能ある冒険者は、その内に秘めたる魔槍”グングニル”を隠す -北欧神話伝来の魔槍グングニルを与えられた俺という最強の存在の苦難の旅路-

泥水すする

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第1章

第1話 冒険の始まりは憂鬱で

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「で、結局あれは何だったの?」

 不意にマルシャがそんな事を尋ねてきた。
 俺は返事に困って、ただただだ黙っていた。

 今は近場の街へと向かっている道中で、明日にでも街へ辿り着くだろうといったところである。日も暮れたし今夜をここで野営しようというマルシャの提案の元、今現在俺たちは平野の大地では焚き火へとあたっている。

 そんな折にもマルシャが昼の出来事について尋ねてくるもんだから、俺は反応に困っているわけ。

 とりあえず、適当な返事をとは開口一番、

「いやな、本当にあれは俺の力でも何でもないんだ」

 とか言ってみたりした。無論そんな言い訳が通用するわけないだろうことは重々承知だ。その証拠にマルシャの疑念に満ちた瞳は飛んできている。まるで「俺は変態じゃない!」と豪語するパンツ一丁の男を見るような、そんな瞳をだ。

「へぇ~、じゃあ一体あの場が何であったか…教えてもらってもいいかしら?」

「それについてだがな…うん、実は俺にもよく分からん」

「ほら、またそうやってはぐらかす!怪し過ぎるっての!」

「ば、馬鹿野郎!怪しいも糞もあるか!!それによく考えてみろ!お前の目には今の俺のどこにそんな力があるように見えるんだ!?俺には俺がただの平凡な駆け出し冒険者しか見えないし、実際そうだろうが!?」

 と、俺は必死に訴えてみた。そして立つと、全身を隈なく見てみろ、とはくるりとターンしてみせる。

 今現在の俺の服装はと言うとボッロボッロの汚い布服に、武器はおろか防具1つさえ身につけてはいない。あるのは大した金も入っていない財布とか煤けたパンツとか下着とかを詰め込んだリュック、ただそれだけだ。

「むしろ問いたい、こんな冒険者とも呼べないような薄汚い俺を見て、お前は何を期待しているんだ!!」

「…ま、まぁそうなんだけどさ…あんたそこまで自分を卑下にしたりしてさ少しはプライドってものはないわけ?」

「ない!」

 俺は即答した。もちろんそんなものはどこにもないし、そもそもプライドっていうものは自分に自信のある奴にこそ芽生える見栄のようだと俺は思っている。

「あいにくだが俺には見栄を張るような実力も自信もないし、言っちゃあ糞雑魚ナメクジだ。認めるよ、俺はこの世に存在するどんな存在よりもカスであると~」

「あんた、馬鹿なの?」

 マルシャは呆れたように呟いた。呟いて、顔にかかった長い銀髪をかきあげた。その仕草には何処ぞのお姫様の如し気品が溢れていた、不覚にもみとれてしまっていた、不覚だ、ほんとにそう思うよ…何が悲しくて俺はこんな超絶美少女と一夜を明かしているんだ…自分の今の姿とマルシャの姿を交互に見て、自然とため息を零していた。

「な、何よいきなり落ち込んだりして…」

「いやな、俺とマルシャの天と地とも呼べる外見の違いに、この世に神はいないのだとつくづくそう思ったわけだよ」

 そうだ、この世界に神など存在しない事を俺は知っている。実際にはいるが、それは6次元という遠くかけ離れた世界にいる存在なのだ。仮に神に近い存在がいたとして、それは俺だ。魔槍グングニルを自由自在には呼び出せる俺とはこの世界に於いて神に等しき力を有しているわけだが…

 見よ、この見てくれを。冴えない面に、貧乏感丸出しの姿格好、大してマルシャとは冒険者と言うがその見てくれは何処ぞのお姫さまのようじゃないか。その容姿もさることながら、姿格好1つとって高級感漂う装備を身に纏っている。見た感じ、マルシャの装備はシルバー製の武具のそれだ。シルバー製の武具とは駆け出しの冒険者にとって喉から手が出るほど欲しい最高級品である。これから先俺が身につける事があるのだろうか定かではない凄く装備を、このマルシャは既に身に纏っているというわけだ。これを疎まずして何という、俺とマルシャの差とは神の悪戯としか言いようがないだろうが。

「てかマルシャ、お前も駆け出しの冒険者なんだろ?それなのに何だその見てくれは!?俺にはお前が超絶凄い騎士様にしか見えないんだが!?」

「い、いやバンキス、あんた自分を存分に卑下したと思ったら今度は何、私をそんな褒めちぎったりして…何か考えでもあるわけ?」

「だからそんなんじゃないって!俺のどこにそんな賢さが垣間見える!?お前の目は節穴か!?そうなんだな!?」

「はぁー、もういいわよ。あんたの事は何となく理解して来たわ…さてはバンキス、あんたかなり頭の弱い子なのね?」

「否定はしない。が、そんな目で俺を見るな。もっと傷つくから」

「あー、はいはい。わかったわ。もうあんたを可哀想な目で見たりしないから安心しなさい」

 と、マルシャはクスリと笑う。その笑みを見て、俺はホッと胸を撫で下ろした。

 ここまで自分の無能っぷりを見て、昼のあの力が俺が齎らしたものではないと理解してくれたことだろうよ。いやそうじゃなきゃ困る。ここまで散々自分を自分で傷つけたんだ…そうじゃなきゃ俺が報われね…

 俺は再度ため息を零して、話題をマルシャへと逸らした。

「ところでさっきも言ったが、お前は何者なんだ?駆け出しの冒険者と言っていたが、あれは本当か?」

「ええ、本当よ。ただ実力だけで言えば、どこぞの馬の骨よりはあると自負しているわ。だって私、これでも勇者の血を引く正統なる血筋だもの」

「ゆ、勇者の血筋だと!?」

 驚いた。通りで並々ならぬ気品があるわけだ。それに勇者の血筋となれば、その潜在能力も大いに凄まじいものだろうよ。

「因みに、その勇者の真名は何と言うんだ?」

「え?そこ聞いちゃう?聞いちゃうわけ?」

 途端にだ、さも聞いて欲しくてうずうずした様子をみせるマルシャ。さてはこいつ、ずっと自慢したかった口だろうが!?

「いや、やっぱいいや。聞いたところで俺には関係ないしな」

「な、何よ!?自分から聞いておいてなかったことにするわけ!?あんたそれでも冒険者なわけ!?」

「はっはっは~、お前の中で冒険者がどんな位置付けにあるかは知らんが、あいにく俺は駆け出しの残念な冒険者だ。別にお前が勇者だろうか何だろうが知ったこっちゃないと今この瞬間にも悟ったのだよ」

「ふん、あんたやっぱり馬鹿ね!?」

「ああ、馬鹿さ。大馬鹿野郎さ」

「く、くそ…自分を馬鹿だと認めている奴程やりにくいって誰かが言ってたけど、全くその通りだわ…で、でもいいわ、馬鹿なあんただろうが教えてあげるわ!耳をかっぽじってよく聞きなさい!」

「いやだから言わなくていいから!?」

「五月蝿い!私が言いたいの!自慢したいの!悪い!?」

「……いや、悪かねーけどさ」

 こいつ、やっぱかなり面倒くさいタイプだ。街に着いた早々にも離れるべきだろうな。

 と、俺のそんな思いとは裏腹にだ、マルシャは立ち上がり胸を張っては高笑いを上げ、

「あっはっはっは、聞いて驚き慄きなさい!?この私こそ、かの終末戦争に於いて武功の限りを上げた伝説の勇者ハイトリック=エストバーニ様の生まれ変わり、その人よ!!」

 そんなことを口に出していた。

「ん、終末戦争だと?それってあれだろ?確かお伽話の…」

「はぁ?お伽話って…あんた本当に田舎者なのね。いいわ、教えてあげる。終末戦争とは、かつてこの世界を滅ぼそうとした魔王ミナミが起こしたとされる魔王軍と勇者軍との一大決戦で史実なのよ?その終末戦争に於いてよ、私の祖先である勇者ハイトリック=エストバーニ様は勇敢にも魔王軍へと立ち向かったそれはそれは凄い勇者様だったんだから!」

「そ、それは凄い…」

 驚いた。ただ驚いといて、ふと、疑問がよぎる。

「でもよ、そんな凄い血筋のマルシャがどうしてこんな辺鄙な土地にいるんだ?大体これから向かう[ルミナス街]だって冒険者にとっては下の下、俺みたいな駆け出し冒険者たちが集うギルドしかないんだぞ?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたわね。確かにこんな土地に私がいるなんておかしな話よ。でもね、それにも理由があるの。というのも私、ついこの間までお師匠様の元でずっと修行に明け暮れていたの。あぁ~、思い出すだけでも辛い日々だったわ、何度挫けそうになったことか…」

 いやいやそこまでは聞いちゃいねーが…

 でもそうか、確かに修行してたんならこの土地にいるのも無理ないか。大方そのお師匠様ってのがこの土地の人物だったってところだろう。で、晴れて修行を終えたマルシャは駆け出しの冒険者として成り立ったと、つまりはそういうことか。

「でもよ、だったらお前はもっと先の街に向かった方が良いんじゃない?ルミナス街なんて通ったら遠回りするだけだぞ?」

「え?いいのよ別に。いやね、はじめはそのつもりだったし?だって私伝説の勇者の血筋を受け継ぐものだし?私程の人物ならデカい街の有名なギルドに言ってそれ相応の仲間を作るのが妥当だし?」

 うん、間違っちゃいないが何かこいつの鼻にかかった言い方だとかなりムカつく。抑えろ俺、今はそんなことを言っている場合じゃない。

「じゃあ何でまたルミナス街なんかに行くんだ?何か用でもあんのか?」

「ないわね」

「はぁ?じゃあどうして…」

「途中であんたを見かけたから」

「……へ?」

 いかん、口から変な声が出た。てか待て、今こいつ、何て言った?

「すまん。俺の聞き間違いだと思うが…今、お前『俺を見かけたから』とか、そんな類いの事言ったのか?」

「ええそうよ。何、なんか私おかしなこと言ったかしら?」

「ああ、飛びっきりおかしなセリフを吐いていると俺は思うよ」

 原因はあれか?やっぱり昼に見せてしまった俺のグンニグルが原因なのか!?でも待て、俺は確かに自分の無能性について存分に言い聞かせた筈だぞ!

「あ、ははは…じゃああれだ、明日にはルミナス街ではない方へと旅立つわけな?いやぁ~、なんか悪いな付き合わせちまって、あはははは!」

「はぁ?何言ってんの?私もあんたと一緒にルミナス街に行ってあげると言っているのよ?」

「いやいやいや待て待て!何故そうなる!?あれか、昼間のあれか!?いやだからあれは誤解だと何度も弁解しただろうが!?お前がもしも俺に価値を見出していたとするならそれは激しく間違いだ!断言する!お前は間違っているぞ!」

「んなことあんた何かに言われなくても分かってるっての。確かに始めはあんたももしかしたら凄い力を持つ人物かと思ってたけど、何かあんた列記とした正真正銘の無能みたいだし?」

「そうだ!その通り!俺は正真正銘の無能!どうしようもねぇクズ野郎だ!神に誓ったっていい。だから、」

「でもさ、私思ったの。あんたの力が間違いであったとしても、先に声をかけたのは私だし、勝手に勘違いしたのは私だし?なんかそれもあんたに悪いかな~って。だからよバンキス、これも何かの縁だし、あんたを私の仲間第一号に加えて上げる!特別よ特別!?伝説の勇者様の生まれ変わりであるこの私の仲間に入れるだなんてこんな光栄なことないんだからね!?」

 と、目の前のマルシャはニッコリと微笑んだ。

 え、嘘なにこれ?何この展開?

「え、遠慮しとくよ~なんか悪いしさ~」

 冗談だと言え!お願いします!

「何よ、遠慮することなんてないわ!あんたがいくら無能だろうとね、私がいればあんたの無能性ぐらい余裕でカバーできるんだから!楽勝よ楽勝!あんたは私の身の回りの世話をするぐらいで充分だから安心しなさい!いざとなれば私が守ってあげるからさ…ぶはははははははは!!」

「い、いやだから俺の話を聞いて、」

「はいこの話お終い!今夜は遅いしもう寝るわ!火の始末はよろしくね、バンキス?」

 そう言い残してマルシャは寝始めた。即落ちだ。寝ると宣言した次の瞬間にも寝やがった…こいてどんな神経してんだ!馬鹿か、やっぱりお前は馬鹿なのか!?

「うわぁあああああああ最悪だぁああああああああああ!!」

 俺は叫んだ、その無意味さに頭が痛い。頭痛が痛いとはこの事だろ。今はまじそんな感じだ。

 これが夢なら覚めてくれーー頭を激しく小突いてみる。うん、クッソ痛い!頭痛がする!頭痛が痛い!痛いよ!

 こうして、俺に仲間が出来た。最悪の展開だとは、この時の俺でも理解できたよ。


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