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第3章 波乱の幕開けとデスゲームの狼煙
3話 ラクシャータ王女
しおりを挟む何やかんやで、俺とグインはとある扉の前までやってきた。
その扉はかなり立派な造りとなっていて、他のものとはまるで異質。
また扉の前には二人の屈強そうな兵士が常駐しているようで、その周辺にも異様な程の兵士がいた。
アルテマの記憶でも分かる通り、俺はこの部屋の正体を知っている。
知っていて、俺は息を飲んだ。
「グイン、ここって…」
「ん、ラクシャータ様のお部屋だが?」
「いや、そんなこと分かってる。分かってるんだけど、また何で…」
「何でも何も、たけし、君はラクシャータの剣ではないのか?目覚めたとあれば直ぐに訪れるべき場所であろう」
「…はい、その通りです」
グインの言う事は最もだ。
目覚めてまず来るべき場所と言えばこの場所、ラクシャータ王女のいる部屋。
もちろんそれはラクシャータの剣でもある俺の責務であると同時に、俺は1週間という長い期間守るべき彼女の側を離れていたことに対する謝罪を行う必要があるわけだ。
扉の前に立ち塞がる兵士は俺の顔を見るや否や会釈、会釈して、口を開いた。
「ご無事で何よりです、たけし殿。ささ、ラクシャータ様がお待ちしております」
そう言って、兵士はニッコリと笑った。
他の兵士も同様に、俺を顔を向ければきっちりとしたお辞儀を交えて、その顔は優しい笑みを浮かべていた。
「たけし、君は本当に慕われているな」
兵士の反応に戸惑う俺の耳元で、グインはそっとそんな事を口ずさんだ。
何だがむず痒く、恥ずかしい気持ちで一杯だ。
俺って、いやアルテマって、本当にすごい奴なんだなって、そう思った。
「グイン」
「ん?」
「実は俺って、結構すごい奴?」
「……ふふ、自分でそれを言うのか?」
確かに、言えてる。
「自分でもよく分からないんだ…俺って、一体全体何だろうなって。だって今回の事は明らか俺の失態だろ?そんな失態を知って、皆んななんか気持ち悪いぐらい優しいし…」
俺がそう言った瞬間にも。近くでそれを聞いていた兵士、またグインは可笑しそうには一斉に笑い出した。
『あれ、俺何か可笑しなこと言った!?』
意味もわからず呆然としていた俺の肩をグインは叩いた。
「何を言っているんだたけし?それは今更過ぎると言うものだぞ?君は大した奴さ。それは皆んなも知ってる。それに、君はその失態を自分の力で挽回したではないか?皆もその事は承知済みさ。何より、その肩の勲章が何よりの証拠だしね」
包帯の巻かれた俺の肩を指さして、グインは言う。
『勲章』であると。
兵士の敬意ある視線はどうやらその事を踏まえて、ということらしい。
ただ、俺の気持ちは晴なかった。
「グイン、違うんだ。俺は…」
と、俺が言い切るよりも先に、グインの言葉は重なる。
「違わないさ。君は命を落とした兵士の仇をとってくれた…そうなんだろ?」
その瞬間、ギクリと心臓が高鳴った。
また激しい身震いと、全身から冷や汗がドッと湧き始めていた。
『グイン…お前、何故その事を…』
俺は確かに鍛冶屋で何があったかを話した。
話したが、今回の事件の犯人、アルバート・ジックレイを殺めてしまった事実はひた隠しにしたままであった筈。
…なのに、何で、俺が仇をとったということになっている?
意味が分からない…何で…
「…言わずとも顔を見れば分かったさ。だって、君はそういう男だろ?我が身に不幸を背負ってでも大義を成す。ラクシャータの剣たけしとは…そういう男だ」
わかりきっているとは言わんばかりに、グインはそう言って、優しく笑っていた。
どうやらグインは都合のいい解釈をして、勝手に勘違いしてくれているらしい。
まさか表情でそこまで暴かれてしまうことに心底驚いた。
[スキルブレイク]でアルバートの存在を消したところで、俺が人を殺めたという事実は消せなかったようだ。
「はは…は…そう、なんだよ…」
真実は話さない。話せない。話したくない。
笑えなかった。
笑っていいのかも分からずに、俺はただ戸惑うようには目をパチクリとは閉じたり開いたりを繰り返していた。
「…確かに私は捕縛してほしいと頼んだが、君の傷を見て察したよ。そんな生易しいことが許される相手ではなかったんだろ?それなのに私は…考えれば分かることだったのにな…」
「……」
「…でも、君はやり遂げた。やはり、大したやつだよ」
「……」
「…何だ、その浮かない顔は?ラクシャータ様に会うのを緊張しているのか?」
「いや、そうじゃないけど…
「そうじゃないけど?」
そう尋ねたグインに対し、俺は喉まで出かけた真実をグッと堪えた。
堪えて、何事もなかったようには微笑んだ。
「……いや、何でもない。さ、行こうか、グイン」
思い出せ俺。
こうなる事は分かってたことじゃねーか。
例え真実を隠してでも、例笑みをまやかしの存在でも、もう後戻りはできない。
虚実に塗れてでも、俺は突き進むしかない。それしかない。
そうだろ?
そうして俺は扉に手をかけた。
手をかけて、ラクシャータのいる部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋の中央、豪華な食事の並べられたテーブルの前に、彼女は座る。
「たけし!!」
俺の姿を見るや否や、キラキラとした目を輝かせて、俺に真っ直ぐとした視線を送る彼女こそ、俺の忠誠を誓った主人ーーラクシャータ・ラクスマリア王女。
「お久しぶりです、ラクシャータ様」
俺は身を正して、深々と頭を下げた。
ラクシャータの剣としての身分を弁えて、俺はラクシャータと向き合う。
それが俺という嘘つきの使命ならば、俺はいくらだって偽りの自分を演じることができるのだ。
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