4 / 30
第1章 舞い降りた復讐人
第2話 伝説の白竜
しおりを挟む[連合アークスター軍]の殲滅に関してさして時間はかからなかった。といっても、僕とルーシェは何もしてはいない。アヴァロンが全てをやってくれたに過ぎない。
辺り一帯に血の海が広がる。総勢にして2000名程いた[連合アークスター軍]も、残すところ一人のみとなった。
「さぁ、ゴルフ…後はお前だけだぞ?」
「や、やめてくれ…たた助け…」
ゴルフは手からバトルアックスを落とすと、腰を抜かして尻餅をついた。
「どうした、酷く怯えているじゃないか?」
卑屈そうな笑い声をあげ、竦みあがるゴルフを見下した。こんな日をどれだけ待ち侘びたことか…
「やっとだ、僕はこれでやっと…スタートラインに立つことが出来たんだ」
これまでの道のりを振り返ると、やはり辛いことの連続だった。50年という月日とはそれ程に長過ぎた。
幸せな50年ならまだいい。ただ僕の歩んできた50年とは、決して幸福と呼べるようなものじゃなかった。苦業、その一言に尽きる。
ずっと孤独だった。胸に抱いた復讐心だけが、僕の救いであり、唯一の生きがいでしかなかったのだ。
「分かるかい?僕はね、ずっとこの時を夢見て生きてきたんだ…お前を殺す瞬間を、ずっとね…」
やっと動き出した僕の歩み。もう誰にも邪魔はさせない。
「ただじゃ死なせないよ?くくく、ふはははははははは!!」
「ひ、ひぃいいいい…」
ゴルフの悲鳴が児玉したーーそんな時、
「ちょっと待って下さい、デイトナ様」
ルーシェがするりと僕と[ゴルフ]の間に割って入った。
「何だいルーシェ、邪魔しないでくれよ…今すごく良いところなんだ…」
「いや、このままこいつを殺すのも些か勿体無いかと思いまして」
「どういう、意味?」
「つまり、こいつにはまだ利用価値があると、そう言いたいわけです」
「例えば?」
「人質にしましょう」
ルーシェはサラりとした口調で言った。
「人質…成る程、それはいいな」
確かにこのままゴルフをグチャグチャにしてしまうのは簡単だが、僕の敵はこの世界そのものでありーーつまりは争いを生み出した奴らを1人残らず殺戮することにある。
そう考えた時、ドワーフ族の代表であるゴルフを利用するのも悪くない。[連合アークスター軍]だってゴルフをむざむざ見捨てたりしないだろうしな。
「妙案だよルーシェ、さすがだ」
「さすが?お言葉ですがデイトナ様、これぐらい考えつかないで何が世界征服ですか…と、そこの死体がデイトナ様のことを馬鹿にしてました」
ルーシェはそう言って、足元に転がった死体の一つを指差した。死体に責任転嫁とは恐れ入る。
「まぁいい、ルーシェ…褒美を与えよう。アヴァロン、嫌だと思うがルーシェに頭を撫でさせてやれ」
「……ワカッタ」
アヴァロンは嫌そうに呟いた。その傍らではルーシェがヨダレを垂らしながら息を荒くしていた。
「デ、デイトナ様…はぁ、はぁ、はぁ、本当に、アヴァロンの頭を撫でて…良いと?」
「許す」
「有難き幸せぇえええひぃやぁあああああああああ」
「………セイリテキムリ…」
許せ、アヴァロン。
「ということだゴルフ、お前はまだ生かしといてやる。お前はこれから僕のペットとなるんだ…いいな?」
「…は、はい…」
「返事が小さい。目ん玉ぐらいなら潰してやってもいいんだぞ?」
「す、すみませんでしたぁあああッ!!」
「うん、それでいい…」
よし、[連合アークスター軍]を脅す駒も用意出来たわけだし、次は…
「ゾロマンティス軍よ…次は貴様らの番だ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あぁ、殺したりねぇ…[ゾロマンティス軍]最高幹部であるそのリザードマンは一人、死体の山に腰をついてはそんなことを思っていた。
また平和ボケしていた[ルスタチア王国]の兵士じゃ全然物足りないと苛立ちさえを覚えていた。
[ゾロマンティス軍]最高幹部[アブゾーブ・グリル]ーー彼は魔族のみで構成された破壊活動集団[ゾロマンティス軍]の最高幹部として悪名を轟かせていた。
リザードマンと呼ばれる小竜族である彼にとっての生き甲斐とは争いこそが全てで、幼い頃から殺法を仕込まれ、呼吸をするようには殺戮を繰り返してきたのだった。
そうして今日、[ゾロマンティス軍]の先陣を切って[ルスタチア王国]に攻め入ったアブゾーブは敵のあまりの歯応えの無さに溜め息を零す。
「はぁ、何だよ…アークスター軍がいるかと思いきやどこにもいねーし、敵を発見したと思えばーー
「こんな雑魚ばっかだし!」と、アブゾーブは足元の死体達に向け唾を吐きつけた。
「あーあ、こんな事なら糞して寝てた方がマシだったかなー」
アブゾーブが空を仰ぎながらに呟いた、そんな時だった。
「あ、アブゾーブ様。また一人で先走って…」
息を荒くしてはそう言って、アブゾーブの前に現れた彼ーー名を[マント]。彼は[ゾロマンティス軍]の一兵士であり、アブゾーブの腹心と呼ばれる存在であった。
「何だよマルト、悪いか?」
「悪いとかそういう問題じゃないありません!アブゾーブ様、敵に囲まれたらどうするつもりだったのですか!?」
声を高くしてアブゾーブを心配そうに見つめるマントーーそう、マントは普段から勝手に突き走るアブゾーブに手を焼いていたのだった。
それはアブゾーブを思えばこそであり、アブゾーブを一戦士として尊敬しているからこそ。マントのそんな思いとは裏腹に、アブゾーブはいつも身勝手な行動を繰り返してきた。
「別にいいだろうマントよ、俺は強い。誰よりも強いのだから、敵に囲まれようが知ったこっちゃない。むしろウェルカムだぜ、俺は」
「アブゾーブ様ッ!!」
「あー、はいはい、分かったよ…俺が悪かった…これでいいだろ?」
アブゾーブはマントにはいつも頭が上がらない。それはマルトの自身を心配する気持ちを分かっているからでもあるが、何よりマルトの実力を高く評価しているからでもある。
というのも、マントは戦闘に関して言えばアブゾーブに遠く及ばないものの、頭が良く切れた。頭の回転が早く、戦局を見据えた戦いのできるマルトに、アブゾーブは幾度となく命を救われてきたのだった。
「分かればいいのです、分かれば…」
「まぁそうカリカリすんなって、帰って酒でも呑むか?」
「何を呑気な、今は戦闘中ですよ?それにアークスター軍の動きが些か静か過ぎる…何か妙だ」
「あーそれな、確かに変だ」
マントもまたアブゾーブ同様に、戦況に違和感を覚えていた。先遣隊の情報では[ルスタチア王国]の城下町に[連合アークスター軍]が進軍したとのことではあったが、それにしては酷く静か過ぎた。
ただ城下町内で戦闘が行われていたというのは確かなようで、城下町の方から黒い煙が、そして[ルスタチア城]からはいくつもの炎柱が上がっていた。つまり[ルスタチア王国]の軍隊と[連合アークスター軍]がぶつかったのは間違いない。
「戦況がどうなっているのか分かんねぇのかマルト?」
「今調査隊を城下町に向け送り出したところです。それまでどうか穏便にお願いしますよ」
「へいへい…」
ウンザリとした溜め息を吐いたアブゾーブはマルトに従っては、基地へ向け歩き出した。いつになったら刺激ある戦闘を楽しめるのか…そんなことを思いながらに、空を見上げたーーー
「ん、ありゃ何だ?」
「…どうかしましたか?」
「いや、あそこにドラゴンらしき影が見えるのだが」
「ドラゴン?馬鹿言わないでください。こんな場所に竜族がいるわけないでしょう?」
「いやいや、本当だって、ほら」
アブゾーブは空に向け指差した。マントはまたアブゾーブの変な世迷言が始まったと渋々アブゾーブの指差す方へと視線を向けてーー口をあんぐりと開けていた。
「ほらな、ありゃドラゴンで間違いないだろうよ?」
「え、ええ…確かに…」
アブゾーブとマントの視線先、遥か上空には確かにドラゴンが飛んでいた。
「…白い、ドラゴンか…しかもドラゴンにしてはやけに小さいな。マルト、お前何か聞いてるか?」
「いえ、僕は何も…そもそも何故こんな場所にドラゴンが…しかも白いドラゴンなんて聞いたことありません」
「そうなのか?白いドラゴンつったらあれだろ、神話に出てくる…白竜、だっけか?」
「それは伝説の三大竜王の一角、[時渡りの混沌の始祖竜ーー白竜]のことですか?」
「そうそう、それだそれだ」
「馬鹿らしい…神話の竜だなんて…」
「じゃあどうやって説明する、あれを?」
「竜族で間違いないはないでしょうが、色に関しては多分そういう風に見えるだけでしょう。光の錯覚かもしれません」
「…そうか、だよな」
アブゾーブとマルトは、しばらくそのままドラゴンを見つめていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「見つけた」
「え、何がですかデイトナ様?」
ルーシェは首を傾げて尋ねてきた。
「ゾロマンティス軍の…あれは、最高幹部の一人、アブゾーブか?しかも隣にいるのは…マルト」
忘れるわけない。奴らもまた[ルスタチア王国]を破壊した逆賊であり、逃げ延びた俺をしつこく付け狙っていた復讐対象なのだから。
「え、何ですかその最高幹部って?新しい性感帯か何かですか?」
「馬鹿、違うよ。ゾロマンティス軍の…偉い奴、って言えばいいのか?」
「偉い人ですか…どう、偉いんですか?」
「知るか。奴らにでも聞いとけ」
こうも簡単に見つかるとは思っていなかった。何故ならアブゾーブの隣にいるマルトという男は軍略家としてかなり有名だったからだ。
奴は50年前のーー時の遡る前の時代で軍略家として[ゾロマンティス軍]を幾度なく勝利に導き、遂には[ゾロマンティス軍]最高司令官にまでなった男だ。
そんな男がまさかノコノコと2人でやってきた…わけでもあるまい。大方隣のアブゾーブが突っ走ったのを連れ戻しに来た…そんな辺りか。
まぁどっちだっていい。俺の復讐対象に、どの道変わりはないのだから。
「アヴァロン、降りるよ」
「…リョウカイ」
アヴァロンは返事と同時に急降下、アブゾーブとマントの元へと猛直進していった。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄上等!私を愛さないあなたなんて要りません
音無砂月
ファンタジー
*幸せは婚約破棄の後にやってくるからタイトル変更
*ジャンルを変更しました。
公爵家長女エマ。15歳の時に母を亡くした。貴族は一年喪に服さないといけない。喪が明けた日、父が愛人と娘を連れてやって来た。新しい母親は平民。一緒に連れて来た子供は一歳違いの妹。名前はマリアナ。
マリアナは可愛く、素直でいい子。すぐに邸に溶け込み、誰もに愛されていた。エマの婚約者であるカールすらも。
誰からも愛され、素直ないい子であるマリアナがエマは気に入らなかった。
家族さえもマリアナを優先する。
マリアナの悪意のない言動がエマの心を深く抉る
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる