言って、これはただの狩猟日記です。

泥水すする

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 少々手こずりましたが、傷を負わなかっただけマシと言うものでしょう。
 時間にして2分ほどの戦闘とは、私の突き出した剣先がグリーズの喉元を貫いたのが決め手となりました。
 私の大勝利です。グリーズの喉元から剣を抜きます。
「いやぁ流石ハイエンド。いつもいつも助かりやす。へへへ」
 ピコかヘラヘラと薄ら笑いを浮かべながら近寄ってきました。
 投げ掛ける言葉も御座いません。
「それにしても、近く見るとやっぱデケーな……一体何食ったらこんなに大きくなれるんだか」
「さぁ、モンスターですし、そういうものでは?」
「あはは、違いない。でもこのグリーズも残念だったろうに。まさか凄腕ハンターである俺たちと遭遇してしまうなんてな!」
 俺たち?
 私はピコにじっとりとした目を向けて異議を訴えかけます。
「ま、まぁそうだな?8割型ハイエンドの手柄、で、2割はグリーズを引き付けた俺のお陰ということで……そういうことにしておこう、うん」
 そういうことで勘弁しといてくれませんかね?
 ピコは申し訳無さそうに、そうも続けました。
「構いませんよ」
 別にどちらでも良いのです。
「はは、助かる。だが安心しろハイエンド!俺には俺の役割ってものあるってことを忘れちゃあいけねーぜ?」
 と、ピコは動かなくなったグリーズの毛並みに触れて、
「かなり厚い脂肪だ。こりゃあ解体士の腕もなるってもんだぜ!」
 背負ったバックから小刀を5本程取り出して見せます。
 いつもは頼りないピコではありますが、この時ばかりは頼もしく見えるのです。
「いけますか?」
「勿論だ。少々時間はかかるだろうが問題ない」
 そう言った即座にも、ピコの解体作業が始まったのです。
 まず、ピコは顎下から肛門にナイフを通しました。
「ハイエンド、よく見とけよ?この手の体毛の濃いモンスターはな、毛皮をそぉ~と剥いでやるのがデホォなんだぜ?」
 ふむふむ、何故でしょうか?
「毛皮が肉に付くと、解体がし難いし時間もかかる」
 ピコはスルスルと綺麗に毛皮を剥いでいきます。
 慣れた手付き、そうは認めざるを得ません。
「この時、あまり刃を脂肪に付けないように。切れ味が悪くなるからな?」
 このように、とピコは切れ味の悪くなった小刀を取り替えます。
「次にあばら骨の切るのだが、胸の中央辺りのあばらは比較的柔らかいとされているから……えいっ!」
 おお、確かに刃が綺麗に入りましたね。
「よし、ここまできたら次に内臓を取り分ける。まずは胆のう。この部位は貴重だから、一番最初に取り除くといいだろう。グリーズの胆のうは薬として重宝されるからな」
 だそうです。
 その後もピコの解体、解説は続きます。
 私も役に立ったかは分かりませんが、御手伝いをしました。
 言って、凄く勉強になったのです。
「よし、大方は終了か。剥ぎ取った肉と内臓は手分けして持ち帰る。不要な臓物は穴を深くに埋める。毛皮は……よし、川まで俺が運ぶことにしよう」
「流石ですピコ。見直しましたよ」
 嘘ではありません。本当です。
「だろぉ~?」
 フフンと、ピコは鼻高々にしています。
 いつもなら苦言の一つでも投じてあげよう場面ではありますが、今回ばかりは許してあげましょうか。



 日が高くなってきました。お昼のようです。
「ふわぁ~疲れた……」
 川のほとりに毛皮を下ろし、ピコはドバァと溜息を吐きます。
 余程お疲れだったのでしょう。
 それもそのはず、グリーズの毛皮は推定15キロ程ありましたからね、引きずっていたとしてもかなりの労力を必要とされます。
「お疲れ様」
 私はコップに川の水を注ぎ、ピコに渡します。
「おー、助かるー」
 ピコはゴクゴクと喉を鳴らして水を飲み干します。見事な飲みっぷりに、些か見惚れてしまう私です。
「川の上流となると流石に水の純正度が違うな」
 至極の一杯である、とピコは御満悦の様子です。
 ピコもそうですが、川にプカプカと浮かぶスラちゃんもどこか気持ち良さそうにしています。

 さてさて、取り敢えず私達は川の上流域とは辿り着きました。
 然程苦労なく……とは、もちろん言えません。疲労困憊とも言えますし、満身創痍とも言えます。
 結論、山登りは大変だったのです。終わり。
「では早速上流域の調査に……と言いたいところだが、一先ず飯にしよう。腹減った」
 とのことです。確かに私もお腹がペコペコでしたので、ピコの提案には賛同せざるを得ませんね。
 昼食の準備を開始しようと立ち上がって、辺りに手頃な木の棒がないか探索します。
「何やってんだ?」
「いえ、せっかく川の上流にやってきたので、釣りでもと」
 木の棒にツルを巻いて、即席(そくせき)の竿を作って、釣りをするのです。
「中々の妙案でしょう?」
「馬鹿。せっかく新鮮な肉があるってのに何言ってだ?」
 ピコは先ほど仕留めたグリーズの肉片と臓物を取り出し見せて、
「肉は鮮度が命、だろ?」
 間違いありません。
 私は掴んだ木の棒を投げ捨てます。
 代わりに手頃な石を円状に積んで、中心に枯れ木を。そして火打ちからの着火、舞台は整いました。
「さぁピコ、肉パーティの開始です」
 あ、涎(よだれ)が垂れてしまいました。
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