同様の反応みせるルイードの視界先には、仮面を取った王子の素顔が覗かせていた。
綺麗な美男子が、そこにいた。
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