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プロローグ
しおりを挟むグングニルーーーまずこの物語を語る上で、その天下無双の魔槍について話しておかなければならないだろう。
グングニルとは、こことは違う異世界の…確か『北欧神話』だとか、そんな感じの伝説に登場する魔槍の名称である。この槍は決して的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手もとに戻るみたいだ。また、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすとか何とか…
とにかくだ、めちゃくちゃヤバイ代物ということである。
そんな魔槍を俺はどうしてか任意にて召喚し、使用することができる。
……そこ、こいついきなり何を言いだすんだと、そう思っただろ?
うん、別に否定しないよ。この話を聞いた誰しもがそう思うだろうし、俺だってはじめはそんな事を思っていたさ。でもな、これは紛れもなく事実だ。
ん?そこまで言うんなら証拠を見せろと?いいだろう…
ではまず、俺は今とある平原にやってきている。緑地広がる綺麗な平原だ。見渡す限りの平原ほ見るもの全てを圧倒し、ここにくれば誰しも一度は日向ぼっこしたいと思う事だろう。
そういう俺も実はさっきまで呑気に日向ぼっこをしてました~…と、
こほん、とにかくこの話は置いといて、
見て欲しい、この平原にのさばる奴等の姿を。奴らは俗に言う魔物という奴で、魔王の強力な魔力を受けて生まれた醜きモンスター達だ。奴等魔物は人を見かければ見境いなく襲ってくる厄介極まりない奴等で、いわばこの世界の厄介者だ。奴等を目の前にしてオメオメと逃げて帰ってきた奴を責めるものはいても、倒して疎まれる奴はまずないだろう。
そんな魔物がだ、今まさに俺の姿を見つけるや否や猛スピードでやってきていている。
その魔物の名をレッドデビル。
最近ここいらの平原を荒らし回っているという猪みたいな奴だ。体毛は真っ赤で、口元と額に立派な牙を生やしたヤバイ奴。ちなみに体長は3メートルで。俺の体の二倍近くはあるだろうか?
冷静に言って、あんなものとモロと接触したもんなら間違いなく死ねる。この世界に於いてとにかく平凡な人種[ヒューマン]である俺とは、齢にして17歳という、まだまだ未熟な体つきーーー要するに、雑魚だ。
しかも、俺はつい先日故郷の田舎を出たばかりの新人冒険者。低級種の魔物ならまだ戦えるが、相手があの中級種の魔物レッドデビルとあっちゃう勝ち目なんてまずありはしない。
勝てる見込みのない勝負ーーー俺とレッドデビルを見比べた誰しもがそう思う筈。
実際そう思うよなぁ?なぁ?なぁ?
ところがどっこい、先ほども申した通り、俺には天下無双の魔槍[グングニル]を召喚、使用できる。今からそれをお見せしようと思う。
まずだ、魔槍[グングニル]は今現在この世界のどこにも存在しない。というのも、[グングニル]は神器と呼ばれる超絶に凄い槍だ。一介の冒険者が扱っていい代物でもなければ、仮に伝説の勇者様だろうが何だろうがその魔槍を拝むことはまずできないだろう。
それ程に神器というものはヤバくて、普段はこの世界とは別次元のーーー6次元にはあるとされる[聖域]の宝物庫にはあるという。そんな宝物庫の開ける事を許されているのはその[聖域]に存在する神と呼ばれる超越者と、そう…俺ぐらいなものだ。
まずは[聖域]へとアクセス、魔力を媒介に[宝物庫]の鍵をイメージする。ここまでの作業は1秒にも満たない一瞬の出来事にして、実際この場にいた者の目には一瞬にして俺の手元にこのグングニルが召喚されたように見えた事だろう。
そうだ、これこそが[神器召喚術]。
どこにでもいる普通で非凡だった俺に与えられた人知を超越した力である。その理由については俺自身よく分かっていない。
ただ一年前、故郷の田舎で父ちゃんと山に山菜を摘みに行った時にサボって鼻くそほじくって寝そべっていた最中にも目覚めた力だ。
最初、どうして俺なんかがとは思いはしたが、次の日にも現実を受け入れることにした。だってそんなんどうでもいいじゃん。意図してなく手に入ったんだからさ、ラッキーぐらいにしか思っちゃいねーよ。
超越した力ってのは絶え間なき努力と限られた才能者のみにこそ開花するものだと死んだ爺ちゃんはよく言っていたが、
うん、ありゃ嘘だ。
爺ちゃんよ、あなたは生前、俺に散々『お前のような見るからに平凡な奴は平凡に生きるのが一番。間違っても自分が特別だとは思わず身の丈にあった最低限の生活を送りながら死ぬのだ、ぶははははは!!』と言っていたが…どうもそうじゃなかったらしい。
爺ちゃんよ、天国だか地獄だかから見てくれているか?今まさに俺の手にあるこの魔槍こそがかの神器、伝説上の神話『北欧神話』にしか存在しないとされた武器、グングニルだ。
俺は今からこのグングニルをあの馬鹿デカイ猪野郎にぶち込んでやろうと考えている。
勿体無い?
知るか。別に使用制限なんかないわけだし、何回でも好きな時に召喚できるんだから勿体無いも糞もあるか。
とにかくだ、俺は平凡にして非凡な力、[神器召喚術]を持って呼び出したこのグングニルで、とにかく自由に生きたいのだ。
そう、何故なら俺には夢がある。それはここより遥か遠方で最果ての地にあるとは噂される癒しの大地[グランデリア]へと行って、一生のほほ~んと暮らす事。そんな細やかなる夢。
何が悲しくして底辺の労働者として一生を終えねばならない?俺は嫌だねそんなの。俺は自由がいい。好きな時に寝て、好きな時に遊ぶ、そんな夢のような生活を心の底から所望したい。
それが癒しの大地[グランデリア]では叶うという。何でも時間の流れがこの世界とは異なっており、緩やかと優しい穏やかな時間が永遠と流れているとかないとか、
うん、素晴らしい
そんな場所は俺にこそ相応しい。俺のような駄目人間にこそ行くべき、この世の楽園だ。
で、あるならばだ、まずはそこへ向かう必要がある。途中、魔王が住むという大陸を通る必要があるようだが…んなことこの際どうだっていい。魔王が歯向かうなら潰せばいいし、その為に冒険者となったわけだし、いざとなればこのグングニルで一撃のイチコロよ。
ただ、それまではこの力はひた隠しにする必要がある。何故ならこの力は無闇矢鱈に使用してはならない超越したもの。もしも誰かにこの力が暴かれようもんなら世界のパワーバランスが崩れるだろうし、もしかすれば俺は世界中の猛者供から疎まれ狙われるハメになるやもしれないからな。
用心に越したことはない…俺はこの力、[神器召喚術]を誰にも見られてはならない。このグングニルは最後の大一番、魔王がもしもこの俺に楯突いて時だけ使用することを許される天下無双の魔槍なのだから…
と言っても、それは明日から。とりあえず、今は俺に向かって絶賛猛突進中のレッドデビル君にこのグングニルの力をとくと味わってもらおうじゃないか?
「俺に向かってきたことを後悔しろよ~」
ここは誰もいない平原、故にグングニルを思う存分使用することが出来る。それもこれもこのレッドデビル君が見境なく荒らし回ってくれていたお陰で~…
こほん、
いやはや、何とめんど臭いことか。まさか、かの悪行高き魔物レッドデビルがこの地を荒らしていようとは知らなんだ!ついついグングニルの性能を再度確認したくてわざわざ遠回りしてこの平原に立ち寄ったわけでないことだけは先に言っておこうと思う。
「ステンバーイ…」
構えただけで伝わるグングニルの未知なる波動、殺傷性能。目標はレッドデビル。このグングニルを一度放ってしまえば後数百年この大地に多大な爪痕が刻まれることだろうが…許せ、これも世界平和の為だ。
「そりゃああああ!!」
そうして、俺はグングニルを投射した。グングニルは投射された瞬間にも形状をグニャグニャと変化させ、最適の形と変換されては目標を駆逐する。その威力に関しては俺もまだ全てを理解しているわけではない。ただ言えたとして、この世界に存在する誰であってもこのグングニルは防ぎきれはしないだろう。これはそんな魔槍なのだ。
「ふはははははははは!!最強!無敵!」
ついつい高らかに叫んでしまっていた。あまりの威力っぷりに鼻高々なのである。まるで本当に神にでもなったかのようだ。
投射されたグングニルがレッドデビルへを直撃した。その瞬間にも、巨大な爆裂音は発生し、辺り一帯を爆炎の渦へと包み込む。やりすぎたと思う反面、いやいやこれでこそグングニルだと恍惚な笑みを浮かべていたーー
そんな時だった。
「す、凄いわねあんた…」
「……え?」
声が聞こえた。女性の声だ。その声とは感嘆そうに、どうやら俺のすぐ隣から聞こえてきたようである。
き、気のせい…だよな?
俺は恐る恐る隣へと視線移して…驚愕した。
女がいた。見た感じ俺と同じぐらいの16歳そこらの少女、淡い銀髪のロングヘアーを靡かせた、冒険者の風体をした少女だ。かなりの美少女で…と、そんなことは今どうでもいい!激しくどうでもいい!
「お、おい…今の、見ちゃった?」
その美少女は目を輝かせ、無言で頭をブンブンと縦に降った。やばい、がっつり見られた様子。
何かを言い訳をと俺は口を開こうとして、先に口を挟んだのは美少女の方である。
「あんた、何者!?」
そんなことを尋ねてきた。やばい。
「お、俺は…駆け出し冒険者、的な?」
精一杯のセリフを吐いている。といってもこれは嘘じゃない、事実だ。俺は実際にも初心者冒険者で、ただ言ったとしてそこに[神器召喚術]という超越的な力が備わっているだけの、どこにでもいる普通の冒険者だ。本当だ、信じろこの野郎。
「嘘!貴方みたい人が駆け出しの冒険者だなんて無理にも程があるでしょ!?」
うるさい馬鹿黙れそんな目で俺を見るな、
「嘘じゃねーよ!激しく真実だ!」
「じゃあ今の何よ!?今ビュンッて何か投げたでしょ!?そしたら…ほら、あんな爆発が起きて…やばいわあれ。普通じゃないわ~」
「誤解だ!あれは俺がやったんじゃない!」
「…ふーん、へぇ、じゃあ何、勝手に爆発が起きたとでも言うわけ?」
「そ、そうなんだが?」
精一杯の嘘を口にする。いやいや、なんか変な汗が吹き出してきた。
「…ふふ、ふふふ、ふはははははははは!!!やばい!あんた超面白い!!」
「は、はい!?」
面白いだと!?なんだこの女!?何を言いだすんだ!!
「ふふ、まぁいいわ。今のは見なかったことにしてあげる…今は、ね?ふふふふふ…」
暗黒な笑みを浮かべて少女、手を差し伸べてきた。
握手しろと、そういうことか?
「私はマルシャ。マルシャ=クレーヌ、冒険者よ!あんたも冒険者なようだけど、どう、一緒に近くの街まで行かない?行き先からしてあんたもそこに向かってたんでしょ?」
少女ーーマルシャはニヒルな笑みを前面にそんな提案を持ちかけてきた。
「お断りだ!」
と、叫べるものならそう叫びたかった。でもそれが出来ないのはこの少女、マルシャに俺の秘密を知られてしまったが故にだ。
『くそ、何でよりにもよって初っ端からこんな展開に!?』
気が重い。重すぎる。
渋々マルシャと握手を交わして、ゆっくりとマルシャの顔を覗いた。
「何だよその顔?」
「べっつにぃ!?クスクス」
くそ、こいつマジムカつく。人の秘密を知ってそれで弱味を握ったような気でいるタイプに違いない。
「…で、あんた名前は?」
マルシャが徐に尋ねてきた。俺は偽名を使おうか迷って、これ以上ヘマを踏んではならないという恐れからそれをやめる。
「バンキス…バンキス=トールだ」
「そう、じゃああんたの事はこれからバンキスと呼ばせてもらうわ!!よろしくね、バンキス?」
マルシャはそう言って俺の手を引いて駆け出した。やぶさかだが、今はこいつに従うしかない。
『くそ…何と弁明しようか…』
俺はそんな事を思いつつも、ただマルシャに連れられるがままに足を急がした。
まさかこれが、俺の人生を揺るがす災厄の始まりであるとは、この時はまだ知る由もなかったのだった。
後の俺はこの時を見て何を思うのか…それをまだ、俺は知らない。
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