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しおりを挟む静寂。
静寂。
静寂。
静寂。
静寂。
夜。
私はついに歩くのを断念しました。
未だ深い森闇の中一人、焚き火にあたるのです。
あったけぇ……です。
「今晩は焼き芋です。ご馳走ですよ。スラちゃん、あなたも一つ如何ですか?村からいくつもくすねてきたので遠慮はいりませんよ?」
「……」
ぽよん。スラちゃんは僅かに揺れました。
揺れただけ、揺れただけ、揺れただけ……
「はぁ……分かりましたよ。焼き芋は私が美味しく頂くとします」
変わりに、私はバックから水を入れたペットボトルを取り出しスラちゃんへとドボドボ振りかけてあげるのです。
水分補給はスラちゃんの生命線ですからね。枯れて萎んでしまっては嫌ですからね。
「スラちゃん、あなただけは絶対に死なせたりしませんから」
私をひとりぼっちにするなんて許しません。
「美味しいですか?」
「……」
ぽよん。
「ふふ、ですか」
皮肉なものです。まさか今の私の唯一の心の支えが打ち滅ぼすべきモンスターであるスラちゃんであろうとは、以前の私は想像すらしていませんでしたね。
『人生とは幾つもの数奇に満ちている』
「お爺さん、全くその通りでした」
私は焚き火に突っ込んだ焼き芋を取り出し、冷まします。
ある程度の放置時間の後、触れてみます。
うん、ナイス適温。
「頂きます」
もぐり……もぐもぐもぐもぐもぐもぐ……ゴクリ。
「美味いッ」
ああ、幸せです。
「もう一口、もう一口」
焼き芋の甘さを求める私は止まりません。
今夜は焼き芋パーティ。パーリィナイト。
最早心も体も冷めきっているのにも関わらず、焼き芋だけは以前と変わりなく圧倒的美味を誇りるわけです。
ああ、美味しい美味しい……
なのに。
「どうして、私は泣いているのでしょうね?」
理由は分かりませんでした。
それでも涙は止め処なく瞳から流れ落ちてきます。
拭っても拭っても、きりがなく。
一晩中、私は泣きました。
涙の理由は、分かりませんでした。
夢を見ました。
その夢の中で、私は少女でした。
少女である私は誰かに手を引かれ、人混みに紛れ歩くのです。
低い視点を見上げると、通り過ぎる人々の楽しそうな笑顔が見えます。
何がそんなに楽しいのか、皆一様には幸せそうです。
「ハイエンド」
不意に、私の手を引くその人が私の名前を呼びました。
また膝を曲げしゃがみ込むと、幼い私へと目線を合わせます。
綺麗な女性でした。白い長髪に緋色の瞳が特徴的な、その女性。
言って、成長した自分を見ているようでした。
「何、お母さん?」
少女ハイエンド(私)はその人をお母さんと呼びます。
ああ成る程、その人は少女ハイエンドのお母さんにあたる人物なわけですね。だから似ていると、ふむふむ。
要するに、儚き幻想夢。
私はどうやら、夢の中で有りもしない架空のお母さんを創り出したと、そんなところでしょう。
「ハイエンド、お腹空いた?」
お母さん(仮)は少女ハイエンドに尋ねます。
どこまでも優しい口振りに、むず痒さを感じます。
でも悪くはないと、そう思うわけですよ。
「平気だよ」
少女ハイエンドは首を横に振ります。
お母さん(仮)は少女ハイエンドの頭を撫でて、立ち上がります。そして再び手を引いて歩き始めました。
「これからどこ行くの?」
少女ハイエンドは無垢な表情。
母親(仮)は振り向き微笑みます。
「展望台よ」
「展望台?」
はて、展望台とは一体?
「行けば分かるわ」
母親(仮)はそれ以上教えてはくれないようでした。
そのまま暫く歩き、立ち並ぶ家屋は見えてきました。
「ここは?」
「江ノ島商店街。皆んなここでお土産を買うの」
貴女も何か買うといいわ、お母さん(仮)はそう言って一つの商店へと入りました。少女ハイエンドもおずおずと後を続きます。
商店の中もまたたくさんの人でぼった返していました。
何か買っていいと言われても困る少女ハイエンドは、ただ呆然と立ち尽くすばかりです。
「何がほしい?」
お母さん(仮)は少女ハイエンドに目線を落として尋ねます。
少女ハイエンドは受け答えに戸惑いーーふと、目線がそこで止まりました。
少女ハイエンドの視界先で、通り過ぎる若い男女の手にそれは握られていました。
「お母さん、あの白いウンコみたいなものなーに?」
「ああ、ソフトクリームね」
「ソフトクリーム?」
聞いたことありませんね。
「そう、冷たくて甘いお菓子なの。そう言えば、ハイエンドは食べた事がなかったわね」
「ふーん。じゃあ、あれが欲しい!」
「え、あんなものでいいの?」
「うん。だって、甘いんでしょ?」
甘い物に目のない少女ハイエンドです。
「分かった分かった、じゃあこうしましょう。あのソフトクリームは別として、何か思い出に残るものも一緒に買って上げるから」
さぁ、選びなさい。
お母さん(仮)はそうは言ってくれますが、正直そんなものはないと思う少女ハイエンドでした。
故に、少女ハイエンドは言います。
「なら、ソフトクリーム二つ!」
「あらあら、欲張りさんなのね?」
「違うよ。お母さんの分も入れて二つ!」
初めてのソフトクリームをお母さん(仮)と一緒に食べる。そうであるならば充分な思い出になるだろうと少女ハイエンドは考えたわけですね。
ソフトクリームを片手に、少女ハイエンドはお母さん(仮)と共に展望台を目指し、緩やかな傾斜道を進んでいきます。
「美味しい?」
「うん!」
ソフトクリーム、マジ甘いっす。焼き芋とはまた違った甘みに、ほっぺたがとろけ落ちてしまいそうでした。
「ハイエンドは優しいのね」
「ん?何で?」
「ふふ、さぁ?何ででしょう?」
「???」
意味が分かりません。
「さて、そろそろ頂上が見えてくるわ」
と、その前にーーお母さん(仮)の足がそこで止まりました。
「見てみなさいハイエンド」
と、お母さん(仮)は遠くを指差します。少女ハイエンドは視線を移しました。
そして、
「わぁーお!」
絶景でした。果たしなく続く海と、びっしりと陳列した家々が並んでいます。言って、それは自然と人工建築物の織りなす幻想風景です。
「凄いでしょう?かつてはね、この場所も美しい世界だったの。今では失われた世界『湘南S地区』でしかないけれどね」
お母さん(仮)は笑ってそう言いました。
また続けて、
「この風景を作ったのは人間だったわ。でも、この風景を壊してしまったのもまた人間だったの」
だと、そうも言うのです。
もちろん、少女ハイエンドは話についていけるわけありません。
故の、疑問でした。
「湘南S地区って、何?」
「今いる貴女の世界、モンスターの闊歩する廃國(はいこく)のことよ」
ああ、成る程。
少女ハイエンドはウンウンと頷きます。
「ハイエンド、貴女はどちらの世界が良いと思う?」
さぁ、どうでしょうか?
判断し兼ねる少女ハイエンドです。
「……ふふ、変な事聞いてごめんね。でも、これはすごく大事なことだからーー」
と、お母さん(仮)は少女ハイエンドの幼い頭を撫でました。
「答えはいずれ聞かなくてはならない。貴女にはその義務と責任があるの」
と、お母さん(仮)は少女ハイエンドの頭から手を離しました。その瞬間、急激なる意識のブレを感じる少女ハイエンドでした。
ああ、もう時期この夢も終わるーー何故だか分かるわけですね。
「ここからは貴女一人で登ってきなさい、ハイエンド。その時までに、ちゃんと今言った事を考えておくのよ?」
そうは言い残し、お母さん(仮)は一人何処かへ消えていくのでした。
「展望台で、待っているから」
ずっとーーその言葉を最後に、夢はそこで終わりを告げました。
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