剣と魔法とデスゲーム -転生先の異世界でデスゲーム勃発!?絶対に死にたくねぇ…だったら敵の能力を奪って生き残ってやる!-

泥水すする

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第4章 騒乱と死闘

10話 絶望の使徒

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 心の中に、殺意と憎しみだけで構成されたドス黒い感情が次から次へと湧き出していた。
 それはまるで氾濫した濁流のようには止め処なく、津波のようには俺のその他の感情を一つ、また一つ、流し、破壊し、激しく呑み込んでいく。


 そんなドス黒い感情を従うことでしか、俺は俺としていられなかった。俺をまだ俺らしく足らしめるもののが、まさかそんな感情でしかないだなんて自分でも信じられなかった。


 ただ思った。別にそれでもいいと。
 最早元に戻る必要もないと、そう感じていた。
 二度と優しさなどいらねぇ、二度と愛情なんか抱かなくたっていい、それらを失うのがこんなにも辛いと言うのであれば、鼻からそんなもんない方がずっとマシだ。


「待ってろ、ラクシャータ…お前だけは、絶対…」


 それでも、今あるものだけは絶対に守らなくてはならないと、そう思う。
 俺がどうなろうが、どんだけ悪に染まろうが、ラクシャータの命だけは救わなければならない。救えなかったグインの命を乗り越えてでも、それだけは絶対に曲げたくないと、心に強く誓った。
 そして、ノブナガという仇敵をこの世から排除しなければならないと、それはラクシャータの命を守ることと同じくらいには今の俺を振るい立たせていた。


 もしも俺がラクスマリア城を離れなければ、こんな事にはならなかったかもしれない。ラクシャータのつるぎとしての責務を第一に、勝手な行動を起こさなければグインを死なせずに済んだかもしれない。


 ただそうは言っても、今更何を考えたって後の祭り。そうして、俺はラクスマリア城へと辿り着いた。ただ燃え盛るラクスマリア城を目の前にしては、あらゆる後悔すら遅すぎるように思えて仕方がなかった。


 外壁はメキメキと炎に焼かれ落ちていき、太陽を反射すれば神々しく光っていた真っ白な壁色とは、灰がかり黒くくすむ。焼け焦げている。


 そうしてまたこんなにも荒れ燃え狂ったラクスマリア城であるのにも関わらず、悲鳴一つさえ聞こえず、逃げ惑う人間は1人としていなかった。それはまるで「最早誰1人として生きてはいないぞ」と神に言われてるようで、尚のことを俺の感情を逆撫でにしていた。


 外にいても異常なほどの熱気に包まれているのだから城内の空気はこれの比ではないだろう。
 息を吸えば肺が焼けるだろうか、はたまた充満した煙を吸って呼吸不全になるかもしれない…


『知るかそんなもん…』


 俺はラクスマリア城門を抜けて、城内へと駆け走った。
 城内へ入って、辺りを見回す。やはり、誰もいない。人っ子一人いなかった。
 年がら年中城内をせっせと駆け巡っていたメイドの姿も、ぞろぞろと隊列を組んで廊下を行進していた兵士の姿も、太々ふてぶてしい表情を作っては気だるそうには歩く大臣の姿も、#
 

 ということは、つまりはそういうことだろう。
 彼等は最早もうってことだし、彼等だけ生き延びているってことはまずあり得ない。
 生存者がいないとなれば、本当に何もかも終わってしまったということである。このラクスマリア城をはじめとして、ラクスマリア王国の栄華も、全て。
 それを見越してのノブナガの行動だったとするならば、ノブナガの国崩しは見事に成功したと言える。



 でも分からない。
 情報の段階では襲撃は3日後とされていたはずなのに、何故か2日前である筈の今日にまで繰り上がっていた。
 それにだ、まさか俺がラクスマリア城を離れていたたったの数時間ばかしでこの有様だ。明らかに事の運びがスムーズ過ぎる。
 それを踏まえ…これはまだ憶測の域をでないわけだが、今日この日に襲撃された事実とは、ある程度練られていた…ということか?


 ノブナガの目的はどこにあるのかは未だ謎のままーー俺は火に包まれた城内を突き進んでいった。
 立ち込める熱気と煙に頭がどうにかなってしまいそうだったが、それでも意識はハッキリとしていて、身体的にも大した異常は見られない。
 

 火事の場合、呼吸器系統に火傷を負うという事実は生前の知識から知っていたこと。また火事より発生した煙とはかなり有毒ガスを帯びており、たちまち体の自由を奪い、火は酸素を燃やす為呼吸不全になる事もあるという。
 でもそれはない。つまり、俺の体はそれらに対応することができる?
 要するにだ、最初アンヘルの言っていた俺の体が異世界に適応し得る特別仕様になったってことは、そういうとこにまで及ぶという事実を何よりも証明しているのでは?
 

 もしそうだとしたら、俺は俺が思っていた以上に人間からかけ離れてしまったということで、それは最早人外だ。


『そうかよ…この異世界ベルハイムにやってきたその瞬間から、俺に人としての在り方なんてそもそも無意味だったって…つまりはそう言いたいのか、アンヘル…」


 そこまでして、デスゲームに参加させて、アンヘルが俺に何を望んでいたかなんて分かるはずもない。
 大体そんな事分かる必要もないと決め込んでいただろ俺。ただデスゲームに参加して生き延びることだけを考えればいいと、この異世界ベルハイムにやってきた時にも決意したはずだ。


『俺はこの異世界ベルハイムで、第二の人生を送る』
 そう、固く決意したはずだ。


 新しい人生を得られただけマジだと、あの時からそんな楽観的な思考のままには、今日此れまでを送ってきたんじゃないか、俺。
 それは別に騙されていたからとか、そんな事は関係ない。
 そもそも何一つ騙されてなんかいない。
 俺がただだという、どこまでも無知で愚かだった俺が悪いんだ。


 恨むなら自分を恨むしかない。
 異世界ベルハイムで生きる権利を許されたその瞬間にも、その事実を認め、納得して、今日までを過ごしてきた俺にしか落ち度はないんだ。
 そうだ、そうだよ…全ては俺が悪いんだ…この俺が…


『デスゲームに生き抜く事とは別に、普通の人間が求めるような在り来たりな幸せを求めてしまった時点で、間違っていたのは俺だと、早々に気付くべきだったんだ…』


 
 それに気づけなかったからこそ、俺はこんなにも喪失感に虐めらている。変な責任感を抱いて、ラクシャータのつるぎとして在り方だなんて下らないことに執着してしまったのだ。


 今からでも遅くはないかもしれない。
 今からでも全てを捨てて、なかったことにして、アルテマに成り代わった事も、このラクスマリア城で過ごした事実を全てを忘れて、逃げ出してしまえばいいのかもしれない。


 だってよ、俺がこのラクスマリア城で過ごした期間なんてほんとたったの数日だったじゃねーか?
 生前に生きた17年間という月日と比較しても、そんな数日はほんとあっていう間で、飯食っでウンコしてパソコン眺めて寝て、また飯食ってウンコしてパソコン眺めてはまた寝て、ただそれだけの生前の数日と、この異世界ベルハイムで過ごした数日に何か違いはあったのか?


 ただそこにグイン・アルマーニという綺麗で、頼もしくて、信頼できる仲間がいて、ラクシャータっていうほっとけない妹のような王女様がいて、そんな彼等とたった数日過ごしただけじゃないか…


 確かにアルテマの記憶があるからにそんな数日とてかなりの密度ある時間に思えたけれど、それはただ俺がそう思っているだけで、体感にすれば大した時間でもないし、俺の生き方を揺るがすような出来事でもなかったように思えるし…いやそうだ!
 大したことなんかじゃない。俺が傷つくようなことでもない。責任を負うようなことじゃない。のことなんか、ほっとけばいいじゃないか!



『それなのに…どうして…涙が溢れてくるんだ…』


 何でこんなにも胸が苦しいんだ?
 何でこんなにも彼等が恋しいんだ?
 どうして俺は逃げださないんだ?
 どうして俺は今でも彼等の影を追っているんだ?



 分からない…全然分からない…
 誰か…誰でもいい、知ってるなら…どうか教えてくれ。
 


 どうして俺は、止まれないんだ…















「…よお、お前が…ノブナガか?」


 一気に駆け上がった階段、天井の崩れ落ちた階段を過ぎて、廊下へ。これまた崩れた瓦礫の隙間を通り、限れた廊下を掻き分けたその先の玉座の間、ラクシャータがいるとされたその玉座の間で、俺はを見た。

 
 本来ならラクシャータが座っている筈だった立派な玉座の椅子に腰つかせ、俺が言葉を吐きつけた次の瞬間にもうつむかせた顔をゆっくりとは持ち上げて、俺に眼光を飛ばしている。
 

 俺と同い年か、過こし上ぐらいに見えるは、まるで女の子のようには綺麗な容姿をした青年だった。
 顎ほどまで伸びた黒髪に、猫目と呼べる切れ長のツリ目から輝緑色の瞳、黒いマントを羽織う。手には抜き身の真っ黒な長刀が握られていて、それを杖のようには地面に着かせる。
 
 
 見た事もない奴だった。
 だからこそ、が今この場にいることの異常性は俺が充分に理解しているつもりだった。
 最早問うまでもなかったかもしれない。
 青年が誰で、何でこの場にいるかなんて分かりきっているのだから、わざわざ口にするまでもなかったなと、そう思った。


 青年は俺の顔をマジマジと覗くと、玉座にひじをついては首を傾けた。その姿はどこまでも太々ふてぶてしく、まるで自分が王様であるかのようには振る舞う素ぶり。


「やぁ、遅かったネ」


 次には邪気のないような声がそう言うと、卑屈そうにはケタケタと笑い出した。
 笑って、「そうだよ、僕が…ノブナガだ」と続けた。


 
 隠す様子もなく、は自身がノブナガである事を認めた。
 別に分かり切っていたことだったが、改めて名乗られるとやけに腹ただしかった。
 俺は玉座の間を進むと、ノブナガへと近づく。
 近づいて、ノブナガを強く睨んだ。
 その瞳にあるのは単なる憎しみでしかなく、絶望の使徒と化した俺の細やかなる敵意でしかない。
 敵意を露わに、俺は剣を抜いた。それこそが俺がここにきた目的であり、ノブナガの前に姿を現したことの意味。復讐に燃えた俺という、化け物だったのだ。



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