12 / 30
第2章 宣戦布告、デイトナ戦線
第8話 世界の中心に彼等はいた
しおりを挟む一晩明けた次の日早朝、デイトナ達はとある場所へと向かっていた。
そうして目的地に到着しアヴァロンから降りると、皆一様には天高く建造されたその塔を仰ぎ見た。
「ここはもしや…通信塔ですか?」
徐にマントがそう言ったのに対し、デイトナは頷きながら答えた。
「そうだよ。よく知っているね?」
「ええ、まぁ。過去に一度来たことがあったもので」
「通信塔?そりゃあ何だ?」
と、首を傾げたアブゾーブが呟いた。そんなアブゾーブを言葉を受けてルーシェは口を開いて、
「確か…電子結晶石に映像を飛ばす施設だとか何とか…でしたよねデイトナ様?」
「その通り」
「電子…結晶石?」
アブゾーブはやはり意図不明な様子であった。
「アブゾーブ様、電子結晶石とは本部の広間にデカデカと設置されていたあれですよ」
「おう、アレの事か!つまりアレに映し出された映像はここから発信されていたと…そういうことか?」
「ここだけだけではありません。世界各地の至るかしこにこの通信塔は建造されています。この通信塔はその一つということですね」
「ほう…知らなかったなぁ…」
と、心底感心しているアブゾーブの肩にルーシェは手を乗せて、
「まぁトカゲに知る必要はないけどな…と、デイトナ様が言いたそうな顔しています」
「そ、そうなのかデイトナぁ!?」
また始まった、とはデイトナは溜息を吐いた。
というのも、昨日からどうもルーシェとアブゾーブはこの調子でデイトナにちょっかいばかりをかけてくるのだ。
「そんなわけないでしょ?マント、お前からも何とか言ってくれよ…」
「ははは…アブゾーブ様はいつもこうなので…」
そう言ってマントは乾いた笑い声をこぼした。そんなマントの様子からは常日頃の気苦労が伺えるようだ…そんな事を思うデイトナである。
そうしていざ通信塔に入ろうとした時だった。
「あれ、デイトナ様。アヴァロンは連れていかないのですか?」
不意にルーシェが呟いた。そんなルーシェに対し、アブゾーブは訊ね聞く。
「おいおい、いくら子竜といってもこの建物の中は無理じゃないか?」
「分かってるわよそんなこと」
とルーシェ。つまりだ、ルーシェはこう言いたいのだろうとはデイトナは口を開いた。
「竜化状態を解除しないのかと、つまりはそう言いたいのだろ?」
「その通りです」
「「竜化状態?」」
アブゾーブとマントの声が重なった。聞きなれない言葉についていけない様子である。
「そうか、お前達は知らないんだったね。だったら折角の機会だ…アヴァロン、こっちへ」
「………ハイ」
アヴァロンはのしのしとデイトナの元へと歩み寄る。
「ではアヴァロン。竜化状態の解除、並びに人間形態の移行を許可する」
「………カシコマリマシタ」
アヴァロンが返事をしたーー次の瞬間だった。アヴァロンの体は発光し、目を覆う程の眩い光が辺り一帯へと広がっていく。
それは時間にして1秒に満たない閃光であった。
「お、おい…いきなり何だってーー……えぇっ!?」
アブゾーブはアヴァロンを見て仰天した。
そんなアブゾーブに続いてマントもまた俄かには信じ難られないといった様子で目を見開いて、
「デイトナ王子、こ…これは…」
「アヴァロンの人間形態。どう?」
「どうと言われましても…いや、強いていうならーー美しい、ですかね?」
「ふふふ、だってさアヴァロン、よかったね?」
「………うん」
呟いて、アヴァロンはもじもじと身を捩り、恥ずかそうには俯いた。またデイトナに助けを求めるようにはチラチラとは金色の瞳を送る。
そんなアヴァロンの仕草一切とは人間と比較しても劣りなく、姿形に関しては最早人間と言っても過言ではなかった。
これは副産物と言うべきか…[人間形態]でのアヴァロンは何故か美しい少女として完成された。意図してそうしたわけでもなく、初めからそうであったのだから驚いたのものだが…その理由について未だ不明である。
[人間形態]のアヴァロンについて…見てくれとして10代半ばよりも少し上といったところだろうか、飾りの少ないクリーム色のドレス姿の、スラッとした締まりの良い体型、腰につく程の艶やかな銀髪を靡かせるーーその姿はまるで神話上の女神の姿を彷彿とさせる。
それでいて12歳程の体型をしたデイトナよりもずっと大きく、またルーシェなんかよりもよっぽど女らしく…
「何ですかデイトナ様…人の体をジロジロと…」
「いや、別に…」
「嘘です!その目は絶対私を蔑んでいますよね?」
「だから違うってば…」
「ふん!別にいいですよ私は…私にはアヴァロンがいればそれで…あぁ、アヴァロン…愛しき私のアヴァロン…」
「………」
アヴァロンはルーシェの邪な視線を感じ、瞬時にデイトナの背後に身を隠した。
ちなみにだが、ルーシェはアヴァロンが[竜化状態]だろうが[人間形態]だろうが御構いなしにアヴァロンが可愛くて仕方がないらしい。
ただいくら[人間形態]となったところでアヴァロンはアヴァロン。やはり[竜化状態]時同様にルーシェを邪険に扱うことに変わりないみたいだった…
………
……
…
そんなデイトナ達のやり取りをぼんやりと眺めていたマントはふと、アブゾーブの異変に気が付いた。
「どうかされましたか?アブゾーブ様」
「いや、別に何ともないんだがな…ただ…」
「ただ?」
「…アヴァロン様の美しさに、見惚れちまってな…」
「は?」
マントは声を裏返して驚いていた。
「い、いきなりどうしたのですかアブゾーブ様!?」
「ん?何をそんなに驚いているんだマント?俺は何かおかしなことを言ったか?」
「え?いや…おかしな事とは言いませんが…ただあまりにアブゾーブ様らしからぬ発言だったもので、少々驚きました…」
マントがそう言うのも無理はない。というのもマントは過去に一度だけ、酒の席でアブゾーブが酔っ払った際にも「俺は女が大嫌いだ」と豪語するのを聞いたことがあったからである。
何でも昔女の尻を追い掛け回して痛い目にあったとかなかったとか…また何よりアブゾーブとは根っからの戦闘狂であり、その他の事には微塵も興味を示さないとは有名だったのだ。
「まさか…アブゾーブ様が…何ていうことだ…」
「いやな、俺は今初めて気が付いたのさ…この世に女神はいるということにな…」
「め、女神!?」
「そう、女神だ。だってよマント、よくよく考えてもみろ?この世の中に、未だかつてアヴァロン様程の美女が存在しただろうか?」
「いや、もしかしたら我々が知らないだけで、もしかしたらーーー」
「いや、いない」
と、アブゾーブはマントの台詞を遮った。
どうやら聞く耳を持たない様子である。
「しかもだ、アヴァロン様は何でも伝説の三大竜王の遺伝子を引き継いでいるというじゃねーか?それっていうのはつまり、最早アヴァロン様が神だと言っているようなもんじゃねーか?違うのか?」
「い、いや…違うと思われますが…」
「違わねぇよ!アヴァロン様は神であり、んでもってこの世界を統べるべき覇王のそれだ!俺がそう言ってんだ!認めろよマント!」
「は、はぁ…」
もう何を言っても無駄であるとマントは判断した。
そうして感慨深い雰囲気を醸し出しては腕組みをするアブゾーブを静かに見守って、
「マント…決めたぜ…アヴァロン様をこの世の覇王に君臨させようとしているデイトナ・カーストに、俺は全力で協力をする!!」
と、声高らかにはそんな宣言を口にしたアブゾーブに対し、マントはただただ呆れるばかりであった…
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その日、世界が大きく動こうとしていた。
その渦中に彼等ーーーデイトナにアヴァロンにルーシェ、そして新たに加わったアブゾーブとマントの五人がいることに、世界はまだ気付いていない。
「アブゾーブ、もうちょい右、いや、行き過ぎ行き過ぎ…」
「こ、こうか?」
「う~ん、まぁギリギリ入る…か、うん、大丈夫かな」
「あ、あの…デイトナ王子?」
「ん?何だいマント?」
「いや、我々は今から何を?」
「見てわからないかい?映像撮影だよ映像撮影、マントもボサッとしてないでほらっ!!」
と、急かすように言ったデイトナにマント渋々といって従った。
デイトナは4人がやっと入るか入らないか程の電子結晶石の前に皆を整列させると、自身は4人の前に立って、アヴァロンへと振り向いた。
「じゃあアヴァロン、よろしく頼むよ?」
アヴァロンはコクリと頷いた。
次にアヴァロンが電子結晶石に手を翳すと、電子結晶石が仄かには光り始めていた。
「じゃあ皆んな撮るよ?出来る限り悪そうな顔してねー」
「悪い顔って、おいおい…一体何が始まるってんだ!?」
そういったアブゾーブとは落ち着きのない様子であった。そんなアブゾーブに対し、ルーシェの視線が向いて、
「…これであなた達も私達の共犯者確定ね?」
と、ニッコリ笑った。
「それはどういう意味だ!?」
「いやね、デイトナ様はこれから世界に向けて宣戦布告の映像を飛ばすってわけ。その映像は世界中には点在するあらゆる通信塔を介して流れる…そして、そこにあなた達は映るってことよ。いくら馬鹿なあなたでもここまで言えば理解できたかしら?」
「つ、つまり…俺は…いや俺たちは世界全てを敵に回すってことか?」
「御名答、どう?怖気ついちゃった?」
「いや、むしろ逆だ…全世界が、敵…や、やべぇ…それ、最高におもしれーじゃねぇか!!」
「アブゾーブ様!何を納得しているのですか!?」
マントは慌ててデイトナへと詰め寄った。
「デイトナ王子!いくら何でも事が急過ぎるのでは!?世界を征服するというあなたの野望には僕も賛同致しました…ですが、現段階に於いて我々は僅か五人だけの組織とも呼べない集まりでしかない。軍隊も持たなければ国もない、それなのに世界に向けて宣戦布告?それはあまりにも無謀過ぎる!」
「無謀…か、ふふふ、それをお前が言うのかマント?」
「ど、どういう意味ですか?」
「いやね、僕の知っているマント・クシャトリヤという男はいつも不可能を可能にしていた。いくら無謀と呼べる闘いに於いても、最後にはいつも必ずお前が勝利を収めていた。僕の記憶するマント・クシャトリヤとはそういう奴だったんだよ」
「……それは昨日も言っていた、50年後の僕のこと、ですか?」
「そうだ」
「…デイトナ王子、僕は信じられない。50年後の僕が…ゾロマンティス軍の最高司令官となっつ世界征服を成し遂げているなんて…そんなもの信じられるものか…」
「ふふ、それが普通の反応さ。それに、僕は全部が全部信じてもらおうだなんてそんな大それた事は思っていない。ただ、お前にはそれ程の可能性があると…そう言いたいわけさ」
「……無茶苦茶過ぎます」
と、マントは意気消沈して呟いてはおずおずとデイトナから引き下がった。
「…僕はまだ納得したわけではありませんからね?」
「それでいいよ。今はまだ、ね…」
デイトナは意味深には呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
婚約破棄上等!私を愛さないあなたなんて要りません
音無砂月
ファンタジー
*幸せは婚約破棄の後にやってくるからタイトル変更
*ジャンルを変更しました。
公爵家長女エマ。15歳の時に母を亡くした。貴族は一年喪に服さないといけない。喪が明けた日、父が愛人と娘を連れてやって来た。新しい母親は平民。一緒に連れて来た子供は一歳違いの妹。名前はマリアナ。
マリアナは可愛く、素直でいい子。すぐに邸に溶け込み、誰もに愛されていた。エマの婚約者であるカールすらも。
誰からも愛され、素直ないい子であるマリアナがエマは気に入らなかった。
家族さえもマリアナを優先する。
マリアナの悪意のない言動がエマの心を深く抉る
処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!
秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。
民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。
「おまえたちは許さない」
二度目の人生。
エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。
彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。
1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。
「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」
憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。
二人の偽りの婚約の行く末は……
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる